クローズアップ現代「急増する野生動物被害〜拡大の実態〜」 2014.05.16

人家に入り込むニホンザル。
人を恐れる様子はなく物を手に取り、逃げ去ります。
全国で繰り広げられるサルと人とのせめぎ合い。

鹿児島県では住民60人以上にけがを負わせたサルが懸賞金付きで指名手配されました。
長野県では、近年シカが大量繁殖。
本来、生息していない山頂付近にまで現れ観光資源の高山植物が消えようとしています。
かつてない勢いで広がる野生動物による被害。
過疎、高齢化に苦しむ地域社会を追い詰めています。

新たな局面を迎えた野生動物と人との関係。
その最前線です。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
シカ、イノシシ、サルクマなどの野生動物が出没し農作物を食い荒らしたり人を負傷させたりするなどの被害が全国各地で問題となっていることはこれまでもお伝えしてきました。
農業への被害は4年連続で200億円を超えせっかく育てた作物が食われ農業を続ける意欲を失う人々が後を絶たない集落もあります。
こうした状況の中で国はことし3月鳥獣保護法の改正案を国会に提出し野生のシカ、イノシシ、そして農業などに害を与えるサルの群れを、10年以内に捕獲や追い払いなどのさまざまな方法で半減させる方針を初めて打ち出しました。
野生動物の保護に重点を置いてきた国の対策は今、大きな転換期を迎えています。
増えている人と野生動物との衝突。
野生動物の人里への進出を阻んできた境界線が失われてきた大きな背景が中山間地の過疎化です。
進出を阻んできた人の力が急速に低下する中で集落に出没するようになった動物の中には食性や繁殖の特性に変化も生まれてきています。
人と野生動物との間の境界をどのようにすれば再構築できるかが問われているのです。
初めに、ご覧いただくのがニホンザルです。
こちらが1978年に環境省が行った調査の生息域の調査結果です。
25年後の2003年の調査では生息域が1.5倍。
特に目立っているのが人が住んでいる市街地での生息域が、4倍にまで広がったことです。
人とサルとの衝突が頻発し深刻な被害が出ている鹿児島県のケースをご覧いただきます。

過疎、高齢化が進む鹿児島県さつま町。
春の収穫期。
数十頭のサルの群れが農作物を目当てに下りてきます。
その様子です。
1頭の若いオスザルが大根を食べ始めます。
それでも人は追い払いに来ません。
数分後、仲間も集まりすべての大根を食べてしまいました。
農家の担い手が減る中さつま町では小規模な畑で糖度の高い農作物を作る人が少なくありません。
サルが狙うのはそうした作物です。

人口の減少と糖度の高い農作物を作るようになったことで下がり始めたサルと人間の境界線。
このことがサルの個体数に影響を与えているといいます。
野生のサルの出産回数を調べた東洋大学の室山泰之さんです。
木の実など、自然のものを食べる屋久島のサルはおよそ3年に1回10年で3頭を産むペースでした。
ところが畑を荒らす三重県大山田のサルは10年で7頭を産むペースで出産していました。
境界線の変化は個体数の増加までもたらし農地の被害をさらに拡大させるというのです。

サルと人間社会の接近は新たな問題を生み出しています。
南さつま市坊津町の住宅街です。
4年前、片足のないオスザルが現れ、次々と人に危害を与え始めました。
この女性は自宅付近でサルと遭遇しました。

この女性は玄関で。

中には皮膚が裂ける大けがを負い入院を余儀なくされた人もいました。
当時の被害記録を調べたところ人間社会に入り込んだサルがまず、ある動物に危害を与え始めたと書かれていました。
「子猫を振り回していた」。
「近所の猫が、かみ殺された」。
町には野良猫が多くキャットフードをあげるお年寄りが少なくありません。
この女性は、家族が町を離れ1人の時間が増えたため猫をかわいがり餌をあげるようになりました。

自治体はこのキャットフードをサルが狙ったと考えチラシを配り餌を放置しないよう呼びかけました。
町が仕掛けたカメラの映像にも猫を執ように追いかけるサルの姿が映っていました。
片足のない同じサルでした。
このサルはメスを求めて群れを離れ、単独で行動するハナレザルと見られていました。
餌を求めて食べ物が豊富な集落に出没する機会が増えると人との接触が起こり危害を与える可能性が出てくるのです。
女性のお年寄りを中心に人に危害を与え続けたサル。
被害者の数は4年間で60人以上になりました。
事態を重く見た町は、去年2月サルを懸賞金付きで指名手配。
その半年後、山の中で発見し射殺しました。
同じように人に危害を与えるサルの事例は今、全国で相次いでいます。
4年前には、静岡県三島市などで118人が被害に遭いました。

