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健康影響描写が議論「美味しんぼ」最新号
5月19日 16時36分

健康影響描写が議論「美味しんぼ」最新号
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東京電力福島第一原子力発電所の事故による健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」を連載する雑誌の最新号が19日に発売され、地元福島県では「不安に追い打ちをかけられた」と批判的な意見がある一方で、「原発事故の問題が風化してきているなかで発信することは大事だ」と理解を示す声も聞かれました。

「美味しんぼ」は、小学館の雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載されている人気漫画です。
先月28日の連載で、主人公が福島第一原子力発電所を取材したあとで鼻血を出し、実名で登場する福島県双葉町の前町長が「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と語る場面などが描かれ、福島県や双葉町が「風評被害を助長する」などと批判していました。
最新号では、自治体からの批判や、有識者13人の賛否両論を載せた特集記事が組まれ、最後に「編集部の見解」が掲載されています。
この中で編集部は、一連の表現について「残留放射性物質や低線量被ばくの影響について、改めて問題提起したいという思いもあった」と説明したうえで、「さまざまなご意見が、私たちの未来を見定めるための穏当な議論へつながる一助となることをせつに願います」と締めくくっています。
これについて、福島県ではさまざまな意見が聞かれました。
このうち、福島県中島村の64歳の女性は「放射線量が下がってきて、食品もいろんな検査を通して落ち着いて生活できるようになってきたのに、3年目にして不安に追い打ちをかけられた気持ちです」と話していました。
本宮市に住む30歳の女性は「全体的に原発事故の問題が風化してきているので、このように発信することは大事だと思う。福島がこれから立ち上がっていこうとしているところをほかの人にも知ってほしいし、この問題を取り上げるのは勇気のいることではないか」と理解を示していました。

前双葉町長「住民と議論尽くすべき」

漫画「美味しんぼ」に実名で登場した福島県双葉町の前の町長の井戸川克隆氏は19日、NHKの取材に応じました。
このなかで井戸川前町長は、血が付いた紙を見せながら、みずからもいま毎日のように鼻血がでるとしたうえで、「鼻血が出ることについて、風評ということばで片付けられようとしているが、福島でどのように皆が苦しんでいるか、鼻血がどれくらい出ているか、実態を調べていない人が『ない』と言っている感じがする」と話しました。
そのうえで、「『安全だ』と言う人と『危険だ』と言う人の両方の意見を聞くべきだが、そうしたプロセスが取られずに、安全だとか、安心だという宣伝ばかりが先行しており、危険だという人の意見を小さくしている。避難にあたっての放射線の基準などについて、政府は一方的に考えを押しつけるのではなく、さまざまな考えを持つ住民と議論を尽くすべきだ」と述べました。

被ばく検査の医師「国民全体が放射線の知識を」

東京電力福島第一原子力発電所の事故による健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」について、福島県南相馬市を拠点に住民の被ばく検査を行っている東京大学医科学研究所の坪倉正治医師は、放射線の影響を正しく判断できるよう、国民全体が放射線の知識を身につけることが重要だと訴えました。
坪倉医師は被ばくと鼻血の関連性について、「現在のさまざまな放射線量の測定では、被ばくが鼻血を引き起こすような高いレベルではない。被ばくによる鼻血は血小板の減少で出血するので、鼻血が少し出るという程度ではすまない」と指摘しました。
また、福島には住めないという表現について、「汚染が起きたことは確かだが、3年以上計測してきた住民の被ばく線量では、現在、人が住んでいる地域は安全性が担保される被ばく量に収まることが分かっている」と述べました。
そのうえで、「今回の件で福島の子どもたちが将来、差別を受けるきっかけを作ってしまったことは残念だ。差別や臆測に対して行われている放射線の検査や被ばく線量などを、福島の住民1人1人が自分のことばで説明できるようになってほしい。福島県外の人たちも福島の現状を正しく理解し、放射線を安全か危険かという二元論ではなく、どういうものかを小中学校できちんと議論して理解する機会を増やすべきだ」と訴えました。

「正しい情報提供を積極的に」

メディア論に詳しい学習院大学の遠藤薫教授は「放射能を不安に思っている人に対して『根拠がない。風評だ』とだけ言っても、実はもっと怖いことが隠されていると思ってしまい、事態が悪化する。不安に対していろいろな形で答えていくのが重要で、これまでの研究でも正しい情報を積極的に提供していくことで、根拠のないデマに惑わされなくなるというのがセオリーだ。委縮して声を出しにくい状況をつくるのではなく、いろいろな情報を出して議論する場をつくっていかなければいけない」と話しています。

被ばく医療専門家「血管だけ障害考えられない」

被ばく医療が専門の放射線医学総合研究所の明石真言理事は「全身に被ばくして骨髄に障害が起きて血小板が減り鼻血が出ることはありえるが、今回の事故では住民に骨髄に障害が起きるような被ばく線量になっていない。鼻の周辺に強い放射線が当たるような場合でも周辺の粘膜や皮膚組織にも障害が出るはずで、血管だけが障害を受けるということは考えられない。鼻血の症状を訴える頻度が増えているとしたら放射線以外のことを考えるべきで、さまざまな原因があり人によって違うと思う」と話しています。
そのうえで今回の問題については「人々の間に放射線への不安が完全には消えていないことと、専門家の話を心の底から信頼できていないことが大きいと思う。『また福島でこんなことが起きているの』と福島県外の人に思わせてしまったことは大きなマイナスで、こういうときにどうすべきかみんなで考えていくべきだと思う」と話しています。

「国は疑問解決のための調査を」

「美味しんぼ」の問題について、科学技術と社会の関係を研究している大阪大学コミュニケーションデザイン・センターの平川秀幸教授は、「放射能の影響を一面的に描くことで誤った情報が広まるおそれがあり、当然配慮が必要だったと言える。しかしこの一方で、多くの人が被ばくについて心配するなか、住民の不安な思いなどがかき消され、伝えられなくなるのは大きな問題だ」と指摘しています。
そのうえで、「国などは住民が放射能の影響について何を問題とし不安に思っているかきちんと向き合い、疑問を解決するための調査などを進めていく姿勢が求められる」と話しています。

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