オウジ様とバカ者の床



     鼓動の音が静まってくのを、ただひたすらじっと待っていた。
     明かりの無い部屋。ぼんやりと浮かんで見える天井。しん、と鳴る部屋。
     呆けていると、いつの間にか鼓動は静まっていた。
     気怠い身体を起こし、左手をついて、眠っている情人を覗き込んだ。
     眠っていると言えば聞こえは良いが、正確には気を失っているのだ。
     少し無体をしてしまったのかもしれない。
     吐精すると同時に、シノは意識を失った。
     精根尽き果てたように眠るシノの顔は、安らかな寝顔とは言い難い。
     僅かに寄った眉間と、下がった眉尻が行為の名残を残していて、どちらかと言えばちょっと辛そうな顔をしている。
     少しの謝罪と労いと、後は衝動に駆られて、シカマルは意識のないシノの頬に右手を伸ばした。
     その、まだ仄かに熱を持った頬に触れ、そっと掌で撫でる。
     安らかとは言えないが、可愛い寝顔だとは思う。そう思って、欲目だよなぁ…とちょっと笑った。
     「…ん……」
     シカマルの手の感触を感じたのか、シノが眉間の皺を一瞬深めてから、うっすらと目を開いた。
     そして暫し視線を彷徨わせた後、未だ潤んでいる瞳をシカマルに向け、ひたと止める。
     「………シカマル…」
     「よぉ、気付いたか」
     「……ああ…」
     掠れた声で応えながら、シノが頬を包んでいるシカマルの手に自身の手をそっと重ねてきた。
     探るように、シカマルの存在を確かめるように、手首や手の甲に触れ、指をなぞる。
     しかしまだ寝惚けた感があり、無意識の内の所作のようにも思えた。
     シカマルはそんなシノが心底愛おしくなって、身を屈めてシノの唇に軽く接吻した。
     シノは身動がず、たじろがず、ただ大人しくシカマルの口吻を受け入れていた。



     「……ン……ン…」
     軽い接吻から始まった第二ラウンド。
     一度解され挿入された秘部は二度目の侵入を拒むことなく、容易にシカマルの指を中まで通した。
     埋め込まれた指がばらばらと蠢き、僅かに痼るその部分を掠る度、シノの躰はビクビクと跳ねる。
     一度静まった鼓動が激しく打ちだし、熱が、欲望が、再び迫り上がって来た。
     「ンァッ! や―――っ!」
     前振りなく痼りをぐっと押し込むと、シノはビクッと大きく反り返り、声を上げた。
     先端から、とろとろと精液が溢れ出してくる。
     「ぁ………は……っ」
     シノが喘ぐ。呼吸が乱れ、目の焦点が合わなくなっている。
     気持ち―――良かったのだろう。
     シカマルはシノの頭の下に腕を通して腕枕をすると、抱き込むようにして深く口吻た。
     そして唇を離すと、顎、喉、鎖骨に胸と、舌でなぞっていく。
     その感覚を敏感に感じ取り、シノはぞくぞくと身を震わせた。
     その反応が、シカマルをもぞくぞくと奮い立たせる。
     「んっ…ぁ、シカマル…っ」
     舌先で乳首を舐め、転がし始めたシカマルに、シノが声を上げ、堪えるように顔を背けた。
     「―――っ、――っ…!」
     シノの反応を窺いながら膨らんだ乳首を吸い、空いた手の指先でもう片方の突起も弄べば、シノはシーツを握り締め、歯を食いしばった。
     逃れられない快感に、悶えている。
     精は少しずつ、けれど止まらずに垂れ流れ、もどかしそうな足がベッドの上を何度も滑る。
     乳首を弄っていた指を下へ滑らせ濡れた中心部をそうっと撫ぜると、シノは嬌声を上げた。
     「ふああぁぁぁ――!!」
     「シノ……気持ちいいか?」
     「………ぃ…」
     「ん? 聞こえねぇな…良くねぇなら……」
     そう言って中心部から手を離す素振りをする。勿論、意地悪である。
     しかしシノは離れようとしたシカマルの手首をぱっと掴み、首を振った。
     「い…良い……から、も…もっと…、しろ…」
     この期に及んでも命令形とは、流石シノだとシカマルは苦笑を浮かべた。
     だが、素直なのは愛おしいし、必死な様子は可愛いものだ。こんな時ぐらいしか素直さも必死さも見せないシノだから、余計に愛らしく思える。
     シカマルは手首を捕まえているシノの手を取ると、その甲に唇を落とし、
     「承知しました、王子?」
     と巫山戯調子で言って、シノの脚にゆっくりと手を這わせた。
     「誰が…王子だ……っ、」
     巫山戯るな…と毒付きながら、シノは内股を這うシカマルの手に合わせて脚を開いていく。
     その脚の間に顔を埋め、シカマルはシノの物を口に含んだ。
     「ん……ぁ…」
     シカマルの舌が卑猥な音を立ててシノを犯していく。
     そして、溢れるシノの精を掬うように拭い取ったシカマルは、それを自身に塗り付け、潤滑油にしてシノの中にゆっくりと挿入した。
     「ぁあっ!」
     「っ、あ…」
     挿し込まれた物に、シノが背を反り返して喘ぎ、シカマルもまた声を洩らした。
     「あ……ん、っ、んっ…」
     「は……っ、シノ…」
     「ぅん……ン…、シカマル…、」
     互いに求め合い、どちらからともなく絡み付き抱き締め合い――交じり合う。
     心臓の鼓動が重なって一つになる。
     「ぁ……ぁ…ぁああ…!」
     シノが強くシカマルにしがみついた。
     「あ、あ、あ、あ……!」
     「シノ――ぁ…クッ」
     「あぁあ……シカ…あっ! や…っ! も…ダメ、だ…っ!」
     「――――っ!――!」
     「アッ――――!!!」
     シノの内奥が熱で満たされ、シカマルの腹部が熱に汚れた。
     熱い欲を吐き出した二人は暫く荒い呼吸をしていたが、その内収まってくると互いに見つめ合い、口吻を交わした。
     気怠い体を動かして身体やシーツを綺麗にした後、二人は漸く眠るために床に就いた。


     身を屈めて横たわるシノを、シカマルが腕に抱き込んでいる。
     すやすやと気持ち良さそうに眠る二人は、永遠の夢の中にいるようである。
     だが時間の使者は、無情にもけたたましく朝を告げた。
     ジリリリリリリリ! と激しく鳴り響く音に、目を覚ます。
     シカマルは、はあ〜っと深い溜め息を吐くと、おっくうそうに起き上がろうとした。
     しかし、それをシノが押さえた。
     「あ…? どした…?」
     シカマルがシノを見て問う。すると、目覚まし時計の音がピタリと止んだ。
     鳴り止むには少し…時間が短い。
     シカマルが時計の方に目をやると、時計の周りに蟲か数匹飛んでいた。
     ―――蟲が止めたのか…。
     つまり、シノが止めたという事だ。
     シカマルが再びシノに視線を移すと、シノはシカマルの胸元をじっと見詰めながら、言った。
     「まだ時間はある。……もう少し、一緒にいろ」
     そうして、シカマルの胸に己の額をくっつけ、目を瞑る。
     シノはシカマルの日程を完璧に把握していた。
     そんなシノに、シカマルは思わず笑みを零した。
     「承知しましたよ、王子様」
     巫山戯て言えば、馬鹿者と返された。
     シカマルは更に笑みを深めつつ、その偉そうな甘えん坊の命に従って、今一度、
      愛おしくて堪らない情人を、そっと、強く、抱き締めたのであった――。









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