今夜は鳥獣被害対策にお詳しい、森林総合研究所の大井徹さんにお越しいただきました。
自分の集落の中で、突然サルに襲われるとなると、これはやっぱり怖いですね。
そうですよね。
しかし、あの映像で映っていたのは、かなり特殊な経験を持ったサルだと考えています。
山の中でサルはああいったふうな行動はしません。
原因として考えられますのは、今、全国で広がってる農業被害の問題です。
農業被害対策が、十分に行われないなどすると、人になれていくサルが、どんどん増えてきます。
そういったサルの中から、ああいったサルが誕生したものだというふうに考えられます。
ビデオではハナレザルでしたが、群れのサルでも同様です。
なるほど。
そして冒頭で紹介しました環境省が行った1978年と、2003年の調査で、サルの生息域が非常に全国に広がっていることと、そして市街地に4倍に増えているという結果なんですけれども、もともとは、一度は絶滅のおそれすらあったこのサルが、こうやって生息域を広げて、人間とサルの距離が、近く、非常になってきた理由っていうのはどう見てらっしゃいますか?
これはサルの生息地の変化と関係あると思います。
突き詰めれば、人間の生産活動とも関係あるんですけれども、かつてはサルの生息場所と、人間の生活域の中に、バッファーゾーンがあったんですね。

緩衝帯みたいな?
緩衝帯です。
その地域が今、里山といわれているような所でそこではかつて、まきや炭の生産のために、短期的な伐採が行われてました。
伐採してはまた木の成長を促してまた切る、10年くらいの周期でそれが行われていました。
そのために比較的若い見通しのよい林になってたんですね、人の手入れもありましたから。
そういった地域から、地域の利用がなくなって、かつ農山村の過疎化が進んでますから、手入れする人もいなくなって、木々が生い茂って、サルだとか、ほかの野生動物の餌を大量に生産するような環境になったんです。
そこも野生動物、サルを含めた野生動物が利用するようになったんですけれども、そこまで下りてきたサル、あるいは野生動物に目についたのは、農作物と、人間が作ってる食べ物です。
人間が作ってる食べ物は、山の中の食べ物よりも高栄養で、まとまってありますので、摂取効率がいい、サルたちが生存するために、食べ物を探すのに必死です。
里の食べ物に引かれていくのは当然です。
そうやって、その距離が近づいたうえに、今度は繁殖力も高めているという様子がVTRであったわけですけれども、じゃあどうすればいいのか、人は減ってきている中で、どんな対策が有効だとお考えですか?
そうですね。
まず農作物とか、人の食べ物、サルに食べてもらっては困るものを守る、柵とか電気柵を使って守るということです。
またそういったものを狙って出てくる動物たちを、犬などの力を借りて追い払うという対策。

そういった犬の対策を取っている所もすでにあるんですか?
そうですね。
かなり広い地域で取られています。
さらにやむをえない場合には、捕獲をするという対策もあります。
そうしたことをしないと、この距離が縮まって、人に危害を与えるサルも増えるのではないかという心配があるわけですね。
さあ、続いてご覧いただくのは、急増しているシカです。
長野県では開発が、シカの生息域、そして頭数を増やす要因となっているのではないかという見方が出てきています。

年間8000万人もの観光客が訪れる長野県。
今、その観光業が野生動物によって危険にさらされようとしています。
信州大学の竹田謙一さんは動物による環境異変の実態を調査しています。

立ち枯れの原因はシカの食害。
竹田さんの調査から、被害は県の全域に広がっていることが分かってきました。
南アルプスの山々を覆っていた色とりどりの高山植物。
しかし、その姿は一変。
山肌がむき出しの状態になり大雨などで斜面が崩壊する危険性が高まっています。
シカが異常に増加して草花を食べ尽くしたのです。
これまで3万頭前後で推移していた生息数は2000年以降、急激に増加。
その数は3倍以上となっています。
ハンターの減少や牧草地の増加が主な原因と見られています。
その結果、これまで標高の低い所にあった生息域が拡大。
3000メートル近い高地にまでシカが現れ草木が消えようとしているのです。

近年、その増加に意外なものが関係していると指摘されています。
シカの不思議な行動が目撃されている八ヶ岳のふもとです。

国道沿いに何頭もシカが姿を現しました。

すると、シカは餌となる草がないにもかかわらず20分以上も道路をなめ続けました。
こうしたシカの行動が撮影されたことはほとんどありません。
シカは一体、何をなめていたのか。

ちょうど、この辺りをなめてたんでしょうか。

現場に残された水分を採取し分析を行いました。
検出されたのは、高濃度の塩分。
通常の道路に比べると30倍以上の値です。
大量の塩分をもたらしたのは冬場、道路の凍結を防ぐためにまかれる塩化ナトリウムでした。
長野県では交通の利便性を高めるためこの10年で700キロ以上道路を延長。
シカの生息範囲拡大につながったとされています。
それとともに凍結防止剤の使用量は年々増え今では年間1万5000トン。
10年前の3倍にも及びます。

