アスリートの魂「夢へ跳ぶ トランポリン 伊藤正樹」 2014.05.15

ウルトラマン。
怪獣を倒し地球を守る子どもたちのヒーローです。
空中を華麗に飛び回るその姿。
そんなウルトラマンに憧れ今も宙を舞い続けるアスリートがいます。
持ち味は地上8メートルまで跳び上がるその高さ。
世界ランキング1位に2回も輝いた日本のエースです。
ところが2年前初めて出場したロンドンオリンピック。
演技の難しさを示す難度点で大きな差をつけられます。
(実況)伊藤の目に涙。
結果は4位。
高さだけではメダルを取れないと思い知らされました。
ホントメダルは取れる点数だと思っていたので。
自分は難度点が間違いなく一番低かったので。
そこの差っていうのはすぐにでも実感しましたし。
2年後のオリンピックで雪辱を果たすため伊藤選手は今難度を上げた大技に取り組んでいます。
何回やっても失敗。
前に進めません。
お前の場合…一歩間違えば大けがにもつながります。
その恐怖も克服しなければなりません。
それでも「自分にはいつかできる」。
そう信じて一日一日を闘っています。
周りがまねできないっていうものを作ろうっていうのも考えてるし。
守らないというか…夢へ向かって高くそして強く跳びたい。
もがき続ける伊藤選手を見つめました。
午前11時。
伊藤正樹選手です。
(取材者)こんにちは。
ちはっす。
聴いてるのですか?
(取材者)エグザイルじゃあファンですか?ずっと聴いていますね。
(取材者)エグザイルダンスやるから伊藤さんもそういう…?いや〜ダンスきついっすね〜。
オリンピックの強化指定選手として伊藤選手はこの施設で週6日練習を行っています。
目標は2年後のリオデジャネイロ大会日本選手初のメダル獲得です。
練習が始まりました。
(口笛のような音)聞こえてきたのは口笛のような音。
伊藤選手の呼吸音です。
着地の時重力で全身に体重の10倍以上の力がかかります。
そのため一気に息を吐き出し全身に力を込めるのです。
1回の演技で100メートルを全力疾走する体力を使うといわれます。
空中アクロバットと呼ばれるトランポリン。
1回の演技につき回転やひねりを加えたジャンプを10本行います。
演技は3つの項目で採点されます。
姿勢が整っているか回転は十分かなど技の完成度を評価します。
少ない時間で回転やひねりをどれだけ入れているかその回数によって技の難しさを評価します。
高さがどれだけ出たか滞空時間で測ります。
トランポリンの中央に設けられたジャンピングゾーン。
選手はこの中で演技を行い少しでも外れたら減点になってしまいます。
そのためゾーンからはみ出ないように通常放物線を描いて行ったり来たりしながら技を行っていきます。
一瞬の判断ミスでゾーンを大きく外れると失格になります。
(実況)ああっ!演技中断。
(解説)終わってしまった〜。
(実況)これで演技が終わります。
やり直しはききません。
(解説)これも高得点。
(実況)あっ…流れたぞ。
あ〜演技中断!
(解説)まさかの…残念。
伊藤選手のジャンプ。
その中でひときわ目立つものがあります。
それは演技の高さ。
最高到達点は地上8メートルです。
この日練習していた日本代表クラスの選手と比べてみます。
体一つ分高く跳んでいるのが分かります。
その高さは山手線の高架も楽々跳び越えるほど。
世界屈指の高さといわれます。
伊藤選手がその高さで世界に注目されたのは3年前。
イギリスで行われた世界選手権。
決勝で出場選手の中で3番目の高さを出します。
(解説)いいですね。
同じ高さで来てますね。
(実況)安定感としてはどうでしょうか?
