1. サカイク
  2. コラム
  3. テクニック
  4. 「ディフェンスは腰を落とせ!」は間違いだった!

テクニック

「ディフェンスは腰を落とせ!」は間違いだった!

2014年5月20日

キーワード:ディフェンス

相手ボールホルダーにアプローチをかけたときに、目前でグッと腰を落として構えて、相手の次のアクションにすばやく対処する――これが1対1の守備の常識です。しかし、この考え方に異論を唱える人物がいます。
 
「日本人がこれまで常識としてきた守備を繰り返していては、なかなかボールを奪うことはできないのです」
 
そう力説するのは、フットボールスタイリストの鬼木祐輔さんです。
 
鬼木祐輔さん
取材・文/鈴木康浩 写真/サカイク編集部
 
 

■守備のうまい選手は腰を高く保ったまま

「相手の目前でグッと腰を落としてしまうと、両脚の筋力で全体重を支えることになってしまうので、両脚が地面についてしまいます。そのような状態だと相手の動きに対して身体がついていかず、なんとか頑張っても足先だけの対応になり、相手の素早い動きについていきづらくなってしまうのです」
 
鬼木さんはご自身で編集されたという数々の映像を見せてくれました。確かにそのなかの日本人選手たちは、“常識”とされているとおり、しっかり腰を落としながら守備をしていましたが、その直後の相手の素早い動きに後手を踏み、翻弄されてしまうシーンもありました。
 
これに対し、「守備がうまい選手」として抽出された外国人選手たちの対応は異なっていたのです。1対1の守備のときに、背筋を伸ばし、球際のギリギリまで腰を高い位置に保ったまま対応し、さらに相手の左右の揺さぶりにも素早く対応できていたのです。鬼木さんが「もっとも守備がうまい」と絶賛するダビド・ルイスの守備も背筋がピンと伸びていて、背中を屈めるような守備をしていません。
 
これは一体どういうことでしょうか。
 
この説明するためには、鬼木さんも指摘するとおり、「骨盤」と「重心」の関係を理解する必要があります。
 
日本人の骨盤は欧米人に比べて後傾していると言われています。骨盤が後傾していると、同時に身体の重心も後ろへいくことになります。重心が後ろへ行ってしまうので、身体は自然と平衡感覚を保とうとして背中を丸めて前へ屈もうとします。これが典型的な猫背です。猫背の姿勢というのは骨盤が後傾している状態を指し、腰を落としたときに上半身が両脚の上に乗っかっている状態なので、素早い動きをする妨げになります。そして肌感覚としてわかると思いますが、日本人には猫背の人がとても多いのです。
 
一方で欧米人にはお年寄りでも猫背の人はまずいません。「日本人のお年寄りは杖を前につきますが、欧米人のお年寄りは杖を横につきます」(鬼木さん)。陸上競技の黒人選手のお尻が突き出たような姿勢を想像してもらうとわかりやすいでしょう。あの姿が骨盤をかなり前掲した状態です。骨盤が前掲していると、同時に身体の重心が前にいきやすいというメリットがあります。
 
「欧米人の骨格構造はそのようになっているので、お腹の辺りにある重心が前へ前へといきながら、その後追いとして両脚がついてくる、というイメージで運動ができているんです。だから、1対1の守備の局面でも、守備のうまい欧米の選手たちは、背筋をピンと伸ばしながら、お腹の辺りにある重心を前へ移動させるように相手に近づいていき、身体の重心を相手にぶつけるようにタックルができる。だからボールを奪えるケースが多くなるんです」
 
あくまで両脚は、身体の重心の移動に後追いでついてくるだけ。つまり、両脚はいつでも動けるようにフリーな状態になっているのです。
 
「だから相手の揺さぶりに対しても素早く反応して動くことができるのです。さらに、背筋がピンと伸びているから身体を大きく見せることもでき、球際では相手に『抜きようがない』といった威圧感も与えることができます。また、欧米の一流選手ともなると相手と並走しながら身体の重心を相手にくっつけるようにして、最後に片足を相手に滑り込ませるようにして行うタックル――『ポークタックル』がとてもうまいのですが、これを日本人選手はあまりしません」
 
日本人にはそれができない骨格構造的な理由があるからかもしれません。ただし、日本人選手も欧米人選手のような、良い姿勢での1対1の守備ができているケースがあると鬼木さんは指摘します。
 
「相手が自分よりも格下のときには精神的に余裕があるからか、両脚に過度の負担をかけることなく、無意識的に背筋が伸びた良い姿勢で、重心から近づきながらボールを奪えているケースがあります。逆に言うと、欧米人の守備のうまい選手でも相手が格上の場合だと力んでしまって腰が落ち、姿勢が悪い状態で1対1の守備をしている場合もあります。先日、スペインの現場を視察に行ってきたのですが、バルセロナと対峙したエスパニョーラの選手たちがまさにそうでした。一方で、躍進するアトレチコの選手たちはバルセロナ相手にも臆しておらず、むしろバルセロナの選手たちが1対1の局面で身体が力んでいる様子がうかがえたのは興味深かったです」
 
