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【コラム】

中日春秋

 <咄家(はなしか)は世間のあらで飯を食い>。魚の「あら」。失敗、間違い、余計なものの意で、世の中の愚かなこと、とんまな振る舞いを材料に人間を語るのが落語家の商売である

▼近頃、「あら」を求めているのは咄家だけではない。世間全体で「あら」を探している。落語が「世間のあら」で人間のおかしみや哀(かな)しさを伝えるのとはわけが違う。とことん、とっちめるためである

▼「美味(おい)しんぼ」への批判が強い。休載という。鼻血の原因が被ばくとは一方的で不穏当な表現だったか。風評被害が拡大するというのであれば地元には気の毒なことで作品には、「あら」があったということか

▼怖いのは、この種の「あら」への過剰な反応である。「ばかだねえ」「おれはそう思わない」でおしまいにならぬ空気である

▼「風立ちぬ」の喫煙場面が気に入らない。ドラマでの児童施設の描き方が許せぬ。鼻血の科学的知見がない。批判は理解できるし、頭から否定するものではないが、「あら」に血眼になる世間はやはり窮屈すぎないか

▼作品表現などへの不寛容さ。ネットの群衆による加減を知らない批判。その「潔癖さ」にたじろいでしまう。衝動的、興奮しやすい、大げさ、単純、極端−。フランスの社会心理学者ル・ボンが群衆の性質をそう指摘しているが、今の世間にも一部当てはまる。「あら」の妙味は群衆には伝わらない。

 

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