今井川屋に寒天は1切れもおまへん
(ため息)
売る物がないんだすわ。
せやからこうして荷物運んで小銭稼ぎしてはるんだすなあ
(松吉)うお〜!うちは真帆という名を捨てて団子屋のお広の娘てつとして生きていきます。
あの時ヤケドしました。
これが今のうちだす。
てつだす。
番頭はんは虫かご作りの内職だす
(善次郎)ハア〜ッ。
秋が終わろうとしております。
冬がやって来ます!
(和助)あ痛っ!
(梅吉)あっ旦さん!あ〜すまんな。
寒うなってきましたから。
お膝だいぶ痛むのと違いますか?
(お里)今日は15日の日ぃやのにお魚も出せんですんません!よっこらしょと。
(嘉平)ゆでて潰した里芋や。
これを寒天で固めたい。
わては里芋を固めるような寒天が欲しいんや。
作ります。
え?わてが作ります!作りたいんだす!松吉が作ってくれたらうちもう寂しない。
約束。
さいなら。
きついなあ!ああ!わてらが気張らんとな!ごちそうさんでした。
(一同)ごちそうさんでござります。
善次郎。
へえ。
悪いけどな…半兵衛さんの寒天場行って出来具合見てきてくれへんか?居ても立ってもいられんのや。
行って味見してなあもしよかったらその場で出来た先から買い付けを決めてきてほしいねん。
へえ!2人とも急に元気にならはった!最初から元気や!よう言うわ。
(笑い声)待っておくんなはれ!寒天場わてに行かせてもらえませんやろか?え?何を言うてまんねん。
わては…寒天を作りたいんだす。
寒天を作る!?あんさんは問屋の丁稚だす。
真帆家の嘉平さんの夢なんだす!嘉平さんは生前腰の強い寒天を探してはりました。
里芋をすり潰してそれを寒天で固めようとしてはりました。
里芋なんか固まる訳おまへん。
寒天っちゅうもんは粘りのあるもんには負けてしまうもんなんだす。
そうだす!せやからわてが作るんだす!必ずその寒天を作ると…真帆家の嬢さん真帆さんと約束しました。
腰の強い寒天作って嘉平はんの供養にしたいという訳か?へえ!寒天場は冬の間ずっと続く。
その間大変やと思う。
ホンマにすまん!わてには寒天場なんかきついわ。
井川屋の裏任される方がよっぽど楽や。
梅吉…。
せやから店の事は忘れて思う存分寒天作ってき!おう。
これお握りな。
くれぐれも気ぃ付けて。
(お咲)早う…早う帰ってきなはれや。
ほな行て参じます!
(火打ち石の音)松吉…ええ寒天持って帰ってこいよ。
台所はうち一人でやるさかいお咲ちゃんは…。
松吉っとんは?いつも何してはんの?わてと外で小銭稼ぎだす。
ベカ車押したり舟の荷ぃ降ろしたり…。
それや。
うちそれやるわ!
(2人)はあ!?
(お咲)あ〜!真帆家の嬢さん…真帆さんと約束したんだす!このアンポンタ〜ン!ああっ!うわっ!
(半兵衛)どやええ風吹くやろ?へえ!いよいよ明日から釜炊きや。
井川屋はんのためにええ寒天作ろや。
へえ!
(与平)今すぐでのうてもええんや。
わてらとしてはどうしてもあんさんに養子に来てもらいたいんや。
うちは旦さんも番頭さんももう年ですさかいわてが面倒見ん事にはもう不安で不安で…。
(多佳)あんたんとこにはもう一人ほれ…松吉がおるやないの?それはそうだすけど…。
毎度!テンちゃんでおま!実は井川屋の梅吉っとん取引先の山城屋さんから以前こないな事言われとったんだす
梅吉あんさんさえよかったらうちに養子に来てくれへんか?わ…わてが山城屋はんに!?
ほなまた!
梅吉ここはなわてとこいつが始めた小さな店や。
今まで頑張って続けてきたこの店誰かに継いでもらいたい。
そう思うても子どももおらへん。
どっちかが死んだらどっちかが独りになる。
旦さんそんな話…。
(与平)わてらな梅吉みたいな子どもが欲しかったんや。
気立てのええお日さんみたいに明るい優しい優しいあんさんみたいな子が欲しかったんや。
お願いします!ご寮さん!梅吉頼む!後生や!旦さん!やめて下さい!今すぐは無理だす!けど…うちにええ寒天が入って井川屋盛り返したらきちんと考えます!来てくれるんか?ホンマにうちに来てくれるんか!?おおきに!アハハハハハハッ!おおきに!承知してしもた…。
どないすんねん。
(笑い声)ごちそうさんでした。
あっ!あ〜っ!ああっあ!だ…大事おまへんか!?旦さん部屋へ行きましょう!立てますか?旦さん!
