世の中が思った以上に雑で無駄で、聡明な僕らにしてみればバカバカしくて仕方ないよ
世の中は雑で適当で大体が「ギリギリセーフ」で成り立っている。準備万端で取りかかられている仕事などほとんど存在しないし、満足いく出来で納品される成果物などついぞ見たことがない。間怠っこしい手続きに翻弄され、人手不足で奔走させられる。こんなに雑なのならと試しに手抜きで終わらせた仕事が褒められ、自分より先に入社した先輩よりずっと早く仕事はこなせる。まじかよ? 本当に楽勝で笑える。10年経って、20年経って、そのレベルってどうなの? それなら僕にまかせてくれれば、もっと効率よく出来るよ! 仕事はたしかにきついけど、でもそのレベルを維持してればいいんだったら、バカバカしくって仕方ないよ。こみあげちゃうよ、いろいろと。なんだったら全部聡明な僕にまかせてくれればいいのに! あの人の仕事だって、僕にやらせてくれればもっと上手にやれるのに!! なんで優秀な僕の方が「新卒」だからって理由でこんなつまらない仕事させられてるのか、もうわっけがわからないよ。ほんと、クソみたいだな、古い会社の人事制度なんてもんは!!!! だからだめなんだ Yo ! Hey ! Yo! 太平Yo!
うん、まあ、落ち着いては如何かな……。
とりあえずたまには早く帰って、ブラックジャック*1でも読もう、せっかく大人買いできる給料が手に入ったんだし。
研修医たち(3巻 195ページ)
<あらすじ>
Q市中央病院の研修医たちは、その病院組織のしきたりの古さのあまり、自分たちはちゃんとした仕事をさせてもらえず、このままではきちんとした技術が身に付かないと不満を持っている。とくに外科医長の山裏博士に不満が強く、反発心がある。あるとき、診療時間外に訪れた急患を、指導医の指示なしにこの研修医が無断で診療し、山裏博士と決定的に仲違いをし、研修医たちが博士含め他の医師の立ち会い無しで水腎症の手術をすることになる。研修医たちは、これまで虫垂炎の手術はしたことがあるが腎臓の手術は見学をしたのみで、自信がなく、ブラックジャックに立ち会いを依頼する。
ブラックジャックは、ベテランに執刀してもらってよく技術を覚えろと断るが、気になってしまい、結局手術に立ち会うことになる。
研修医達は安心して手術に臨むが、実際に患部を開くと研修医たちの見立ては間違っており、患者は水腎症ではなくウィルムス腫瘍という病気だった。怯む研修医たちにブラックジャックは「何をビビってしまったんだ!この腰抜け!」と叱責したあと「誤診は誰にだってあるんだ 気にするな」と慰め、手術を続けさせる。そして手術後に「よーし、おまえさんたち、あと七、八年は博士の元でバッチリ苦労するんだな」と残して帰る。帰り際、手術室に山裏博士がこっそり立ち会ってたのと遭遇する。
仕事にももちろんよるが、場数が大切な仕事というのは確かにある。またおそらくはどのような仕事でも、知識と経験はどちらも必要だ。きっといずれそう遠くない時期に、知識だけではどうにもならない局面が、やってくるかもしれない。そんなときは、ブラックジャックの言葉と行動を思い出してみたい。山裏博士の行動を思い出していきたい。
自分一人でうまくやったつもりになっていても、本当は周りのみんなが見守っててくれているんだってことを忘れずにいることが肝心なのだなあ。そして自分以外の誰かを、周りでこっそり見守っていられるような、先輩になっていきたいものだなあ。
誤診は誰にだってあるんだ 気にするな
座頭医師(3巻 281ページ)
<あらすじ>
盲目のハリ師琵琶丸は、人とすれ違うだけで病気を感じ取り、適切なツボにハリを刺すことで立ち所に直すことができる。町から町へ渡り歩き、料金をとらずに人々を直して渡っている。手術を邪道と断言しており、ある日ブラックジャックの手術を控えた患者に無断でハリ治療を行ってしまう。
ブラックジャックは患者の母親から電話を受け、琵琶丸を責める。これまでミスをしたことが無いと言う琵琶丸を「ではたぶん これがミスの第一号だ」と患者の元に連れて行くと、琵琶丸にハリを刺されたショックでけいれんをおこしていた。その患者は過去に注射を受けたときの恐怖で針に強い恐怖心を持っていたのだ。ブラックジャックは患者が落ち着いたあと、琵琶丸に対し、ただ「人の患者に手を出すな」といってその行為自体を批判するのではなく「いくら手術に反感を持っているにせよ せめて連絡ぐらいくれるべきだ」と苦言を呈する。
仕事にももちろんよるが、役割分担というのはそれなりに理由や目的があってなされている。自分の考えに合わないことや、無駄に思えることももちろん出てはくるかもしれない。しかしそういった文脈を無視することで、よかれと思ったことが、結果として重大なミスを引き起こす可能性もある。
何か自分の範囲を超えて変えていきたいとき、手を貸そうとするようなとき、このときのブラックジャックと琵琶丸のやりとりを思い出したい。ブラックジャックは、琵琶丸の行為そのものを批判したわけではない。それは患者を助けるという共通の目的意識を持っているからだろう。だからこそ独善的にならぬよう、密に連携をとることや事情を勘案することを疎かにしないことが肝心なのだなあ。
