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「ピラミッドは誰がつくったのか?」 エジプト考古学者が語る、ピラミッドの謎と人間の”本質”

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「ピラミッドは誰がつくったのか?」 エジプト考古学者が語る、ピラミッドの謎と人間の”本質”
世界中の人々を惹きつけるエジプトのピラミッド。この研究には現在、最新のCGや計測方法が用いられていますが、謎は無限に湧き出すばかり……。現地で研究を続けるエジプト考古学者の河江肖剰氏が、ピラミッド研究の今を語ります。(TEDより/この動画は2012年に公開されたものです)

【スピーカー】
エジプト考古学者  氏

【動画もぜひご覧ください!】
Pyramid quest Yukinori Kawae at TEDxKyoto 2012

考古学は役には立たないが、エッセンシャルなもの

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河江肖剰(以下、河江):エジプトで発掘調査をしている河江です。考古学者なんですが、インディ・ジョーンズみたいな帽子を被ってなくてすいません。現代の私たちにとって、古代エジプトが一体どんな関係があるのか。突きつめていえば、考古学というのが一体役に立つのかというふうに思っている方がいるかもしれません。(客席を指さして)そちらの方、大きく頷いてくれてありがとうございます。

この話、実は私、よく聞かれます。その時に、私がいつも思い出すのが、映画『シンドラーのリスト』のある場面です。ご覧になった方いますか? 『シンドラーのリスト』。……結構おられますね。

その場面というのがどういった場面かというと、ナチスの兵士がユダヤ人を職業別で分けていきます。役に立つとみなされた職業に就く者にはブルーカード。役に立たないとみなされた職業に就く者というのは即ゲットー行きです。

歴史の先生が列に並びます。彼はもちろんゲットー行きです。その時に、歴史の先生がこう呟きながら連れて行かれます。「一体、いつ歴史というものがエッセンシャル(本質的)じゃなくなったんだ」と。

今日私が話をする、皆さんにお伝えする話というのはユースフル、役に立つ話ではないです。

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河江:ただ、人間というものを理解する上でエッセンシャルなものだと思っています。その話の内容というのは、ギザのピラミッドです。

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河江:ここでもう一つ、皆さんにお伝えしておきます。ピラミッドの謎というのは、まだ解けていないんです。私たちが、この巨大な、4500年前に作られた建造物について知っていることというのはまだごくわずかなものなんですね。なぜ分からないのか。

ここでイギリスの児童文学家で、ラドヤード・キップリングという人の言葉を引用しましょう。キップリングというのは『ゾウの鼻が長いわけ』という、非常に示唆に富んだ童話を書いています。その中に「6人の召使い」という詩が最後に出てきます。ご存じの方がいるかもしれません。

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河江:この召使いというのは、キップリングのために世界中のあらゆるところに行き、色々な情報をくれるという6人です。

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河江:それは、What、Why、When、How、Where。例えば、ピラミッドに関していえば、「ピラミッドが何なのか」、「ピラミッドがなぜ建てられたのか」、「ピラミッドがいつ、どのようにして、そしてどこに建てられたのか」という研究というのはこれまでよくされてきました。

しかし1人足りないですね。この5W6Hと呼ばれる中の最後の1人というのが、”and Who”。

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河江:「一体誰がピラミッドを建てたのか」。ピラミッドを建てた人というのはどこに住んでいて、どんな生活を行っていたのかという研究はなされなかったわけです。

ピラミッド研究の今

河江:この中でエジプトに行かれたことがある方、ちょっと手を挙げてもらえますか? 多分そんなにいないですね。恐らく行かれていない皆さんのイメージとして、ピラミッドといえば砂漠の真ん中に孤立無縁の形で立っている、非常にロマンチックな姿を想像していると思うんですが、実際の姿というのはこういった形です。

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河江:もう人だらけです(笑)。年間1300万人ほど、日に直すと3万人ぐらいの人々がギザ台地を訪れます。ただここにいる観光客を、頭の中ですべて労働者に替えてみてください。私たちエジプト学者の推定では、恐らく2万から3万人の人々がピラミッドを造築するのに関わったと考えられています。この観光客たちを全て労働者に替えたその時のイメージが、4500年前のイメージであるわけです。

こういった人々のことを考慮に入れずにピラミッドのことを語ろうと思えば、例えば非常に複雑な説になったり、果ては宇宙人であるとか、超古代文明とかが出てくるんですが、人々を入れてもう一度考えてみると、どのようにしてピラミッドを建てたのか、特にこの問題に対して適切な答えというのが出てくるはずだと。

今から28年前、弊協会(米国古代エジプト調査協会)の会長であるアメリカ人考古学者、マーク・レーナーが、このことについて考えようとギザ台地を踏査しました。当初言われていたのは、ナイル川があればですね、ナイルの東側は生きている人の町だと。そしてナイルの西側には墓しかないと言われていたんです。

ところが、レーナー自身が考えたのは、人間というのはそんな不自由なものじゃないと。ピラミッドが国家プロジェクトであれば、ピラミッドを建てるすぐそばに町というのもあるだろうと。そして考えたのがスフィンクスの南500m、「カラスの壁」と呼ばれる壁があるんですが、そこを発掘しました。

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河江:結果、これまで見たことがないような都市遺構が出てきました。