(骨が鳴る音)あ!どないしました!?ぎぎぎぎぎ…!銀二貫?ぎっくり腰…かも!
(一同)え〜!?おおきにおおきに。
(お里)これでよろしいおますか?温うてええ気持ちや。
・
(梅吉)旦さん。
ああお入り。
・へえ。
ああ善次郎どないや?寒いし入って閉めて。
今お休みならはりました。
寝返りも打てんと痛そうにしたはりました。
ぎっくり腰はな一人で厠へも行かれへんからなあ。
せやけど寒天場の方がもっと大変や。
あっせや!洗濯物入れんの忘れた。
あっわてが行きます。
それから明日旦さんの薬取りに行かしてもらいます。
ああご苦労はんやな。
おおきにおおきに。
松吉。
へえ。
前来た時はその臭いで戻しとったのにどないしたんや?いえ。
何や?いえって。
なあ?今宵は新月や。
夜が来たらこのトコロテンが凍てつく。
昼になってお日さんが凍てを解かす。
次の満月までそれを繰り返したら寒天が出来る。
あんさんが言うてた腰の強い寒天いうのはどないして作るつもりや?何か考えでもあんのか?いえ全く…。
あれは…あのトコロテン何であの大きさに切ってるんだすか?そらあないな大きな箱で固まったままやってみい。
いつまでたっても乾けへんやろ。
細こう切らな。
それやったらもっと細こう切ったらどうでっしゃろ?うどんぐらいの細さで…。
それしたらただトコロテン天突で突いたんと変わらへんやろ。
おもろいな!松吉やってみい。
それやってみい!へえ!あれ?貸してみい。
天突はな押したらあかん。
引くんや。
おお!ううっ!ううっ!また寄るんかいな。
毎日毎日何してはりますの?山城屋さんで。
まあ…ちょっと待ってておくれやす。
ちょっと!ごめんやす!もうこれ早う船場まで運ばんと…。
(松葉屋)あっお咲!お咲やろ!?人違いだす。
お咲!あの〜旦さんこちらは?とぼけて!あんたのカミさんになる人や。
カミさん!?よろしゅうお願いします。
待って下さい!なあええ子やろ?知り合いのなお店の女衆さん連れてきたんや。
うちへ養子に来てくれるんやったら嫁取らせんのがわてらの務めや。
なあ?けどいやまだいつになるか…。
来てくれるて言うたやないか。
あんた梅吉どないや?何でもよろしいおます。
よっしゃ。
決まりや!決まってません!いやいやおめでとうさん。
すんまへん!失礼します!ああ…びっくりした。
あれ?おじいちゃん離して!どこの世界に嫁入り前の娘がベカ車なんぞ引くのがおる!?あんたにはええ婿はん連れてきたるさかいそれまでうちでおとなしゅうしといておくれやす。
そんなん嫌だす!嫌や嫌やてほなうちの店は誰が継ぐんや?あんさんしかおらんやないか。
あんさんが婿を取るしかおまへんやろ?…嫌や。
もう井川屋はんに行ったらあかん!さあおいで!おじいちゃん離しておくれやす!あかん!離して!うわ〜っ!わあ!梅吉っとん…かくまっておくれやす。
おじいちゃんの言うてる事も分かるんだす。
いつまでもこんなお転婆ではおれんて。
何とのう分かってるんだす。
いつか婿取って子ども作って店継いでいかなあかんて。
そのためにはいつまでもこんな生き方してられんて。
せやけどやっぱり…うちはやりたいように生きていたいんどす!大変だすな嬢さんは。
そうなんだす。
大変なんだすうちは。
わては…特にやりたい事とか大きな悩みはありません。
いつもボ〜ッと生きてます。
楽なもんだす。
わてはわての事なんかどうでもええんだす。
周りの皆が楽しゅう生きてくれたらそれでええんだす。
うち梅吉っとんが羨ましい。
いっつも明るいし周りを楽しませてくれるし。
あんたを悪う言う人見た事ない。
わてはただのアホだすから。
うちはあんたの事アホやと思た事なんて一遍もないで。
あれ?破れてる。
これ誰の褌や?わてのだす!梅吉よう聞いて!うちには心に決めた人が…。
あきません嬢さん!わては…。
梅吉っとんあんた洗濯物取り込むのにどんだけ…。
あ!ああ…どうぞどうぞ。
失礼しました。
違う!違うんだす!違うだす!