鬼木さんもその講習会などに参加し、参考にされているトレーナー・西本直さんの次のような科学的な見方があります。
 
「曲げる筋肉は強くない。伸ばす筋肉のほうが強い」
 
身体を縮こまらせ、まるで力んだような姿勢で1対1の守備をする多くの日本人選手は、強くないはずの“曲げる筋肉”を使って懸命に守備を頑張っている。一方、欧米人選手は、背筋をピンと伸ばした姿勢が象徴するように、もともと強いと言われる“伸ばす筋肉”を使いながら守備をしている――。
 
だとすれば、両者にはもはや埋めがたい大きな差があるように思えます。おまけに日本人は本来的に骨盤が後傾していて猫背も多いという現実もある。
 
【日本人選手に多くみられるアプローチ】
 
日本人選手に多くみられるアプローチ
 
日本人選手に多くみられるアプローチ
 
日本人選手に多くみられるアプローチ
 
日本人選手に多くみられるアプローチ
 
猫背になって止まり、上体が前方に出てしまい足が前に出しにくい体勢
 
【海外のうまいディフェンスのアプローチ】
 
海外のうまいディフェンスのアプローチ
 
海外のうまいディフェンスのアプローチ
 
海外のうまいディフェンスのアプローチ
 
海外のうまいディフェンスのアプローチ
 
背中で止まるイメージ。上体が起きているから足が出しやすい
 
 

■大切なのは、体重移動ではなく重心移動

それでも鬼木さんは断言します。
 
「普段のトレーニングや日常生活から姿勢をよくすることを意識すれば、重心が前へいきやすくなるので、必ず世界は変わっていきます」
 
鬼木さんは普段、子どもたちにネイマール選手やイニエスタ選手の映像を見せて姿勢の良さを意識させているそうです。また 、日本人選手でいえば、遠藤保仁選手、柴崎岳選手、柿谷曜一朗選手、南野拓実選手らの姿勢は良いという評価をしています。
 
たとえば、遠藤選手はボールをコントロールするときに、ボールを足先だけで扱おうとせずに、必ず身体の中心(重心)でボールをコントロールします。だからボールコントロールがブレることがありません。
 
「ボールを扱うのも、ボールを奪うのも、もともとの考え方のベースは同じなので分けて考える必要はありません。ボールを重心で扱うことが重要なんです」
 
1対1の守備をする際もボールを重心で扱う、という観点で考えればいいのです。ボールにアプローチに行ったとき、決して足先だけで奪おうとせずに、背筋を伸ばしながら、相手のボールに身体の重心を寄せるようにして近づき、相手の直前でピタリと止まって対応する。
 
鬼木さんはこの感覚をわかりやすく子どもたちに伝えるときに「背中で止まる」という表現を使っています。次回はこの「背中で止まる」イメージをトレーニングを通じて紹介します。
 
 
鬼木祐輔
サッカーがうまくなるために「身体を上手に動かす」という観点からサッカーを捉え、その方法を一緒に考えいていきます。しなやかで、シュッとしていて、立ち姿が美しく。 頑張らない、息まない、力まない。サッカー選手をスタイリングして行きます。現在は幼稚園児から高校生までのスクールやチームでサポートを行っております。また、ケガをしないための身体作りやケガから競技復帰までのお手伝い。自分で自分の身体の状態を知るためのお手伝いもしています。ケガでお悩みの方もご相談ください。
取材・文/鈴木康浩 写真/サカイク編集部

関連する連載記事

関連記事一覧へ

関連記事

関連記事一覧へ

テクニックコンテンツ一覧へ(103件)

コメント

  1. サカイク
  2. コラム
  3. テクニック
  4. 「ディフェンスは腰を落とせ!」は間違いだった!

Facebook でチェック!
Twitter でフォロー!

週間記事ランキング

  1. お家で簡単!! 足が速くなる方法(1/3)|サカイク
    2011年6月23日
  2. 世界陸上のメダリスト、為末大さんに直撃!「速く走る」方法を教えてください!|サカイク
    2013年6月13日
  3. 【小学4~6年生対象】サカイクキャンプ2014 Summer エントリー受付中!|サカイク
    2014年5月 8日
  4. 本田圭佑選手のACミランでの背番号は? 歴代10番を振り返る|サカイク
    2013年12月 9日
  5. あなたの子どもは晩成型? それとも早熟型? それぞれの育てかた|サカイク
    2014年5月13日
  6. あきらめない心を伸ばす! 晩成型の育てかた|サカイク
    2014年5月14日
  7. 中村憲剛選手を育んだ「信じて見守る」家族愛とは|サカイク
    2013年8月 6日
  8. 少年サッカーの練習メニュー動画・記事一覧
    2012年3月24日
  9. すぐに、誰でも、簡単に! 速く走るために大切な3つのポイント|サカイク
    2013年9月18日
  10. あなたの言葉が、子どもの毒になる!? WACアカデミー取材記事まとめ
    2014年5月12日

一覧へ