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河江:これが「ピラミッド・タウン」と私たちが呼んでいるところです。以後、30年にわたるここの発掘調査が行われています。今現在、私は、この中で「西の町」と呼ばれる、恐らく貴族であるとか、上流階級が住んでいたと思われる町の発掘の担当をしています。

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河江:特に「House Unit 1」という、ピラミッド・タウン最大の巨大な大きな家というのを発掘しています。家を詳しく見ていくと、もう現代と変わらないような形です。例えば、キッチンがあります、当然ながら。

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河江:古代エジプトの主食というのはパンです。このパンなんですが、「ベジャ」と呼ばれる30cmから60cmの非常に大きな素焼きの壷に入れて焼くんですが、めちゃくちゃおいしいです。味なんてなんでお前が知っているんだ、って感じなんですけど、実は今年の2月に、あるテレビ番組で再現して作ってみました。

これ、エンマー小麦という小麦を使って作ったんですが、非常にどっしりしていて、慈愛に満ちた味がします。その他、ビールも飲みます。ただし冷えてはいないです。またアルコール分も低いんですが、栄養価に満ちたものになっています。このビール、エジプトでは非常によく出てきます。この「House Unit 1」でも大量のビール壷ってのがあります。

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河江:あと、家の中には当然寝るところもあるんですが、その寝るところが真ん中にあります。

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河江:寝ているのは私の発掘チームの1人のアリおじさんなんですけど。「実験考古学」と称してよくこういうのを確かめたりするんですよ。私もこう寝てみたら、非常に寝心地がいいです。こういった人々がピラミッドを作っていたことを考え、もう一度、ではどのようにしてピラミッドが建てられたのかというのを考えてみようと。

研究に用いられる最新テクノロジー

河江:ただ、ここでもう一つ問題があります。どんな問題があるのかというと、実はデータというのが無いんですね。

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河江:無いといったら、ちょっと語弊がありますが。一つお見せしましょう。

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河江:これが、今まで私たちが持っているデータになります。ピラミッドって例えば四角錐で、こういうふうな線画で数字を書かれていますね。ただこういった線画というものは、建設当初は恐らくこうだっただろうという、ある種の復元図であり、現状そのもの、石一つ一つを表したりしていません。

恐らく皆さんのイメージの中でも、考古学というのは発掘であると、物を掘り出すのが仕事だと考えられているかもしれませんが、実は考古学の一番重要な仕事というのは「記録」です。適切な記録があってこそ、過去というのを理解できるわけです。

こういったものからはなかなかピラミッドの建造方法というのが分からないため、私たちは新しい最新の計測技術を使い、この「第4のピラミッド」と呼ばれるものを計測してみました。こちらの線画と今から私が見せるものと、見比べてみて下さい。これが私たちが作ったもの、3次元計測になります。

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(全てCG画像です)

河江:見ていただくとですね、(3次元画像が)点で成っているのが分かりますか? このコンピュータグラフィックは、イメージからではなく点で成っており「点群データ」と呼ばれてます。それぞれの点には(3次元座標値)X・Y・Z、RGBの情報があり、これはあるがままの現状を記録しているものです。

こういったものを利用して、私たちはピラミッドの作り方を理解しようとしているんですが、ただデータの欠損箇所があるため、そういったものはコンピュータサイエンティストがモルフォロジー処理を使って欠損箇所を埋めたり、あと石の切り出し方なんかはなかなか分かりにくいので、今度は「PEAKIT」という特殊なエッジ・ディテクティング・アルゴリズムを使い、これも分かりやすくしたり。

あと、ピラミッドのような巨石建造物の周りというのは、砂が埋まっていてそこがどうなっているのか分からないと。そういったものというのは衛星画像の解析を使い、地下というのを確かめようというふうにしています。このようにしてピラミッドの謎に挑んでいるわけです。

解いても解いても新たに出てくる謎

もう一度、先ほどの「Six serving-man」、6人の召使いについてちょっと話をしていきましょう。キップリングは、召使いの詩の最後、こういうふうに書いています。「ある子どもたちにとっては、実は謎というのは6つだけではないんだよ」と。

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河江:彼らにとって謎というのは、実は一千万あると。もう、子どもってずうっと問いかけますよね。どうして、どうして、どうして、どうしてと。実はピラミッドにも謎はまだまだあります。(ピラミッドの形は)四角錐と皆さん思っていると思うんですが、実は東西南北が少しずつ凹んでいます。なぜかはまだ分からないです。

クフ王の大ピラミッドの北東の角には、巨大な壁が石灰岩の台座の中に埋まっています。これもよく分かってないです。そのためにピラミッドの謎というのは、日本でいう八百万ではないんですが、本当にまだまだ無限にあるわけです。

こういった謎というのは、当然ながら、私一人では解けません。ピラミッド・クエストに関していえば、やはりパーティー、グループを組んでやっているわけなんですが、そのグループがここにいる面々たちになります。

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河江:今回は、私は一代表としてこの話をさせていただいています。今回、このTED×Kyoto、色んな方が来ているということで、私が一つ望んでいるのは、恐らく新しいパーティーのメンバーが見つかるのではないかな! というふうに思ってます。もしかしたら協力者が見つかるのではないかなと思っていますので、興味がある方は声かけてください。

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河江:最後に、このプロジェクトの隊長であるマーク・レーナー、亀井(宏行)先生、佐藤(宏介)先生。

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河江:そして何より、今(2012年)色々と揉めてはいるんですが、エジプトの仲間たちですね。彼らにスペシャルサンクスを送りたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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