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最低賃金を2500円にする国民投票を行ったスイスの驚くべき実態とは

 最低賃金を何と2500円にするという驚くべき国民投票がスイスで行われた。結果は否決となってしまったが、驚くべきなのは、スイスではほとんどの労働者がこの水準の時給をもらっているという現実である。圧倒的に豊かなスイスの国情が背景にあり、残念ながらスイスの動きはあまり参考にはならないようだ。

 スイスには現在のところ最低賃金の制度はない。今回の国民投票は、最低賃金を22スイスフラン(約2500円)に設定するというもので、緑の党や社会党など左派勢力が主導で実現にこぎ着けた。結果は否決となり、この制度は導入されないことになったが、高額な最低賃金の設定は世界中で話題となった。

 これまで包括的な最低賃金制度がなかったドイツでの導入が決定したり、米オバマ政権が最低賃金の引き上げを主張するなど、このところ賃金をめぐる論争が活発になっている。その背景には全世界的に顕著になっているディスインフレの傾向がある。
 米国を中心に各国は緩和的な政策を続けているにもかかわらず、思いのほかインフレ率が上昇しないという状況が続いている。一部の専門家は、賃金を上昇させ、中間層の購買力を厚くすれば、こうした状況を改善できると主張している。

 ただドイツにしても米国にしても、いろいろと問題はあるにせよ、足元の経済が好調という共通点がある。スイスにいたっては、圧倒的な豊かさを誇る国であり、この状況をそのまま日本など他国に応用することは難しそうだ。

 何とスイスでは、最低賃金制度がないものの、ほとんど労働者がこの水準の以上の賃金を得ているという。つまり今回提案された最低賃金は、現状を追認したものに過ぎないというのである。おそらくこれは本当で、スイスの一人当たりのGDPは約8万1000ドルとなっており、何と日本の2倍以上もある。多くの労働者が2500円以上の時給を得ていてもおかしくない。

 スイスは金融と超高付加価値製造業を主力としており、非常に豊かである。一方、教育は実務重視型で豊富な職業訓練教育制度が整備されている。このためスイスの失業率は2.8%と極めて低い水準に抑えられている。スイスの大学進学率は45%と、欧州では異常な低さである。豊富な職業訓練制度と十分なレベルの雇用があるため、大学進学へのニーズがあまりないと考えられる。
 やはり賃上げには原資が必要だということをスイスの事例は物語っているのかもしれない。

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