2014年5月20日

高齢者の物盗られ妄想の診察で気をつけていること

物盗られ妄想のある高齢者の診察では、刑事になったつもりで接するようにしている。何をいつ盗られたのか、犯人の目星はついているのかなどを聞く。これは家族や施設職員と話す時も同じで、絶対に最初から妄想とは決めつけない。特に家族の気持ちとしては、身内がいきなり妄想にとりつかれた狂人のような扱いを受けたら辛いものだ。

少し話がそれるが、高齢者の幻視(レビー小体病で起きやすい)に対しても、何が見えるのか、人なら誰が見えるのか、男か女か、知っている人か、怖くないかといったことを尋ねていく。物盗られ妄想にしろ幻視にしろ、こういう細かいことを尋ねていく過程と雰囲気は、本人はもとより同伴の家族の目にも、医師が真摯に向き合っている姿勢が伝わり、以後の関係が円滑になる。

さて、物盗られ妄想に対して薬を処方して二度目以降の診察であるが、本人に対しては「最近も盗られていますか?」と尋ねる。本人にとっては「盗られている」ことは現実なのだから、被害が減ったかどうかという形で聞く。「やっぱり盗られている気がしますか?」という質問は最悪である。

薬が効いてくると物盗られ妄想は改善する。その時、高齢者は「相手が警戒して盗らなくなった」とか「相変わらずたまに盗られるけど、もう気にしないよ」とか、本人なりに納得できる理由をつけて笑う。こちらは「あぁ、それは良かったですね」と相槌をうって、あとは睡眠や食事など体の調子を尋ねつつ普通の医者として振る舞う。

高齢者の物盗られ妄想や幻視というのは、医師や施設職員にしてみたらありふれたものだが、家族にしてみたら青天の霹靂である。だから、家族には「決して珍しくはない」と伝える。それだけで家族は少し安心する。さらに「薬でわりと良くなる」ということも必ず伝える。そして「年長者の人生に対する敬意」を、言葉遣いや態度などを駆使してそっと添える。

医師が認知症患者への敬意を示すことは、「ボケ老人」になった身内に振り回され、ついには精神科に連れてくるまでになった家族にとって、ささやかながらも清涼剤のような効果を持つ。「じいちゃん、ボケてしまってどうしようもないけど、医者はチヤホヤしてたなぁ」みたいな(笑) そしてその中で、「そういえば、こんなことがあったなぁ」など過去の良い思い出を振り返って少しだけ笑ってもらえたら、それはもの凄く治療的である。

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