最近値下げしたAWSについて聞いてきました

(アイキャッチ)【amazon記事】

今や世界中のインターネットを支えているAmazon。今回はAmazonが提供するクラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)」について詳しく聞いて来ました。

まず、AWSというサービスはどのようなサービスなのでしょうか?

SONY DSCAWSは、弊社で2006年から提供を開始した「クラウド」と呼ばれるサービスです。AWSとは、コンピューターを使った様々なシステム構築のなかでも、主にインフラと呼ばれる根幹の仕組みを提供しています。

クラウドのサービスが出てくる前は、事業者がインフラを構築する際には、実際に機器を購入して、データセンターという置き場所を借りて、それを設置して保守やサポートを行う必要がありました。

AWSは様々なインフラ基盤を、使いたいときに使いたいときだけ、すべて初期費用無料・従量課金で利用できるようにしたサービスです。

そもそも「クラウド」と「レンタルサーバー」は何が違うのでしょうか?

AWSクラウドは、システム構築を行う際に必要なストレージや分析基盤、データベースなど様々な機能を持ったサービスを提供しています。AWSでは現在約30種類のサービスを提供していますが、その中で「レンタルサーバー」の機能を提供できるAmazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)と呼ばれる仮想サーバサービスは、30種類のうちのたった1つのサービスに過ぎません。つまりレンタルサーバーというのは、クラウドにおける非常にごくごく一部の機能をレンタルできるサービスだと言えます。

また、AWSの中のレンタルサーバーに対応するサービス「Amazon EC2」と、他社さんのレンタルサーバーを比べた場合も大きな違いがあります。それは柔軟性です。Amazon EC2では非常にたくさんのラインナップから必要なスペックを選んで数分以内ですぐに利用することが可能です。管理者権限で好きなアプリケーションをインストールしたり、必要なCPU、メモリ、ディスク容量を選んだり、IPアドレスを割り当てたり、バックアップをボタン一つで行ったり、世界中のデータセンターから好きな場所を選んだり、必要なくなればすぐに落としたりすることも可能です。つまり、コントロール可能な範囲が非常に多いわけです。これは忘れてはならないポイントだと思います。

AWSは他のクラウドサービスと比べてどのような特徴があるのでしょうか?

SONY DSC190ヶ国以上、数十万のお客さまにご利用いただいているという、「圧倒的な実績」がまずは挙げられます。そのほかにも3つの特徴があると考えています。

1つ目のこだわりが繰り返しになりますが、フレキシビリティ(柔軟性)です

価格面では、すべてのサービスを初期費用無料・従量課金で提供しています。好きなときに、好きなものを、好きなだけお使いいただき、使った分だけチャージされる仕組みを取り入れていますので、柔軟性高くご利用いただくことが可能です。また、お客さまがどんな環境・どんなニーズをお持ちであっても対応できるように、10種類以上のOSに対応し、プログラミング言語の制約もおこなっておりません。ミドルウェアについても、MicrosoftOracle、最近だとBIBusiness Intelligence)ツールなどのライセンスの持込みをサポートし、移行しやすくしています。このフレキシビリティーが1つ目の特徴です。

2つ目がハイボリューム・ローマージンという考え方です

これはAmazon.comをスタートした当初から続いている考え方です。通常のIT企業は、いかに高利益率でビジネスを回すのかを考えていると思いますが、Amazonは設立以来、このハイボリューム・ローマージンモデルで成長してきました。ハイボリューム・ローマージンにすることで、お客さまが増えれば、規模の経済により運用コストを下げることができ、それを値下げというかたちでお客さまに還元することができます。

実際に、AWS2006年から今までに42回の値下げをしています。つい先月も値下げをおこなしました。これによりサーバーは平均で30%、ストレージにおいては60%も値引きされました。この価格を下げ続ける姿勢が特徴の2つ目です。

3つ目の特徴がイノベーションです

AWSは、2012年に159回の新機能・新リリースをおこないました。昨年2013年は、280回以上の新機能・新リリースを行っています。どんどんリリースの速度はあがっているんですね。ですから、AWSを使っている中で、お客さまのニーズがあれば、できるだけそれを取り入れて新機能を素早くリリースしていく。また、技術それ自身も日々進化していますから、新しい技術が出てきたら、それをわかりやすく、使いやすい形でクラウドに取り入れていく。このイノベーションの速度が3つ目の特徴だと思います。

AWSのイノベーション、その秘密とは?

Amazonといえば、ECサイトのAmazonを思い浮かべる方も多いと思いますが、AWSとAmazon.comはどのような関係にあるのでしょうか?