この塩が、シカの増加とどのような関係があるのか。
草食動物の生態を研究する岡山大学の坂口英さんです。
シカは食べ物を消化吸収する際に塩分を必要とします。
塩分が不足すると死につながるため、動物園では餌と共に必ず塩を与えています。
野生のシカは、冬になると山肌が雪で覆われるため岩や土に含まれる塩分の摂取が難しくなります。
交通の利便性を高めるためにまいた塩がシカにとって厳しい冬を乗り切るための貴重な栄養源となったというのです。

急増するシカを減らすため県は、捕獲数をこの10年で4倍に増やしました。
しかしシカの捕獲を担うハンターの数はピーク時の5分の1にまで減少。
このままでは担い手がいなくなると懸念されています。
そこで、小諸市は去年野生動物の専門家を全国で初めて常勤の職員として採用しました。
生息数の調査をもとに適正な頭数を捕獲するなどの対策を行っています。

さらに、市ではこの専門の職員の指導の下ほかの職員にもシカの知識や管理のしかたを伝え野生動物との共存を模索しています。

長野で見られる、深夜、シカが一生懸命道路の塩をなめている。
あの姿、どういうふうに見ますか?
私も初めて見ました。
珍しい現象だと思います。
しかし、野生動物っていうのは、特に草食獣は、慢性的な塩分不足だというふうに言われています。
そのため、ああいうふうにシカが集まってくるんだと思いますけれども、あれだけ多くのシカが集まってきているというのは、驚きでした。
それはやっぱり、それだけ多くのシカが、あの地域にはいるという現われなんですか?
そうだと思います。
それによって、繁殖が頭数が増えたかどうかっていうことについては、どう見てらっしゃいますか?
塩の影響で、繁殖力が増強されるという、そういった検証はまだなんですよね。
これからの研究課題だと思います。
それにしても、全国でシカが増えて、被害が拡大しているという状況なんですけれども、なぜここまで、シカが増えたんですか?
一つは、ほかの野生動物と同じように、第2次大戦直後まで乱獲されていたということがあります。
そのために国が、メスジカの狩猟禁止、オスジカの狩猟制限という保護政策を取りました。
その効果が一つ上がったということになります。
もう一つは、シカの生息地の開発です。
1950年代後半から70年代前半まで、木材への需要が高まったものですから、国が拡大造林政策というのを取りました。
広葉樹の林を切って、そこにスギやヒノキを植えるという政策です。
そこで一時的に、大面積の伐採地が出来たんです。
そこは光環境がよくなって、シカが好物である草とか、かん木が生い茂る所になりました。
森林の中にシカのいい餌場を作ってきたということになります。
と同時にですね、国民の乳製品や肉に対する、牛肉に対する要求が高まって、その需要を満たすために牧野の開発が森林中に行われました。
そこでも餌の、シカの餌場が出来たわけです。
なるほどね。
そして狩猟者が今、激減しているという背景があるわけですけれども、国は政策を転換して、シカ、イノシシ、そして害を与えるサルの10年後までに半減させようという政策、それに今、加速させようとしているわけですよね。
シカとかイノシシとか、数が増え過ぎて、問題が深刻になってる動物、彼らは繁殖力も高いですから、捕獲数を倍増するという対策は必要だと思います。
しかしこの対策が、サルとかクマだとか、そういった繁殖力の低い動物にも適用されるとしたら問題で、動物の種類によって、適切な対応をする必要があると思います。
また今、シカは27万頭程度捕獲されてます。
それが倍増されると、その死体をどう処理するかという問題が生じます。
そこの手当もきちんとされる必要があると思います。
こうやって人間と動物との緊張、あつれきが高まっている中で、きちっとした関係作りを再構築していくうえで、最大のポイント、必要なものはなんですか?
そうですね。
行政のほうもさまざまな手だてを考えていますけれども、今、足りないのは、野生動物の生態も知り、被害対策のスキルも持った専門家を、現場の状況をきっちり把握して適切な対策を実行できる専門家を配置するということだと思います。

やっぱり、人間に翻弄されてきた動物、そして今、人間が動物に翻弄される。
いいバランスを取り戻してほしいですよね。
そうですね。
共存するためにまだまだ課題はあるかと思います。
2014/05/16(金) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「急増する野生動物被害〜拡大の実態〜」[字][再]

全国で激増する野生動物。農作物被害は220億円以上、凶暴化して住民を襲う事例も頻発している。人間と動物の境界線がどう変化しているのか。被害拡大の真相と対策に迫る

詳細情報
番組内容
【ゲスト】森林総合研究所・野生動物研究領域長…大井徹,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】森林総合研究所・野生動物研究領域長…大井徹,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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