20140519[Mon]
[カテゴリ]映画
ブルージャスミン
BLUE JASMINE
2014(2013)/アメリカ/G 監督/ウディ・アレン 出演/ケイト・ブランシェット/サリー・ホーキンス/ボビー・カナヴェイル/アンドリュー・ダイス・クレイ/他
虚栄という名の花
さんざ言われているであろうが、ヴィヴィアン・リーの怨霊が憑依したがごときケイト・ブランシェットの狂態に顔で笑ってこころで哭いて、「映画は映画」と異化できない自分に戸惑い、別に老ウディ・アレンが頼んだわけでもないのにワガの生活圏生息圏にお話をスケールダウンし嵌め込んで、身切れのするような思いにほたえた人は多いのではなかろうか。斯く言うわたしも実はそうで、「多いのではなかろうか」などという数を恃んでマジョリティたり得たい自分の足元を確認したそうな浅ましくも惨めな一文からもそれが顕著な傾向にある事はご確認いただけると思いまするが、かと言ってサディズムに満ち満ちた視線でセレブから文無しになった女の虚栄、ジャネットというありふれた名前が嫌でジャスミンと名乗るそのジャスミンさんの転落を嘲謔/冷笑致します向きに対してはマッチョなことね、おほほ、と含んで言ってしまいそうになるのもまた事実。『欲望という名の電車
「過去は安い本と同じ。読んだら捨ててしまえばいい」 とは『ヤングガン
まあ、前向け前、つうシバキ主義ひとつで解決はせんずとも糸口程度は与えられたであろう話なのだけれども、引きずる過去には玉の輿や社会的ステータスといった表面的なものの他に、里子として育てられた過去や何故に自分の話しかしない人間になってしまったかという詮索するのも失礼に値する過去もあって、我々は窃視的にならざるを得ないのだが、薀蓄小僧やインテリなどイヤミだなぁと感じるひとびとを本当にイヤミに描いてきたアレン監督のこと。当然のごときに、元セレブに蜘蛛の糸が垂らされるわけもなく、喜劇めかして作り込んでいてもジャズの音が残酷に耳孔に響く。
のべつ蔑視的に落ちぶれた人間を描くには、対極を成す成功者の存在が不可欠だが、腰掛けバイト先の歯医者にしろ、小さい中古楽器屋で静かに暮らしている継子にしろ、たまたま知り合えた国務省官吏にしろ、ジャスミンの態度次第で懐柔できる余地はあったのであり、それを自らの振る舞いで袖にしていく彼女の姿は蔑視と自我の人称を意図的に織り込んでいるようにも見える。そして諸々の振る舞い……世間知らずというにはある種の生き方に固執し、独り言を繰り返しながら人には距離を取られ、自分で定めた「身分」以外の人間への共感能力を著しく欠いたその「天然」っぷりから、ジャスミンは発達障害でもあるということを言外に匂わせたかったのではないのかと個人的に思うのだけれども、最後の最後、破滅的なリベレートののち彼女が口にした台詞からもそう匂うのは穿ち過ぎか。
虚栄の残滓として人間関係やファッションを記号化し、労務者までをも現状の記号、今のお前が関わるに相応しい人間として描く毒性は、解毒としての苦笑いを要求してくる。現代にタイムスリップしてきた武士が車両を見て「鉄のイノシシだ!」とほたえ騒ぐ様を見て笑うのと決定的に違うのは、彼女の起こす齟齬が不在の恐怖とも似たるもので、下の人が居なくなってのち、次は自分かも、つう当事者意識に通底するものであるからだ。緩慢に自死に向かっている事をこれから幾つもの挫折を経て、彼女はやっと現実をまなざせるようになるのであろう。凄まじい代償を払ってのち、やっと生きられる人間も居る。そんな事は78歳にもなった人間がそうそう屈託なく口に出せるものでもない。ウディ・アレン、まだまだ若い。
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