SONY DSCまず、Amazon.comAWSの関係性についてよくある誤解が「AWSAmazon.comで余っているサーバーを貸している」という話です。これはまったくの誤解です。

201211月にAmazon.comを構成しているウェブサーバーはすべてAWSになりました。もちろんAmazon.com専用の特別なものではなく、Amazon.com以外のお客さまとまったく同じ環境です。言い換えると、AWSをやっている私たちから見ると、Amazon.comは、私たちをご利用いただいている数十万のお客さまの1つであり、世界でAWSを沢山利用いただいている先進的なお客さまの1つであるとも言えます。

AWSは、ものすごい速度で新機能のリリースをしていますが、その秘訣をおしえてください。

そうですね。大きく3つの特徴があると思います。

1つ目の大きな特徴が「two-pizza team」という考え方です

これは、2枚のピザで足りないチームを作るなということです。外からみると大きな組織に見えるAWSですが、中では10人以下ほどの起業家精神を持った小さなチームがたくさんあり、それぞれに独立した強い権限が与えられています。どんな開発スタイルで開発をするのか、言語は何を使うのか、いつのタイミングでリリースをするのかなど、すべて独立した権限を持っています。このように、自立した小さなスタートアップがたくさんあるような環境を作ることで、スピーティーかつイノベイティブな開発を可能にしています。

2つ目の特徴は「リリースノート」という仕組みです

AWSで新しい機能やサービスをリリースするとき、私たちがまずはじめに行うことは「リリースノートを書く」という作業です。リリースノートとは、これから作ろうとしているものがどのような機能で、それを作ることで世の中にどのくらいのインパクトを与えることができるのか?お客さまから聞かれるであろう質問にはどう答えるのか?Q&Aも含めたプレスリリースのようなものです。このリリースノートを開発の前に書きます。

そして社内でGo!となれば、必要最低限かつ十分な機能を一気に開発をして出来るだけ早くリリースします。リリース後も、お客さまからのフィードバックからどんどん改善を進めていきます。例えば、2012年にリリースしたAmazon Redshiftというサービスは、リリースから1年以内で20回以上も新機能をリリースしています。この例からも、いかに細かくスピーディに改善を行っているかがおわかりいただけるかと思います。このリリースノートの仕組みはAWSの開発を支える大きな特徴の1つであると思います。

3つ目の大きな特徴は「エンジニアならAPIで会話をしろ」という考え方です

私たちがサービスを作るときには、すべてのシステムでAPIを作ることが義務づけられています。たとえば、Amazon RedshiftのチームがAmazon Redshiftの中でAmazon Simple Storage Service (Amazon S3)の機能を利用したい場合、Amazon S3のチームが公開しているAPIを勝手に利用して実装します。お互いのチームでの会話は必要ありません。

このようにすることで、1つ1つのチームは、自分が担当しているサービスのことだけに集中して、開発を行うことができます。また、あるシステムがバージョンアップをしても、APIさえ保証してくれていれば、そのシステムを利用している他のチームは影響をうけることはありません。

小さなチームが強い権限と起業家精神を持って開発できる仕組みを作ること、それによって、たとえ会社全体が大きくなったとしても、全員がスタートアップのような環境を作ることが可能です。その「その全員がスタートアップ」の環境こそが、Amazonのイノベーションの源泉だと思っています。

オンプレ vs クラウド

よく「AWSって実は高い!」という声を聞きますが、実際にところはどうお考えですか?

SONY DSCそうですね、まずコスト算出でよく勘違いされるのが、物理サーバーとAWSを単純に比較される例です。

オンプレでサーバーを構築する場合、物理サーバーのコストに加えて、電気代、人件費や採用費、保守費、バックアップのコスト等、さまざまなコストがかかります。もしコストを比較されるときは、それらすべてを加味して算出いただければ、決してAWSが高いようなことはないと思っています。

もちろん、そもそも金銭的なコスト以外にも、時間的なコストもありますよね。オンプレだと、一度買ってしまったサーバーは変更できませんから、意思決定にどうしても時間がかかります。クラウドなら作って壊してを繰り返すことができる。スケールアップも柔軟です。そのぶん時間的なコストも小さくて済む。すぐに試行錯誤を繰り返すことができるトライアンドエラーの環境があるということは、単純な物理サーバーでは得られることができないメリットです。

そしてもう1つ重要な視点として、ミドルウェアの構築や運用費用という問題があります。当然サービスを構築する際には、ウェブサーバー以外にもデータベースを構築したり、ストレージを準備したり、様々な独立したミドルウェアを構築しそれを運用していく必要があります。その構築運用費用も考える必要があります。データベース等の運用には非常に高度なスキルを持った貴重なエンジニア資源を構築や運用のためにアサインすることになります。

AWSでは様々な用途に応じて、専用の構築運用が込みになったサービスをいくつも準備しており、これらすべてのサービスは初期費用無料の従量課金で利用することができます。ぜひウェブサーバーだけではなく、システム全体の金銭的・時間的なコストを考えていただきたいと考えています。

それでもよりコストを下げたい場合にはどうすればいいのでしょう?

