トップページWEB特集

WEB特集 記事一覧

  • 読み込み中

RSS

WEB特集

STAP 未公表の新たな疑義

5月21日 22時50分

藤原淳登記者

STAP細胞は存在するのか、しないのか?
STAP細胞の論文について、新たな問題がNHKの取材で明らかになりました。
理化学研究所内の検証チームが複数の画像やグラフに疑義があるとする調査内容の文書をまとめたものの、研究所ではこうした調査について一切、公表していませんでした。
日本の科学研究を揺るがすSTAP細胞問題。科学文化部の藤原淳登記者が解説します。

調査委の認定は2つ

STAP細胞の論文は、理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーらが科学雑誌「ネイチャー」に2本同時に発表しました。

ニュース画像

しかし、その後、論文の画像にさまざまな疑問点が指摘されたことから、理化学研究所は調査委員会を立ち上げ研究不正について調査を行いました。
調査は今月8日に終了し、調査委員会はこのうちの1本の論文にねつ造と改ざんに当たる2つの不正行為があったと認定。研究所では現在、関係者の処分の検討を進めています。

ほかにも疑義が・・・

ところがNHKが取材したところ、調査委員会が認定した2つの不正以外にも論文の複数の画像やグラフに疑義があるとする調査内容の文書を、小保方リーダーが所属する神戸市の理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの検証チームがまとめていたことが分かりました。
調査の内容を具体的に見ていきます。
STAP細胞の最も大きな特徴の1つとされる「胎盤」になる能力の証拠として、論文の最初のページに使用された写真。(論文「Letter」Figure1のaとb)
従来からあった万能細胞の「ES細胞」と「STAP細胞」、それぞれから作り出したマウスを比較してSTAP細胞のマウスだけ胎盤が光っていることが強調されています。
しかし、2つの写真は実際にはどちらも同じ種類の細胞から作り出されたマウスのものだったことが分かったということです。
同じ細胞を使って作り出された2匹のマウスの写真で、胎盤が光って写っているほうを「STAP細胞」、光っていないほうを「ES細胞」として使用していたとみられます。

ニュース画像

写真に記録された撮影日時のデータから、2つの写真が撮影された日には1種類の細胞の実験しか行われていなかったことが確認されています。
またほかにも、論文の中でSTAP細胞の万能性を示すため「4倍体キメラマウス」というマウスの写真が使われていますが、このマウスと全く同一のマウスを撮影した写真が、論文の別の場所では異なる系統のマウスを使った別の実験結果の写真として使われていました。(論文「Article」のExtended Data Figure7dと論文「Letter」のExtended Data Figure1a)
これらの写真は、一枚一枚撮影日時が自動的に記されるカメラを使って行われていました。
すべてパソコンの「Oboフォルダー」と名付けられたフォルダーに保存されていましたが、取り違えが起きないようさらに実験ごとに別々にサブフォルダーを作って、小保方リーダー自身が保存していたものだということです。

ニュース画像

調査ではほかにも、実験データからコンピューターで自動的に作成されるはずのグラフが手作業で作られたように見える箇所が複数あることなどの疑義が指摘されていました。

調査自体を公表せず

この調査の内容は、理化学研究所の本部にすでに報告されていました。
しかし、理化学研究所はこれまで調査の内容だけでなく、こうした調査を行っていること自体公表していませんでした。

ニュース画像

これについて理化学研究所は、NHKの取材に対し「所内からこの情報が寄せられているのは事実だが、正式な通報ではなくあくまで情報提供なので調査をする予定はない。また個別に公表すべきものではないと認識している。ネイチャーの論文は取り下げの勧告を行っているため、新たな疑義があっても調査は行う必要はないと考えている」としています。
現時点で、これらについて詳しく調査を行う予定はないということです。

小保方リーダー側の反応

一方、小保方リーダーの代理人を務める三木秀夫弁護士は、「こうした調査があることは全く知らず、寝耳に水だ。論文のどの部分に疑義があるかなどを把握していないので、内容については答えられない。小保方さんに対し何の説明もなく、聞き取りもしないまま行われたのならば、一方的な調査で極めて遺憾だ」と話しています。

ニュース画像

専門家の評価は?

調査の内容について、日本分子生物学会の副理事長で九州大学の中山敬一教授は「重要な論文の中でここまでミスが重なるのは明らかに不自然で、何からの作為があったのではと疑わせる。STAP細胞が本当に存在するならばこうしたことが起こるはずはないので、そもそもSTAP細胞はなかったのではないかと強く疑わざるをえない」と話しています。
そのうえで、理化学研究所が調査の内容を一切公表していなかったことについては、「不正の再発を防ぐためには不正が起きた原因や背景を詳しく調べ、すべてを公表することが欠かせない。理化学研究所がこうした調査の内容を把握していながら公表せず正式な調査も行わないとすると、今後、再発防止策を検討するうえで大きな問題だ」と指摘しています。

ニュース画像

今後はどうなる?

理化学研究所では現在、外部の有識者による改革委員会を設置して研究不正の防止に向けた対策の取りまとめを行っています。
論文の新たな疑義が明らかになったなかで、このまま詳しい調査を行わずに再発防止の対策を進めることができるのかについても改革委員会で改めて話し合われる可能性があり、各委員がどのような判断をするのか注目されます。
さらに最も大きな関心となっている「STAP細胞が本当に存在するのか?」という疑問に答えを出すため、研究所では現在、所内の研究者がSTAP細胞を再現する実験に取り組んでいます。
1年計画で行われる実験ですが、7月にもその中間結果が発表される予定となっています。
どういった結果が発表されるのか、STAP細胞を巡るさまざまな疑問に理化学研究所はどう答えていくのか、今後が注目されます。