女子高生にして野宿の魅力に取り憑かれ、以降現在に至るまで、野宿をライフワークとして続ける現ミニコミ誌「野宿野郎」編集長加藤千晶さん。
その処女作、「野宿入門」を読んで何かが開眼してしまったので、紹介しまーす。
別に新刊というわけでなく、筆者の著作としても古いものなので、知っている人は多いんでしょうね。急に野宿というものに興味が出たので買ってみたのです。
本書はHow To本というよりは、野宿経験豊かな筆者による、エッセイとして読むのが適切なのかもしれません。2ページに1回はクスっとさせられる面白さに満ちています。
でも、僕は筆者の言うことを真に受けるつもりで読みました。
僕は野宿というものをしたことがなく、これまでの人生、一日を、帰宅、あるいはホテルへのチェックインで締めくくらないと死ぬんじゃないかとさえ思っていたフシがあります。
それを絶対のルールと思い込み自分に枷をはめていた、つまらない人間だったのです。
だから、ホテルが取れないと旅行を諦める。可能な限り終電に間に合う選択を取る。間に合わなかったら大枚はたいてタクシーで帰る。終電に間に合わないことは最初からしない。制約だらけの中で生きてきました。
本書は、そういうつまらない人間を、タコ吸いで吸い出そうというぐらいの、あの手この手の野宿への誘いで満ちています。
そうかと思えば、時に、読者自身に野宿の魅力について考えさせたりもする。
誘いに乗って野宿をする、しないは置いておいて、これほどの熱量で野宿を語られる機会というのは貴重であろうと思います。
野宿は世の人が可能な限り避けたいもので、野宿愛好家はマイノリティであることを筆者は自覚しています。
それをふまえて、野宿への心得があれば、自宅に帰着できない、自宅がなくなった(!)時のセーフティーネットとして機能、というアプローチで、こちらの心の扉をこじ開けようとしてきます。
そういう説得で、野宿という選択肢があれば、確かに楽になれる側面もあるんだろうな、と、次第に思えてきます。
やむを得ずする野宿から、野宿を予定に組み込む積極的野宿へ。筆者が伝授する方法論、ケーススタディーによって野宿の実態を知ると野宿を身近に感じ、いつしか心は野宿旅へと羽ばたいていきます。
筆者は歩きで全国を旅行した経験があるようですが、それでもハイキング、キャンピング、バックパッキングといったアウトドア趣味とは一線を画す「野宿」のスタンスを崩していないようです。そういった趣味の書籍ではつきものの、道具へのこだわりは一切なし。それを求めて本書を買うと、裏切られることになります。
道具にこだわることは、結局家や家のある生活を維持しようという考えに縛られる生活を外に持ち出すだけで、野宿の持つ自由さを阻害するものだとさえ言っています。
アウトドア趣味としての野営と、筆者の勧める野宿との最大の違いは、テントを使うかどうか。多分、筆者はテントを持ってすらいないんじゃないでしょうか。そうした制約から来る不快な事象を回避する努力はするものの、最後には受け入れる、受け流す諦念が大事だと言っています。
本書の終盤を占める自己の経験を語るパートでは、文章の端々からほとばしる、筆者の野宿経験の重厚さを実感することになります。(ポルナレフAA略
まだ実行してもいないのに気が早いですが、本書を通して野宿という選択肢を加えたことによって、僕の人生に、少し広がりが出たような気がします。
野宿入門者にもやさしいシーズンになったことでもありますし、いっちょやってみますか、野宿。
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