いくら手術に反感を持っているにせよ せめて連絡ぐらいいれるべきだ
古和医院(5巻 235ページ)
<あらすじ>
ある日ブラックジャックは山里のバスの中でバセドー病の患者をみかける。患者はこのあたりに唯一の医院古和医院に2ヶ月通っているがよくならないのだとバスの中で話をしており、気になったブラックジャックは一緒の停留所でバスを降り、こっそりあとをつけて古和医院にたどり着く。古和医師は患者に飲み薬を処方し、様子をみているが、ブラックジャックは「患者はバセドー病だから手術をするべきだ」と助言する。古和医師は「甲状腺手術はむずかしいぞ しないにこしたことはない」とはじめ抵抗するものの、ブラックジャックが立ち会うということでしぶしぶ手術をすることになる。古和医師はこれまで盲腸の手術をしたのみであり、ブラックジャックの助言を受けながら、なんとか手術は成功する。
手術後、ブラックジャックと古和医師は飲みながら昔話をする。古和医師がこの村で開業する前は医院は一軒もなく、みな4時間かけてバスで病院に通っていたことをブラックジャックは知る。飲んでいる最中に、患者の容態が急変する。これは、手術前の薬の処方が足りなかったことが原因だとブラックジャックが指摘する。古和医師はブラックジャックの助言を受けながら、なんとか処置を行い、事なきを得る。
帰り際、古和医師がブラックジャックに「りっぱな医師なんじゃろ?」と尋ねると、ブラックジャックはこのように答える。「いいや おなじく無免許だ。だが先生あなたはごりっぱです。こんな無医村で三十年も医者をやって、あれだけ村人の尊敬を受けているんだ。私はね、先生にほれこんだんですよ……」
仕事にももちろんよるが、意志の強さがとても大事な局面がある。持っている知識、技術だけではなく、そこでやり続けることが重要な物事もある。もちろん、それだけではダメだ。重要な場面において、知識が無ければ判断を間違えるし、技術が無ければ失敗に終わる。けれども、知識や技術がなぜ無いのか、状況によるものだったのではないか。そのギリギリの質でなんとか保ってくれていた人はいなかったか。だからこそ今自分が新たに取り組めるということはないだろうか。
どのような形であれ、同じ目的意識を持って仕事をしている仲間、尊敬を忘れずに、協力して取り組んでいくのが肝心なのだなあ。
だが先生あなたはごりっぱです。こんな無医村で三十年も医者をやって
死への一時間(8巻 213ページ)
<あらすじ>
安楽死専門の医師ドクターキリコが薬を買いにニューヨークを訪れた際、たまたま仕事で同じくNYを訪れていたブラックジャックと遭遇する。ふたりがレストランで「薬(安楽死させる薬)」の話をしていたところ、病気の母を持つジュリアーノがドクターキリコの鞄を奪い、母親に飲ませてしまう。その薬は、服用後には睡眠に入り、1時間で穏やかに死んでしまう。ブラックジャックはなんとかジュリアーノの居場所を探し、ジュリアーノに事態の深刻さを伝えてドクターキリコを探して連れてくるように指示する。あと20分というところでドクターキリコが現れ、薬の販売元に対処方法を聞き出す。処置に人工心肺が必要だと知ったブラックジャックとドクターキリコは、市内の大きな病院に駆け込み、無理矢理手術を開始する。
手術は無事に成功し、ジュリアーノの母親は一命をとりとめる。ブラックジャックが一緒に命を救った「安楽死専門」の医師ドクターキリコに「どうだい大将 殺すのと助けるのと気分はどっちがいい?」と尋ねると、キリコは「ふざけるな。おれも医者のはしくれだ。いのちが助かるにこしたことはないさ…」と答える。
仕事にももちろんよるが、その目的の達成のためにあえて汚れ仕事をやらなければならない人もいる。自分の信念には合わない、許せないような仕事をしている人がいるようなとき、まずはなぜその人がそのようなやり方をしているのかを知ってみるのもよいかもしれない。そこには深い覚悟があるのかもしれない。そして場合によっては、ともに大きなことを成し遂げることもある。周りの人の「役割」を意識して考えてみることが肝心なのだなあ。
ふざけるな。おれも医者のはしくれだ。いのちが助かるにこしたことはないさ…
まあお前に言われてもって感じなんだけどね
うん。だからブラックジャック勧めてるんだけど…
「いい大人がアニメアイコン」って言われないように自分でささっと描いたら今度は「いい大人が中二アイコン」って言われるアイコンになった。
— mah(まー)@★の使い魔 (@mah_1225) 2014, 5月 20
足元見ないで必死で仕事してると知らないうちに空中走ってたりしちゃうから、要注意よ(・w・)
Black Jack―The best 12stories by Osamu Tezuka (1) (秋田文庫)
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 1993/07
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*1:以下、本エントリにおける巻数は秋田文庫の「BLACK JACK the best 14 stories by Osamu Tezuka」の巻数