アメリカ屈指の名門校…創立は1868年。
10校あるカリフォルニア大の系列でここが本校。
最も古い歴史を誇っています。
その校風はリベラルな事で知られています。
サンフランシスコで生まれたヒッピー文化と重なりベトナム反戦運動では西海岸の拠点となりました。
サンフランシスコのベイエリアを臨む4.8平方km。
東大の4倍を超える巨大なキャンパスで3万6,000人が学んでいます。
ここで学生の投票でベスト講義に選ばれたのがリチャード・ムラー教授の物理学の講義です。
ムラー教授は「天才賞」と言われるマッカーサー・フェロー賞の受賞者でアメリカ政府の筆頭顧問を長年務めてきました。
エネルギーの専門家です。
教授の講義は…大統領ならあらゆる危機に瞬時に判断を下さねばならない。
そのためには全ての科学的な数字を押さえ理解している必要がある。
ムラー教授はまず「物理は法の原理より先にくる」をモットーとしています。
どれほど強い軍隊の最高司令官であろうと物理の法則には従うしかない。
それが世界を動かすルールなのだから。
エネルギーこそが最重要課題なんだ。
国のリーダー大統領や首相が向き合うべき難題エネルギーが決断の鍵となる。
太陽光天然ガス地熱石油原子力。
事実を知らなければ正しい決断は下せない。
逆に投票する時も知っている必要がある。
今回のシリーズ5回の講義では最も重大な問題にだけ絞ろう。
エネルギーはどこから得られているのか。
エネルギー不足は世界をどこへ向かわせるのか。
エネルギーこそが鍵なのだから。
エネルギーの基本について学ぶムラー教授の全5回の特別講義です。
(拍手)こんにちは。
特別講義に参加してくれてありがとう。
これから5回の講義を行います。
その内容は将来大統領になったり世界を引っ張っていく人あるいは彼らに投票する人には必ず知っておいてほしい事なんだ。
普通の物理学の講義とは違うだろうね。
この講義では最初から最先端の物理を取り上げる。
基礎から順になんてやっていくつもりはない。
真っ先に最重要問題に取り組んでいくつもりだ。
もし君が将来大統領を目指すとしたら物理学者になる暇はない。
だがどこに答えがあるか知っている必要がある。
話を全て聞かなくても理解できなければならない。
まず最初に以前私の講義を受けていた学生の話をしよう。
彼女は1年たったある日私のオフィスを訪ねてきた。
ディナーの席での話をしたくてはるばるやって来たんだ。
彼女と両親は核融合を研究している物理学者を招いて食事をした。
彼女は核融合について多少は知っていたがもちろん専門家ではない。
専門家が核融合のすばらしさや将来性について語るのを聞きみんなとても感心した。
そのあと彼女は授業で学んだ事を思い出しこう言った。
「太陽光発電にも期待できますよね」。
するとその研究者は笑いだした。
物理学者が皆いい人ってわけじゃないからね。
(笑い)彼は笑いながらこう言った。
「カリフォルニアのエネルギーを太陽光だけで賄うには州全体をソーラーパネルで覆わなきゃならない」。
そこで彼女はこう答えた。
「いいえ。
太陽光には1平方kmあたり1GWのエネルギーがあります。
カリフォルニア全体で使う電力は40GWですからそれほどの面積は必要ないはずです」。
彼女が返答を待っていると研究者から笑顔が消えた。
そしてこう言った。
「君の言うとおりかもしれない。
あとで調べてみよう」。
これが君たちにもやってほしい事なんだ。
彼女は正しい数字を覚えていただけじゃない。
自分の発言をバカにして笑い飛ばした専門家の前で重要な事実とそれに関連する数字を思い出しそれらを合わせて考える事ができた。
研究者は今頃太陽光発電について調べているだろうね。
君たちがすべきなのは重要な事を理解しその基準となる数字を覚えておく事だ。
これから5回にわたってエネルギーの話をする。
エネルギーは私たちの生活に欠かせない大切なものだ。
エネルギーとは何か。
君たちには外国語を学ぶようにエネルギーについて身近なものとして慣れ親しんでほしいんだ。
エネルギーの事細かな定義について学ぶ必要はない。