(解説)非常にいいですよ〜。
ジャンピングゾーン捉えてやってますね。
お〜終わりいいですね〜!この大会で銅メダル。
この年ワールドカップでも優勝世界ランキング1位となりました。
やっぱりトランポリンにおいて…伊藤選手はどうやって高く跳んでいるのか。
大学トップクラス日本体育大学の池野友崇選手とジャンプを比較しました。
まずは池野選手のジャンプ。
膝を曲げながらベッドと呼ばれるトランポリンの網の部分に着地。
足を伸ばして踏み込みベッドの反発力を利用して跳んでいます。
続いて伊藤選手。
一見同じように見える着地の姿勢。
違いはベッドに接する瞬間の膝の角度にありました。
池野選手はおよそ145度。
それに対し伊藤選手はおよそ130度。
伊藤選手の方が深く膝を曲げている事が分かりました。
伊藤選手は膝をより大きく曲げて着地する事で踏み込んだ時ベッドを限界ギリギリまで押し下げ大きな反発力を生み出していました。
更にベッドを離れる直前。
足の先に注目。
最後の瞬間まで爪先でベッドを蹴り上げ反発力を最大限得ようとしていました。
ベッドの一番下に着いた時に軽く底を感じる部分があるので触るっていうんですかね床はないんですけど床に触れてるようなちょっと平たい薄い板みたいなのがある感じが瞬間があるのでそこを捉えるというか。
トランポリンのバネを最大限利用できる技術が世界屈指の高さを生んでいました。
練習が休みの日は気分を変えるため外出するようにしています。
この日は都内のスポーツ用品店。
(店員)一応アジャスターが2つついているので自分で調節はできるようになってるんですよ。
買おうと思っていたものがあります。
大会で使うシューズです。
自分目立つの好きなんで目立ちたい主義なんでちょっと会場で目立っちゃおうかなっていう感じで。
色デザインお気に入りが見つかるまで妥協しません。
難しいっすね。
ホントにどれがいいのかっていう。
買うまで1時間。
好きなものには没頭するタイプだといいます。
トランポリン跳んでいる時は結構周りから近寄りづらいみたいな言われるんですけど全然そんな事ないというか子どもみたいなものなので。
ゲーム好きで遊ぶ事が好きなので。
ボウリングとかもカラオケとかもみんなで行きますし。
伊藤選手は東京都生まれ。
トランポリンとの出会いは3歳の時でした。
年の離れた姉に誘われた近所の体操クラブ。
そこにトランポリンがありました。
高く跳び上がれるトランポリンをすぐに気に入った伊藤選手。
それは当時夢中になっていたテレビ番組のためでした。
「ウルトラマン」。
心を捉えたのは華麗に空を舞うジャンプでした。
「ウルトラマンのように自分も空を跳びたい」。
一日4時間の練習も苦にせず日々打ち込んでいたといいます。
ウルトラマンを使ってこう回ってここで下を確認するとかウルトラマンの顔を使って自分の目を置き換えて回ってここが見えるところだみたいなのを多分彼はやってたと思います。
彼自身からにじみ出てるっていうんですかね。
こいつはホント好きなんだなっていうのが伝わってくるんで。
夢のヒーローを追い続ける。
それがアスリート伊藤正樹選手の原点となっています。
やっぱり現実離れしてるものにもしかしたらちょっと憧れがあるのかもしれないですね。
まあ自分は絶対なれないですしなれないけどテレビの向こうにはなってる人がいるので。
やっぱりいつかなってみたいなっていう感じは昔からあったのかもしれないですね。
(取材者)それを誰かに言ったりするんですか友達とか?いや言わないです。
多分恥ずかしがって絶対言わなかったと思います。
リオデジャネイロ大会で目指す日本選手初のメダル。
そのための特別コーチを招いた特訓が続いていました。
元シドニー大会の日本代表。
かつて日本選手権を7連覇したプロ選手です。
中田コーチの下伊藤選手は1年前から難度の高い大技に挑戦しています。
意識してるのに。
「何としても成功させたい」。
理由がありました。
2年前のロンドンオリンピック。
伊藤選手は初めて出場を果たしました。
当時世界ランキング1位。
メダル獲得が期待されていました。
決勝。
(解説)真上に。
いいですよ。
(実況)抱え込んだこれもセンター。
難しいとされた3回宙返りを3本入れた演技。
(解説)決めろ!