(半兵衛)山に梅が咲いた。
今年の寒天はこれでしまいや。
うん…。
あかんか?全部あきまへん。
お湯に溶けへんのだす。
気ぃ落とすな。
普通の寒天は上出来やねんから。
よう頑張った。
ご苦労やったな。
春や!春が来たで!ポッカポッカや!
(梅吉)旦さ〜ん!旦さ〜ん!松吉が…!うん。
松吉。
へえ。
この寒天は…おいしい!うちがこれまで扱うてきたどの寒天よりもおいしい!半兵衛はんとこの寒天この井川屋が全部買い取ります!ご苦労はんやったなあ。
…へてから夏が来ました
(2人)行て参じます!早う戻っておくれやっしゃ!今日はもう一回行ってもらいますさかいな!
(2人)へえ!
井川屋はんは商いを再開しました!…でまた秋や。
深〜い秋や
松吉。
へえ。
あんさん腰の強い寒天作りたい言うたはりましたな?あれ今年は行かはらしまへんのんか?これくらいの年寄り2人や3人面倒見るくらい大した事ない。
3人て誰や!わても嘉平さんの供養したい。
せやから来年も再来年も出来るまで何年でも行ってこい!ご迷惑をおかけしますが行かせて頂きます。
おおきに。
ありがとさんでござります!
(お広)どないしたん?いえ。
行きまひょお母さん。
冬ぅぅぅ〜っ!
何でや…。
…へてからまた夏や。
暑いわ〜ホンマにもう!
井川屋さんもこれで盛り返すやろ。
おかげさんで旦さんも番頭さんも元気にならはりまして。
ほうか。
それやったらなそろそろ正式にご挨拶に伺わせてもらえへんかな?わてら梅吉もう…。
すんまへん!もう少しだけ…もう少しだけ待っとくんなはれ!失礼します!
…でまた冬や。
寒っ!腰の強い寒天はまだ出来まへん。
松吉っとんなりにいろいろと工夫してはんのだすけどなあ…
(半兵衛)松吉!もうそれぐらいにしとけ。
せや松吉。
お前もこっち来て一杯やれ。
へえ。
あとこれだけ。
ああ…。
あっ旦さん!どうぞ。
あっ旦さんこれも。
おおきに。
ありがとう。
おおきに…。
いらっしゃい。
いっつも食べんのを楽しみにしてんねん。
うれしいな。
…へてからとうとう2年もの月日が流れてしまいました
何でや!松吉…。
すまん。
今年の寒天は特に出来がええって旦さん褒めたはったで。
番頭さんももうすぐ銀二貫たまりそうや言うてえらい喜んではった。
すんまへん。
自分でやります。
ほな今日は腕に縒かけるさかいお魚買うてくるわ。
それうちも一緒に行きます。
うん。
ほな一緒に行こか。
そない落ち込む事ないて。
いつか必ず出来るて。
次の冬かそのまた次の冬か分からんけど腰の強い寒天はいつか出来るて。
もう無理や。
わてにはできん。
弱気やなあ。
松吉らしないで。
梅吉に何が分かる?寒天場も知らんくせに。
無理なもんは無理なんや!腰の強い寒天なんかわてにはできん!冗談やろ?てんごやんな松吉。
寒天場にはもう行かん。
来年も再来年もずっともう行かん。
何やねんそれ…。
何やねんそれ松吉。
あんたが作りたい言うたんやろ?嘉平さんの供養やって。
真帆さんと約束したんやって。
せやから皆黙って笑顔であんたを送り出したんやないか。
何年も何年も待ってるんやないか!それを何やわてに何が分かるかやて?寒天場も知らんくせにやて?何も知らんのは松吉の方やろが!わてら皆がどんな思いであんたを見守ってたか分かってるか?旦さんも番頭さんもどんどん年取ってく。
体も言う事聞かんようになってきてはる。
それがどういう事かあの人らはよう自分で分かってはる。
けど自分ではどうしようもない。
せやからそんな2人を支えるためにお里さんもわても毎日てんてこまいしてんねん。
お咲さんはわてらを見かねてずっと手伝いしてくれてはんねん。
それやのに…ようやめるなんて言えるな。
松吉は所詮わてらの気持ちなんかどうでもええんやろ。
自分さえよければそれでええんやろ。
結局どこまでいってもお侍さんなんや。
(階段を駆け上がる足音)お待っ遠さん。
へえ。
(お広)毎日来てくれるとうれしいわ。
毎度おおきに。
旦さんあそこ。
ああ!すんまへん。
へえ。
団子10ほど包んどおくれやす。
へえ。
おてつ10個。
へえ。
おおき…。
ここの団子おいしいさかいうちの丁稚に食べさしてやりたいと思いましてな。
そうだすか!おおきに。
その丁稚の一人が何やら新しい寒天作る言うて毎年毎年寒天場に通っておりましたんや。
けどどうにも難しいようでとうとう出来ずじまいでなあ。
来年からは情けない事に行かんようになってしまいましたんや。
何の話だすか?えらいすんまへん。
堪忍しておくれやっしゃ。
(お広)おおきに。
ほなまたな。
またお待ちしてます。
…へてから春過ぎて夏来にけらし秋が来て…もうすぐ冬で…
(半鐘の音)
何や?あの煙何や!?火事や!火事や〜!
