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(朝鮮日報日本語版) 【コラム】日本にもいた「災害現場の悪魔」

朝鮮日報日本語版 5月21日(水)10時28分配信

 セウォル号の乗船者たちを救うことのできた「ゴールデンタイム」は、30分から1時間程度。その時間のほとんどは、セウォル号乗組員の理解できない無責任さのせいで無駄になった。「ゴールデンタイム」後に生じた混乱や雑音は国民の怒りを買ったが、実際に救助できたかどうかとは関係が薄い。「なぜゴールデンタイムを生かせなかったのか」という自責は、100回繰り返してもまだ足りない。しかし、既にゴールデンタイムが過ぎてしまった後の枝葉末節的な問題をめぐってののしり合うのは、自責ではなく自虐だ。

 災害に最もうまく対処している国は日本だと思っていた。災害と共に暮らしている上、責任感・節制・正確さのある国民性も有名だからだ。そこで、朝日新聞の元主筆・船橋洋一氏が書いた『福島原発大災害の真相』(原題『カウントダウン・メルトダウン』)を読んだ。結論から言うと、当初の考えとは異なる教訓を得た。

 2011年3月11日の津波で、福島第一原子力発電所は停電し、原子炉を冷却できなくなった。こういう場合に備えて存在している原子力安全保安院所属の検査員4人は、いざ事態が深刻になるや、現場から逃げ出した。原発を運営する東京電力の社員は、家族に連絡して逃亡した。一番最初に空っぽになったのは社宅だった。政府の緊急事態宣言は一刻を争うというのに、与野党の党首会談のせいで1時間半も遅れた。最も重要な安全保安院の院長は、原子力の門外漢だった。東電の社長は1日遅れでようやく現場に到着した。首相は、1号機水素爆発の場面がテレビで放映されてから1時間後に、「爆発した」という報告を受けた。

 冷却水のポンプを回すのに必要な電源車は、原発ではなく、とんでもない場所に集められた。ようやく、あらためて現場に送ったものの、今度はポンプと接続するケーブルがなかった。電気会社にケーブルがなく、約60台の電源車は無用の存在と化した。貴重な一夜はこうして無駄になった。この2日間で、政府の発表窓口は4回も変わった。

 原子炉から蒸気を抜かなければ爆発の危険があり、蒸気を抜けば放射性物質が漏れる。政府は、蒸気を抜くと決断した。なのに、生死の懸かったその決断が実行に移されるまで、実に10時間もかかった。内閣・保安院・東電の考えがずれていた上、調整もされなかった。原子炉に海水を注入するという応急措置も、突然中断された。野党は「首相が中断させた」と言い、首相は「私も知らない」と言う。誰が、なぜ中断させたのか、今も分かっていない。3号機の使用済み燃料貯蔵プールに対する放水も、作業の順番や手続きをめぐって警察・自衛隊・消防庁間の争いが起こった。原子力安全委員会は、最初から最後まで機能「ゼロ」だった。
 津波の後、ほとんど丸一日、政府と10余りの地方自治体との間で通信が途絶えた。内閣が保安院を通さず東電に直接電話をかけられるようになったのも、政府の総合対策本部が作られたのも、4日後のことだった。福島県は、政府の指示を待たずに住民の避難を指示した。住民の避難範囲は原発から半径10キロ、次いで半径20キロに拡大され、避難場所や物資の不足で大混乱が発生した。責任機関である保安院の現場事務所には、管内20キロの地図すらなかった。被ばくした人はヨウ素剤を服用しなければならない。タイミングが命だ。なのに、薬を分配する担当者は服用法を知らなかった。薬を配って「飲むな」と指示するということも起きた。そのため、タイミングよく薬を飲んだ人はわずか7000人だった。

 避難所で住民や子どもたちが恐怖に震えているのに、警察官だけが白い防護服を着ていた。避難所の人たちは「住民が不安になるので、防護服を脱いでほしい」と要請したが、警察は拒否した。双葉病院の医師や看護師は、入院患者を放置して全員逃亡した。その間に、患者436人のうち50人が死亡した。住民に対する避難指示は、気象の状況を全く考慮していなかった。後に分かったことだが、住民は、最も危険な場所のど真ん中であちこち逃げ回っていたという。

 そうした緊急の状況で、主務省である経済産業省の大臣は、内閣での会議中に突然「記念写真を撮ろう」と提案した。秘書官まで集まり、写真を撮った。同じく原子力を担当する文部科学省の職員も、観光客のように危機管理センター内の写真を撮って回った。事態の後、首相自ら初めて東電を訪問して重大な話し合いをした際、首相が居眠りする場面もあった。

 津波に襲われる4カ月前、日本は原子力防災訓練を実施した。それでも、実際の状況になるとパニックに陥った。福島第一原発付近の都市は、事故時には速やかに通報を受けるという協定を結んでいた。事故の前は、原子炉の近くにばんそうこうが落ちていたという通報まで受けていた。しかし本当に事故が起こると、ただの一度も連絡はなかった。

 現場には、混乱を呼ぶ「悪魔」が存在する。先進国でも大きな違いはない。もしかすると、人間の限界なのかもしれない。われわれはその悪魔と戦い、混乱を減らすため不断の努力を重ねなければならない。しかし、まるで自分たちだけがそうであるかのように錯覚するのは、悪魔への屈服だ。福島第一原発で事態が進行している間、日本メディアは、多くの問題をきちんと報道しなかった。日本メディアが正しいのか、誰それがラーメンを食べたということまでつつく韓国メディアが正しいのか、それに対してはさまざまな考え方があるだろう。ただし、あまりに自分を卑下しても実質的な対策にはつながらず、恨み返し、感情的な仕返しや内紛で終わりかねない−という点だけは覚えておくべきだ。

最終更新:5月21日(水)10時28分

朝鮮日報日本語版

 

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