(実況)決まった!伊藤にしか出せない高さその高さが出ました!会心の笑顔が出ました!伊藤選手の得点です。
跳躍時間点1位難度点は3位。
この時暫定トップでした。
しかし続く…3回宙返りを伊藤選手より多く入れてきました。
(解説)4回決めてきました。
(実況)これは難度は高い!1回2回3回そして4回連続。
難度点で伊藤選手を0.5上回りました。
銀メダル。
3回宙返りを5本入れてきました。
(実況)ここは中心で3回転をまとめてきます。
更にそのうちの3本はより難しい足を伸ばしたままの宙返り。
難度点で伊藤選手を1.2上回り金メダル。
結局伊藤選手は4位。
難度点の差でメダルをあと一歩で逃しました。
難度点が高い選手があそこまできれいにできるとやはり勝てないのでどうしても自分は難度点が間違いなく一番低かったのでそこの差っていうのはすぐにでも実感しましたし。
リオまでは勝負をしにいくっていう考え方の方がやっぱり強くなりましたかね。
さあ行こうリズムだけなしっかり。
伊藤選手が取り組む新たな技。
それはトリフィス・ルディーアウトと呼ばれる難度の高い大技でした。
まずより難しい足を伸ばしたままの前方2回宙返り。
このあと宙返りと同時に体を左に1回半ひねるというものです。
ロンドンでの前方3回宙返りはひねりが180度のみ。
この短い時間の中で更に360度ひねりを加えなければなりません。
10本のうち1本目でトリフィス・ルディーアウト。
続く2本目3本目も別の難度の高い技。
そんな構成のジャンプをリオまでに3年かけて完成させる計画でした。
しかし新技は一筋縄ではいきません。
トリフィス・ルディーアウトを行うと後が続きません。
2本目の技に移れないのですその理由は着地の場所にありました。
着地の場所は跳び出しの角度で決まります。
新技はよりひねりを加えなければならないため伊藤選手は技を早く始めようとして前のめりに跳び出していました。
そのため勢いでジャンピングゾーンを外れてしまうのです。
ゾーンの中で演技をするためにはできるだけ真上5度以内の角度で跳ばなくてはなりません。
更に深刻な難しさがあります。
ベッドから跳び出してしまいました。
新技に取り組んで以来こうした事が目立つようになりました。
一歩間違えば大けがにつながります。
これは伊藤選手の頭につけたカメラの映像です。
8メートルの高さ。
トランポリンが小さく見えます。
こんな視界の中複雑な演技をしていると時折恐怖を感じる事があるといいます。
やっぱり感覚競技なので回転をしながらひねるので自分が一瞬でもどこにいるかを状況把握できなくなった場合は…ほかの選手であればあそこまで移動はしないんですけど彼は高いがゆえにちょっとした肩の倒れ方本当に10度とかそれぐらい倒れちゃうと大きくトランポリンの外まで行っちゃう可能性があるぐらい。
それは高さがあるがゆえの宿命的なものですけども。
中田コーチはトランポリンの周辺に保護マットを巡らせて万全の態勢をとっています。
それでも…。
けがの恐怖は消えません。
伊藤選手は1年前この技に取り組み始めた直後実際に落下して腰を痛めてしまいました。
その時のけがの治療を今も続けながら練習を行っています。
技の難しさ。
そして恐怖心。
乗り越えなければ結果を出す事はできません。
どう向き合っていけばいいのか。
都内で1人暮らしをしている伊藤選手。
(取材者)そちら皆さんいっぱい写っているのは何ですか?体操ニッポンとして復興応援ツアーとして行った時のパンフレットとか結構思い出みたいなのを残しています。
練習に行き詰まると決まって映像を見たくなる選手がいます。
(テレビ・実況)「さすがに見事な力を見せましたロシアモスカレンコ」。
何回見てもすごいですね。
ロシアの…11歳の時伊藤選手はシドニーオリンピックを現地で観戦。
その時生で見たモスカレンコ選手の演技が今も忘れられません。
モスカレンコ選手は一度練習中に背骨を骨折して現役を引退しました。
しかしシドニーでのメダルを夢みて復帰。
背中の痛みに耐え大会へ出場。
不屈の闘志で見事金メダルを取りました。
その姿を見る度勇気を感じるといいます。
衝撃も受けましたね。
大きな目標リオデジャネイロ大会。
それまで自らがなすべき事は。
考えていました。
4月新技に取り組んでちょうど1年。
伊藤選手はその節目に国際試合に出場する事になっていました。
実戦で新技を試そうというのです。
この日本番を想定した練習を行いました。
さあいこう。
リズムしっかり。
(中田)さあいこう集中!