(善次郎)どないや!?
(梅吉)大川の向こうだす!あかん!あかん!真帆さんの長屋が…!離せ!離せ!あか〜ん!あかんて!井川屋はあんさんを失う訳にはいかんのや!何でだすか…。
何であの人ばっかりがこんな目に遭わなあかんのだす!死んだらあかん。
死んだらあきませんねん…。
こっちや!こっちや!あ!こういう時こそ大坂商人の底力を見せるんだす。
「ハハッ」と笑うんどす。
とにかく笑いなはれ!そうだすな。
笑わなあきまへんな。
(笑い声)申し訳ありまへん!何や?また何やらかしたんや?もう一回だけ…もう一回だけわてを寒天場に行かせて下さい!松吉…!皆さんにご迷惑をおかけするのは分かってます。
自分がどれだけメチャクチャな事言うてるのかも重々承知の上だす!けど!けど…人生は一回しかおまへん!死んだら終わりなんだす!せやから…せやから死ぬ前にどうしても腰の強い寒天を作りたいんだす。
嘉平さんの供養をしたいんだす。
おてつさん…真帆さんとの約束2人の夢をかなえたいんだす!あかんもんはあかんて。
行かせて下さい!お願いします!このアホんだら!何て言われようが構いまへん。
お願いします!あんさんこの井川屋の敷居金輪際またげんようになっても構しまへんのやな?構いまへん。
わてはこれをやらんと一生後悔するんだす。
作る言うたり作らん言うたり性根の据わらんような男はもう二度と帰ってこんでもええ!あ!
(一同)旦さん!旦さん旦さん!早う…早う出ていけ!
(梅吉善次郎)旦さん!早う出ていきなはれ!早う行け!早う出ていけ!旦さん!許しておくんなはれ…。
許しておくんなはれ…。
(泣き声)松吉!これ持っていき。
温かいうちに1個でも食べ。
くれぐれも気ぃ付けて。
行て参じます。
早う帰り。
どうかどうか早う帰り。
どうしても試して頂きたい寒天があるんだす!それやったら雪を作ったらええんだす。
勝手なけじめやな。
井川屋はんの新しい寒天だす。
松吉っとんだけが好きやった。
松吉!松吉!2014/05/15(木) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 銀二貫(6)「ふたりの夢」[解][字]
「腰の強い寒天を作る」という真帆(松岡茉優)との約束を果たすため、松吉(林遣都)は和助(津川雅彦)に冬の間だけ寒天場へ行かせてほしいと願い出る。
詳細情報
番組内容
「腰の強い寒天を作る」という真帆(松岡茉優)との約束を果たすため、松吉(林遣都)は半兵衛(板尾創路)の寒天場に行くことを決意する。和助(津川雅彦)は松吉の覚悟を知り、冬の間だけ寒天場に行くことを許す。梅吉(尾上寛之)も山城屋(渋谷天外)への養子話があることを隠し、松吉を快く送り出す。半兵衛とともに試行錯誤を繰り返す松吉はある日、トコロテンの天突を使って寒天を細くすることを思いつく。
出演者
【出演】林遣都,松岡茉優,いしのようこ,尾上寛之,板尾創路,映美くらら,浦浜アリサ,渋谷天外,団時朗,塩見三省,津川雅彦,【語り】山口智充
原作・脚本
【原作】