潮田さんは、去る５月２８日、白血病のため米マサチューセッツ州の自宅で死去されました。71歳でした。

近年はニューイングランド音楽院教授として後進の指導にあたり、ソリストとして私たちの目にふれることは希だったと思いますが、サイトウ・キネン・オーケストラや水戸室内管弦楽団の中核メンバーとして公演のたびに故国に駆けつけてこられた。あの名人そろいのオケでも、いつもにこやかに、常に自然体にあって和やかな表情を絶やさず、他のメンバーを牽引するというよりは、ごく地道に全体の音楽を支えておられたという印象があります。

若い頃に、モットーを聞かれて「誠実」と答えたそうです。

『人間として生きていく上でも、音楽を求めていく上でも、何に対しても手をぬかず、誠実に生きていきたいと思っています。人とのつきあいの場合でもそうですが、例えば遊んでいるときでも、その遊びに熱中できる人間でいたいのです。何に対しても誠実に全力でぶつかっていければいいなと思います』

このイザイは、そういう潮田さんの信条と姿勢が、すみずみにまで行き渡った演奏。

いつ聴いても、ごくごく自然で、鍛えられたテクニックを聴き手に意識させることなく、心のびやかに、しかも細部にまで気配りされた心こまやかな演奏になっています。イザイがバッハに遠く思いをはせ、名ヴァイオリニストたちに尊敬をこめて献呈したその誠意を深々と掘り下げています。

追悼の一枚としてお薦めします。