(中田)さあ決めるぞ。
なんとか最後までできました。
しかし内容は満足できるものではありませんでした。
本番という気持ちを置いてあれだけできたというのは今日としては十分な収穫だったと思いますしただ細かく欲を言えばやはり細かいところのミスがあったのでそこはやっぱりもっともっと修正してうまくなっていかなきゃいけないかなと思いますけど。
2年に1回開かれる…おはようございます。
カナダや中国から世界トップクラスの選手が参加する大会。
どこまで新技が世界に通用するのか占う絶好の機会です。
ところが試合前日の練習での事でした。
伊藤選手は跳びながら違和感を感じていました。
簡単な技なのに着地に失敗してしまいます。
バランスを崩して落ちてしまう選手も出ました。
何が起きているのか。
伊藤選手はトランポリンを確かめました。
すると…。
ベッドを張るスプリングの長さがそろっていませんでした。
カナダでは一般的に使われている台。
しかし日本で使っているものに比べベッドの張り方が均等ではありません。
この台で新技を行って危険を伴う事はないのか伊藤選手は不安を感じていました。
取り返しのつかない事態は避けたい。
スタッフと協議を行います。
宿舎に戻った伊藤選手ある決断を下しました。
新技をやめるというものでした。
思わぬ事態の中迎えた翌日の予選。
新技をやめたのは確実に演技を行うためでした。
ところが…。
持ち味の高さがだんだん落ちていきます。
9本目で演技中断。
途中の小さなミスを立て直せませんでした。
新技を回避するという安全策をとりながら予選敗退。
最悪の結果でした。
決勝。
伊藤選手が目にしたのは屈辱的な光景でした。
自分が断念した難度の高い技に各国の選手たちが挑戦戦っていたのです。
自分の弱さを痛感していました。
新技の特訓が2年目に入りました。
伊藤選手練習を再開します。
しかしその途中…。
落下。
平気?大丈夫です。
10本の通し練習。
やめてしまいます。
恐れる気持ちが頭から離れなくなっていました。
無言で練習場を後にします。
ところが再び伊藤選手が戻ってきました。
このままでは何も変わらない。
再びの通し練習。
トリフィス・ルディーの終わりしっかり確認して。
ナイス!見せろ見せろ。
成功でした。
思い切りのいい真上への跳び出し。
恐怖を乗り越えやり遂げました。
苦い経験をバネに攻めの気持ちを新たにする事ができました。
あち〜。
でももっといった気もするんですよね。
チャレンジャーとして思い切って高さをとって新技で勝ちにいくというか。
新技を入れる事によって難度が上がるのでそれを入れてホントに単純に金メダルを狙って。
周りがまねできないというものを作ろうというのも考えてるしオリンピックだからといって守らないというか。
最後まで攻めていきたいかなとは思いますね。
子どもの頃抱いたヒーローへの憧れ。
その心を忘れずに追い求めた世界への思い。
2年後の勝利を信じ挑戦は終わりません。
伊藤正樹選手25歳。
夢へ向かって跳び続けます。
2014/05/15(木) 01:35〜02:20
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「夢へ跳ぶ トランポリン 伊藤正樹」[字]

トランポリンの国内第一人者、伊藤正樹選手に密着。初出場のロンドン五輪でメダルに届かなかった悔しさをバネに、高難度の技でリオ五輪での雪辱を誓う“跳人”の闘いを追う

詳細情報
番組内容
1回のジャンプで宙返りやひねり技を繰り出し、高さと美しさ、難易度を競うトランポリン。世界で数人しかできない8mものジャンプで“跳人”と呼ばれるのが伊藤正樹選手、25歳だ。2011年に世界ランキング1位となったが、初出場のロンドン五輪では技の難易度でライバルに差をつけられ4位に終わった。2年後のリオ五輪で雪辱を果たすため伊藤選手は最高難度の技に挑んでいる。世界の頂点を目指す闘いを追う。語り:萩原聖人
出演者
【語り】萩原聖人

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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