「美味しんぼ」最新号にさまざまな意見5月19日 12時07分
東京電力福島第一原子力発電所の事故による健康影響の描写が議論を呼んだ漫画「美味しんぼ」を連載する雑誌の最新号が19日に発売され、地元福島県ではさまざまな意見が聞かれました。
「美味しんぼ」は小学館の雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載されている人気漫画です。
先月28日の連載で、主人公が福島第一原子力発電所を取材したあとで鼻血を出し、実名で登場する福島県双葉町の前町長が「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と語る場面などが描かれ、福島県や双葉町が「風評被害を助長する」などと批判していました。
最新号では、自治体からの批判や、有識者13人の賛否両論を載せた特集記事が組まれ、最後に「編集部の見解」が掲載されています。
この中で、編集部は一連の表現について「残留放射性物質や低線量被ばくの影響について、改めて問題提起したいという思いもあった」と説明したうえで、「さまざまなご意見が、私たちの未来を見定めるための穏当な議論へつながる一助となることを切に願います」と締めくくっています。
これについて、福島県ではさまざまな意見が聞かれました。
このうち、福島県いわき市の仮設住宅で避難生活を続ける70代の男性は「県内外の子どもたちが面白おかしく読むことでどう感じるのか不安がある。放射能への影響についてはさまざまな考え方があって、慎重な意見が必要だと思う。難しい問題なので、漫画で表現できる問題ではないと思う」と話していました。
郡山市に住む25歳の会社員の女性は「取材も踏まえて福島県にゆかりのある人の意見も載せられているので、地元の意見も反映させてくれたのかなと思います」と話していました。
仮設住民「ショックや怒り」
漫画「美味しんぼ」について、福島県いわき市の仮設住宅で避難生活を続ける双葉町の50代の女性は「漫画が出たあと、知人から鼻血が出てないかと笑いながら言われたのがショックでした。漫画で見たぞと言われて、いい気持ちではないです。双葉町に帰れないなかで、いい迷惑です。漫画を書いた人に対しては怒りでいっぱいです」と話していました。
漫画は読んでいないという70代の男性は「鼻血が出たことはないので、全く関心はない。一部の人がそう言っているだけで、ここの仮設住宅でも鼻血が出たという話を聞いたことはない。私たちは普通に暮らしている。福島では住むことができないとも書かれていたが、そんなこと思ってもいない」と話していました。
また、別の70代の男性は「漫画には関心がないので読んでいないが、県内外の子どもたちがおもしろおかしく読むことでどう感じるのか不安がある。放射能への影響についてはさまざまな考え方があって、慎重な意見が必要だと思う。難しい問題なので、漫画で表現できる問題ではないと思う」と話していました。
「美味しんぼ」に批判や不安
漫画「美味しんぼ」について、福島県内では「県民の心が傷つけられた」などと批判的な意見がある一方で、「放射能の影響が事実なら心配だ」といった不安の声も多く聞かれました。
福島市に住む46歳の会社員の男性は「自分の周りで鼻血が出たという話は聞いたことがないし、根も葉もないことではないかと思う」と話していました。
福島県中島村の64歳の女性は「今回の記事で県民の心は傷つけられたと思います。放射線量が下がってきて、食品もいろんな検査を通して落ち着いて生活できるようになってきたのに、3年目にして不安に追い打ちをかけられた気持ちです」と、不満の声をあげていました。
また、郡山市に住む25歳の会社員の女性は「取材も踏まえて福島県にゆかりのある人の意見も載せられているので、地元の意見も反映させてくれたのかなと思います」と一定の理解を示しながらも、「なぜ、今なのかと思うし、毎日福島で私たちが過ごしていることを否定された気持ちです」と、複雑な感情をのぞかせていました。
また、相馬市に住む59歳の会社員の男性は「鼻血の問題など放射能の影響が事実なら心配だ。ただ、事実かどうか分からないし、福島のことを知らない人が見たら福島は危険なのだと思われてしまうだろう。デリケートな問題なので伝え方に配慮してほしかった」と話していました。
橋下大阪市長「読者の判断に」
大阪府とともに小学館に抗議文を出した大阪市の橋下市長は記者団に対し、「われわれが出した抗議文と編集部の見解の両方が載せてあり、十分ではないか。あとは、読者に判断してもらえばいい。われわれの抗議は、公権力の行使ではなく言論で主張したことであり、何ら問題はない。ただ、がれきを処理した大阪・此花区の焼却場の近くには、実際に多くの人が住んでいて、不安になることは間違いなく、表現の配慮が必要だったと思う。表現されていたような事実があれば対応するが、そういう事実はない」と述べました。
「美味しんぼ」これまでの論議
「美味しんぼ」は、小学館の漫画雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」で昭和58年から連載されている雁屋哲さん原作で花咲アキラさんが描く漫画です。
芸術家で美食家でもある海原雄山と、その息子で新聞記者の山岡士郎の親子の確執を軸に、「食」の問題を描く作品で、これまで110巻が刊行され、累計発行部数は1億2000万部に達しています。
「美味しんぼ」は、食だけでなく環境問題などのテーマにも踏み込んできましたが、東京電力福島第一原子力発電所の事故から2年近くたった去年1月からは「福島の真実」編として、原発事故で放出された放射性物質による汚染や、地元の農業への影響、それに健康の問題を取り上げてきました。
このうち先月28日発売号で、主人公の新聞記者たちが福島第一原発を取材したあと鼻血が出る場面が描かれ、実名で登場した福島県双葉町の前町長が「福島では同じ症状の人が大勢いますよ」と語る描写について、双葉町が「風評被害を生じさせている」として小学館に対して抗議文を送るなど批判を浴びました。
一方、原作者の雁屋哲さんは今月4日、自身のブログで作品が批判されていることに触れ、「私は自分が福島を2年かけて取材をして、しっかりとすくい取った真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない」と反論しました。
そして今月12日発売号では、双葉町の前町長や福島大学の准教授が実名で登場し、「福島県内には住むな」とか「人が住めるようにすることはできない」などと語る場面が描かれました。
これに対し、福島県の佐藤雄平知事は「全国の皆さんが復興を支援してくださって、福島県民も一丸となって復興を目指しているときに、全体の印象として風評を助長するような内容で極めて残念だ」と述べ、不快感を示し、県のホームページにも表現内容を批判する文書が掲載されました。
また、東日本大震災のがれきを処理した大阪の焼却場の近くで、眼などに不快な症状を訴える人がいるなどという表現もあり、大阪府と大阪市が「事実と異なる」として小学館に抗議文を送っています。
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