そうですね。たとえばAmazon EC2であれば、オンデマンド・ReservedSpot3つの料金体系を柔軟に使うことで、よりコストは抑えられると思います。

オンデマンドは通常の料金です。使った分だけ従量課金で払って頂く、一般的なAmazon EC2の料金だと思っていただければよいと思います。

次に、システムの中にはデータベースのように頻繁に落とさないものも数多くあるはずです。そのときには、事前に利用権を予約いただく(Reserveする)ことで大きく値段を下げることができます。これがReserved インスタンスです。これはadingoさんにもご利用いただいていますよね。たとえば「最低このくらいは使う」ということがわかっていれば、その最低利用量はReservedインスタンスをつかっていただいて、超過した分だけオンデマンドインスタンスにすれば、効率的にコストダウンが可能です。

もう1つの料金体系がSpotインスタンスです。たとえば「この集計は1週間以内であればいつでもいいや」というような処理は、空いている環境を利用することで値段を下げることができます。緊急性を要しないものなどは是非ご利用いただければと思っています。

急速に成長するAWS

現在のAWSの導入実績を簡単に教えていただけますか?

2011年3月の東京リージョン開設から3年が経ちましたが、2013年7月時点で、既に2万以上のお客さまにお使いいただいています

最近のAWS導入事例はありますか?

SONY DSC

NTT docomo様の「しゃべってコンシェル」の裏側も、数千台の仮想サーバーで運用されています。東急ハンズ様は、業務系システムの100%をAWSで構築いただきました。あきんどスシロー様は、お寿司のお皿の裏にあるICタグをデータ分析して、顧客動向やメニュー開発の基盤に利用していますが、その分析システムはAWSで動いています。また、すかいらーく様は、約3000店舗の顧客動向分析をAWSで構築されています。

一方でスタートアップでも多く活用頂いています。

コイニー様、freee様、名刺管理システム「eight」を運営するSansan様、これらのお客様にもAWSをご利用頂いております。

コイニー様はクレジットカードの決済システムですので、非常に強固でセキュアな環境が求められるのですが、AWSではPCI DSSと呼ばれるクレジットカード業界の認証を取得しております。インフラ部分はAWSで担保されているため、非常にスピーディーにシステム構築を行うことができました。

Amazonという会社について

Amazonの社員の方は、Amazonで商品を買うと割引になるんですか?

割引はあります。ただどの程度割引になるのかは秘密です(笑)

その他に何か福利厚生はありますか?

そうですね。AmazonのエンジニアはAWS使い放題です。中には数十万円分も月に使っているエンジニアもいるようです。そうやって新しい技術やサービスを検証しています。

これからのイノベーションについて

これからAWSの導入を検討している方に一言いただけますか?

SONY DSCITっていいものですが、いままでポテンシャルを十分に発揮できていなかったと思います。それは、ITがごく一部の限られた人のものだったからです。ITの能力と資源が限られていて、できないことがいっぱいあったんです。たとえばスーパーコンピューターなんて世界中の研究所の一部の人しか触れなかった。つい最近までDWHですら、一部の大企業の役職が上の人や研究機関じゃないとなかったわけです。

それがクラウドを使うことで誰もが手にすることができる時代が来ています。考えられないようなポテンシャル、ブルーオーシャンがそこにはあると思っています。

クラウドがお客さまのサービスの基盤を支えます。お客さまはより付加価値の高いサービスに没頭してください。

それから、過去にAWSをご検討いただいた皆様にも、是非再度ご検討いただきたいと思います。数年前のAWSと、現在のAWSはまったく別物です。

つい3年前まで東京リージョンはありませんでした。その結果配信速度の問題でAWSをあきらめた方もいると思います。今では東京リージョンがあります。現在までに2万以上のお客さまにご利用いただいています。

セキュリティが心配だという声も昔はありました。現在ではAmazon Virtual Private Cloud (Amazon VPC)を使えば、あたかも自社データセンターのようにクラウドを使うこともできます。帯域が心配ならAWS Direct connectを使えば専用線を引くこともできます。サーバーの性能も大きく向上し、C3インスタンスという32コア積んだハイスペックマシンや、240Gのメモリを載せたマシンも簡単に借りることができるようになりました。Amazon RedshiftAmazon Kinesisといった新しい技術やサービスもどんどん出てきています。

すごいスピードで進化しているんです。もしかしたら当時の課題は過去のものになっているかもしれません。

ありがとうございます。今年もAWS Summit Tokyoがあるんですよね?

はい、今年も7/17-18にAWS Summit Tokyo 2014を開催します。未公開の事例もたくさん出てくる予定なので、是非お越し下さい。「あなたのクラウドがここにある」と思います。

最後に、最近すごい値下げされましたよね?営業の方、大丈夫ですか?(笑)

皆様に4倍使っていただければ、何の問題もありません(笑)

 

SONY DSC

今回インタビューを受けてくださったのは・・・

アマゾン データ サービス ジャパン株式会社

技術本部 技術本部長 玉川 憲 さんです。

貴重なお話を頂き、ありがとうございました。