大切なのは何がエネルギーの重要な点か知る事。
更に関連する数字を知る事なんだ。
エネルギーはとても重要なものだ。
戦争の原因にさえなる。
第2次世界大戦ではアメリカが日本への石油の供給を絶った事で戦争は避けられないという流れが決定的となったと歴史の専門家は指摘する。
アメリカは中東で戦争をしてきた。
なぜ「砂漠のような場所中東で」なのか。
明らかにエネルギー資源があるからだ。
エネルギーはそれだけ重要な役割を担っている。
エネルギーが大惨事をもたらす事もある。
エネルギー政策では「どうするのが最も賢明か」という事を専門家がじっくりと議論して決める事はあまりなかった。
もっと場当たり的だ。
例えばメキシコ湾で大量の原油が流出して国内がパニックとなった。
アメリカではこれまでにエネルギーをめぐるパニックが何度か起きている。
日本では福島の原子力発電所の事故で膨大な放射性物質が放出された事で一時的に国内の全ての原発を停止する事態となった。
そして原発を再稼働すべきかどうかが議論となっている。
この講義を行っている今は2基が再稼働しているがそこに至るまでには多くの軋轢があった。
震災前日本のエネルギーの30%が原子力によって賄われていたにもかかわらずその全てが停止された。
なぜそんな事ができるのか。
原発を止めても多少は代わりになるものがある。
天然ガスや石油や石炭を使って発電する事もできるからだ。
だがそれでは十分ではない。
その結果どういう事態が起きたかというと夏の暑い時期日本では国が企業や家庭に対して節電のガイドラインを示した。
どんなに気温が高くなってもエアコンを最大出力で使用しないようになど…というものだ。
快適な温度まで下げるのではなく暑さを多少和らげる程度にしてほしいというわけだ。
最近の日本のビジネス界では真夏の猛暑日であっても職場のエアコンの設定温度は28℃以上というのが標準になっている。
セ氏28℃。
かなりの暑さだ。
日本人の生活は変わろうとしているんだ。
暑い日はジャケットを脱ぎ半袖シャツで汗をかく。
これが日本の新しいビジネススタンダードだ。
君たちにはエネルギーを理解しそれについて考え抜く力を身につけてほしい。
論理的に考え数字を示す事を覚えてほしい。
強い意見を持つだけでは説得力がない。
強い態度で臨めば説得できるというものでもない。
だが先ほど例に挙げた女子学生が太陽光発電に関する数字を物理学者に突きつけたように基本的な数字を知っていれば人を説得する事ができるのだ。
さて今後課題となるのはエネルギーにまつわる安全保障だ。
日本は原発を停止した事で大きな問題に直面している。
アメリカには自動車に使う燃料の問題がある。
アメリカは膨大な石油を輸入しているためその額が貿易赤字の半分を占めている。
エネルギーの輸入が経済に打撃を与えているわけだ。
だからといって石油より安い燃料はうまく使わなければ地球温暖化を引き起こす。
だから多くの人が「化石燃料は駄目だ。
禁止しろ」とまで言うわけだ。
では先へ進もう。
ここで君たちに将来のエネルギー源について聞いてみたいと思う。
ここに書き出すのでちょっと考えてみてほしい。
将来有望なのはどれだと思うか。
選択肢は…更に進歩すれば…風力発電だ。
まだ何かあるかな?どうぞ。
バイオ。
燃料を栽培するんだね。
栽培して燃やす。
その繰り返しだ。
藻の仲間を栽培して油を取り出しそのまま自動車の燃料として使う方法もある。
バイオ燃料には期待できるね。
他には?水素。
水素。
そうだね。
他には?こんなものかな?ではこれから君たちに投票してもらおう。
今から30年後一番使われているエネルギー源はどれだと思う?未来を予測してみてほしい。
原子力だと思う人手を挙げて。
123456…クラスの半分だね。
次は核融合。
これは水が燃料になる。
水から重水素を取り出して核融合反応を起こすわけだ。
核融合が有力だと思う人は?では太陽光はどうだろう?ソーラーのサポーターは?1234…4人か。
思ったより少ないな。
ソーラーが成功すると思う人誰か理由を教えてくれないかな。
どうぞ。
