日中関係をよくしなきゃいけないという気運が国民の間に出てきたら、政府も無視できないだろうけど、なかなかそうならないから、せめて民間で交流を盛り上げようと、僕はこれまでやって来たわけです。だけど、靖国問題が出てきたとたんに、さらに日中関係は厳しくなってきた。
三党の合意で国民平和基金を設立
従軍慰安婦への償いを続けてきた
――おっしゃる通り、村山さんはずっと中国や韓国に寄り添われてきましたね。日本と中国・韓国とは、基本的に政府間では戦後補償問題が合意に達しています。にもかかわらず、「アジア女性基金」(財団法人女性のためのアジア平和国民基金)を立ち上げ、元慰安婦に対する個人補償事業などを続けてきたのは、どういうお考えからですか。
1990年前後から、慰安婦自らが名乗り出て訴えを起こし、裁判問題に発展、国連人権委員会でも討議される事態となり、慰安婦問題は国際的に問われる事態になっていました。政府としても、事柄が事柄だけに無視できないとして、河野談話を受けた立場で、政府としての対応について三党で議論をしてきました。
「日韓条約ですでに解決済みであり、今さら賠償はできない」「これは人間としての尊厳を傷つけた人権問題であり、国が当然その責を負うべきである」という意見などがありました。
その結果、三党の合意として「国民平和基金」を設立し、(1)国民からの募金により、慰安婦の皆さんに償い金を差し上げる、(2)慰安婦の名誉回復のために、総理の謝罪の手紙を添える、(3)国も保険、医療などの助成金を差し上げる、などを主体に基金を通じ、国民的償い事業をやってきました。
基金事業に携わってくれた皆さんは、関係国を訪問し、政府関係者や団体、慰安婦に直接接するなど、大変なご苦労をされましたが、募金は比較的順調に進み、「こんなことがあったとは知らなかった。わずかなお金ですが、償い金として役立ててください」との手紙をつけて、募金をしてくれた人も数多くいました。
ただ、フィリピンやインドネシア、オランダなどは、償いの仕方に若干の違いはあったものの、スムーズに受け入れてくれましたが、韓国では「こんなお金をもらうわけにはいかない」「日本政府がきちんと保障すべきだ」と、強い抵抗がありましたね。結局韓国では、対象者の3分の2の方々が受け取らないまま、今日に至っています。さらにここにきて、政府が「河野談話を見直したい」と言い出し、今までの苦労が振り出しに戻ってしまいました。
※「村山富市元首相、日中・日韓関係を憂う」(下)は、5月29日(木)公開予定です。