「薬を使わない薬剤師」が考える、薬に頼らずより良く生きるための食べ方
『薬が病気をつくる ~薬に頼らずに健康で長生きする方法』(宇田川久美子著、あさ出版)の著者は、薬剤師という自身の仕事に限界を感じた結果、「元気に、健康に生きるための十分な力を、人間の身体はもともと備えている。あとはその力をきちんと発揮してあげればいいだけだ」ということに気づき、今では「薬を使わない薬剤師」を目指して活動しているそうです。
つまり、薬の疑問点や危険性などをきちんと説明したうえで、本書では「薬を飲み続けるのではなく、薬が入らない身体をつくっていくこと」を提案しているわけです。その一例として、きょうは第5章「病気にならない身体のつくり方 〜私が薦める11の健康法〜」から、「食」に関するポイントをいくつか引き出してみます。
楽しく食事をとる
身体にいいと言われるものだけを食べるのではなく、さまざまな食材をとり、体内の栄養バランスを保つ。(186ページより)
食事の内容について言うべきは、このひとつだけだと著者は断言しています。意識すべきは、「食べるのが楽しい」という心理状態が、免疫力を高めるのにひと役買っているということ。バランスのよい食事を、しっかり味わって、楽しく食べる。人間ならではの食の基本を大切にするということから、健康的な食生活がはじまるわけです。(184ページより)
「糖質カットダイエット」の落とし穴
カロリーを気にする人は少なくありませんが、これが大きな落とし穴だとか。カロリーとは「熱量」で、その食べものを物理的にバーナーで燃やして灰にするのに、どれくらいのエネルギーを使うかを示したもの。そして体内でバーナーの役割をするのは、おもに「酵素」です。
酵素がうまく機能している人は、強いバーナーを持っているので、消化、吸収、排泄のサイクルが早く、太りにくい。うまく機能していない人は、バーナーが弱く消化に時間がかかるため、からだに脂肪をため込みやすくなり、太りやすくなる。つまりカロリーよりも、食べものを処理するからだの機能こそが重要だということ。
そんな理由から、「糖質カットダイエット」も行きすぎると栄養バランスの点で問題だと著者は言います。理由は、糖質ダイエットで外されがちな穀類には、食物繊維が豊富に含まれているから。表示されたカロリーを気にするよりも、いろいろな食材をバランスよく食べることが健康への近道だというわけです。(188ページより)
まずは野菜から食べる
「野菜から食べる」のがいいという話には、根拠があるそうです。キーワードは、血中の糖濃度を示す値である「血糖値」と、体内に入った食べものが消化され、糖に変換されるまでの速さを示す「GI値」。血糖値が急激に上昇すると、インスリンが一気に分泌されて中性脂肪となり、脂肪細胞に取り込まれる糖も増えることに。血糖値の上昇スピードが問題となるわけです。
GI値が高いのは血糖値を急激に下げる食品で、GI値が低いのは血糖値をゆるやかに上げる食品。葉野菜のようなGI値の低い食品を先に食べると、血糖値の上昇がゆるやかになり、インスリンの大量分泌を防げるわけです。そして先にGI値の低い食品をとって血糖値の上昇をゆるやかにすれば、その後、GI値の高い食品を食べても、血糖値は急激には上がらないといいます。食べるものを制限するのではなく、食べる順序を意識するだけで、健康的なダイエットは可能だということです。(191ページより)
たまの不摂生を許す
本当に健康的な食生活を極めるのなら、基本的に菜食中心で、一汁一菜の和食を、腹六分目から八分目にとどめるのが理想。とはいえ現実的には、なかなかそうもいきません。また不摂生を許さない厳格な食生活は、かえってストレスになってしまうため勧めらないと著者は言います。むしろ、たまに不摂生してしまった自分を許すくらいの心持ちでいた方がいいそうです。
ふだん適切な食生活を送っていれば、たまの不摂生でいきなりからだが壊れることはないはず。むしろ、大切なのは意識。会食が連続しないようにする、ランチで調整するなど、バランスをとることは必要ですが、振り回されなくてもいいわけです。本当の意味での健康的な生活を送るためには、ある程度、気楽さを持つことが大切なのです。(198ページより)
身体の中をリセットする
どんなに理想的な食事をしても、効果の出方は人それぞれ。「なにを食べるか」よりも、食べたものを受け入れるからだをどういう状態にしておくかの方がはるかに大事だといいます。特に大切なのは、胃腸をきちんと休め、体全体の機能を高く保つこと。消化吸収から排泄までが円滑に行なわれるようにするには、オーバーワークで汚れた胃腸をリセットする習慣が必要だということです。
そこで、不摂生を重ねた身体をゆっくりと休ませ、胃腸をリセットさせるために著者がおすすめしているのは「断食」です。断食にはダイエット効果があり、弱った機能を回復させることができ、さらには溜まっている老廃物を出すデトックス効果や、深いリラックス効果、免疫力の復活も期待できるのだとか。ちなみに特別な断食をしなくても、1日の最後の食事から翌日の最初の食事まで、12時間以上空けるだけでも効果が望めるといいます。(200ページより)
これらにも明らかですが、つまり本書は、薬の問題点を突き詰めながらも、そこだけにとどまらず、「薬だけに頼らなくても実現可能な」よりよい生活を送るための提案をしているわけです。からだと薬、そして快適な生活との関係性を見なおすためにも、読んでおいて損はないと思います。
(印南敦史)
- 薬が病気をつくる ~薬に頼らずに健康で長生きする方法
- 宇多川 久美子|あさ出版