東京電力福島第一原発事故の教訓を最大限にくみ取った司法判断だ。電力事業者と国は重く受け止めなければならない。

 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)をめぐり、福井地裁が再稼働の差し止めを命じた。

 関電側の想定をはるかに上回る地震の可能性が否定できず、少なくとも250キロ圏内の住民に重大な被害を及ぼす恐れがある、と判断した。

 裁判長は、福島原発事故で15万人が避難を余儀なくされ、入院患者ら60人の関連死があったことに言及し、「原発技術の危険性の本質と被害の大きさが明らかになった」とした。

 そして「同様の事態を招く危険性が万が一でもあるか。裁判所がその判断を避けることは、最も重要な責務を放棄するに等しい」と述べた。

 原発は専門性が高く、過去の訴訟で裁判所は、事業者や国の判断を追認しがちだった。事故を機に、法の番人としての原点に立ち返ったと言えよう。高く評価したい。

 特筆されるのは、判決が、国民の命と暮らしを守る、という観点を貫いていることだ。

 関電側は電力供給の安定やコスト低減を理由に、再稼働の必要性を訴えた。これに対し、判決は「人の生存そのものにかかわる権利と、電気代の高い低いを同列に論じること自体、法的に許されない」と断じた。

 「原発停止は貿易赤字を増やし、国富流出につながる」という考え方についても、「豊かな国土に、国民が根を下ろして生活していることが国富だ」と一蹴した。

 関電は控訴する方針だ。再稼働を望んできた経済界や立地自治体の反発も必至だろう。しかし、福島原発事故で人々が苦しむのを目の当たりにした多くの国民には、うなずける考え方なのではないか。

 事故後、独立性の高い原子力規制委員会が設置され、新しい規制基準が定められた。安倍政権は規制委の審査に適合した原発は積極的に再稼働させていく方針を示している。

 だが、判決は「自然の前における人間の能力の限界」を指摘した。「福島原発事故がなぜ起き、なぜ被害が広がったか」にすら多くのなぞが残る現状で、限られた科学的知見だけを根拠に再稼働にひた走る姿勢を厳に戒めたといえる。

 事業者や国、規制委は、判決が投げかけた疑問に正面から答えるべきだ。上級審での逆転をあてに、無視を決め込むようなことは許されない。