太陽光発電が普及して大規模に生産されるようになれば効率も良くなると思うからです。
それに何よりコストも下がってきています。
ですから近い将来石油や天然ガスと互角に競えるものになると思います。
太陽光発電のコストについては本当に驚くべき状況となっている。
この数年で大きく進歩した。
例えば真昼に頭上から降り注ぐ太陽光から1Wの電力が得られるソーラーパネルを買うのにいくらかかると思う?数年前には7ドルか8ドルだった。
それが今では1ドルを切っている。
ここ数年で目を見張るような進歩を遂げたわけだ。
確かに彼の言うとおりコストは下がっている。
驚くべき事だね。
価格急落の一番の要因は中国だ。
では風力はどうだろう。
12345…6人。
理由を言える人は?どうぞ。
風力はエネルギーの貯蔵やインフラの進歩によって加速度的に伸びていく可能性のある分野だと思います。
風力が最初に使われたのは移動手段の分野だった。
18世紀19世紀いやもっと前の時代のハイテクだ。
風力を利用した船でアメリカ大陸が発見された。
他にも風力を使ってできる事はいくらでもある。
当時はそれがハイテクだった。
今で言うならコンピューターだ。
風力は今急速に進歩している分野だ。
アメリカのエネルギー省も20年後には風力が電力需要の20%を賄うようになると予測している。
風力発電に必要なのは巨大な風車だがこれについては今後の講義で代替エネルギーの話をする時に触れる事にしよう。
では次。
地熱はどうかな。
1人?理由を話してくれるかい?地熱発電の技術は水を蒸気に変えるという点で原子力発電とよく似ていると思います。
その事を教えてくれた教授が技術さえ整えば地熱発電はそれほど突拍子のないものでもないと言っていたので今後伸びていくのではないかと思います。
アイスランドは地熱発電と水力発電の国だ。
地熱が豊富にあるからね。
地熱発電の技術は地熱が集中している場所では非常に利用しやすいものだ。
だが例えばここバークレーのようにそれほど地熱が多くない場所では難しい。
地球の内側から上昇してくる熱を利用できれば地熱発電は可能なわけだ。
波の力。
波の上下動を発電に利用するわけだね。
波力を推す人は?バイオ燃料を支持する人は?手を挙げて。
1234567…8人。
今アメリカ政府内でバイオ燃料が大きな支持を得ている。
かつてこの大学の研究者でバイオ燃料のプログラムを導入したスティーブン・チュー博士が今のエネルギー省長官だ。
もちろんこれはとても興味深い方法だね。
地球温暖化対策にもなる。
燃料となる植物は育てる段階で大気中から二酸化炭素を取り込む。
燃やすと再び排出するが差し引きゼロだ。
悪影響はない。
次は水素。
水素を支持する人はいるかな?いないならそれでいい。
ゼロだね。
ブッシュ大統領は演説でこう言った。
「我々は水素経済を迎える。
あなたの子供たちが初めて運転する車は水素自動車かもしれない」。
だが次の演説ではそれには触れなかった。
少し物理の勉強をしたんだろう。
最初はあまり質の高いアドバイスを受けていなかったようだ。
では結果を見てみよう。
何より原子力が支持されているのには驚いた。
私も原子力は現実的だと思う。
原子力太陽光風力。
その3つはどれも現実的だ。
課題は市場で競合しなければならない点だね。
この教室での意見は原子力と答えたのが19人。
それに対してその他のものだと考えた人は太陽光風力地熱バイオ燃料を合わせると全く同数の19人でした。
意見が真っ二つに割れたのです。
次は「物質がそれぞれどれほどエネルギーを持っているのか」へと進みます。
ムラー教授は「大統領を目指す君ならばこれらの数字は必ず押さえておくべきものだ」と言います。
ここからはエネルギーの量について話そう。
どんなものにどれだけのエネルギーがあるか。
表を作っておいた。
さまざまな物質のエネルギーだ。
1つ目は弾丸。
どんな単位を使おうか。
私のお気に入りは食べ物のカロリーだ。
物理を知らない学生でもこの単位なら知ってるね。
前にある会社がソフトドリンクを宣伝するのに「ハイエネルギー」という言葉を使ったがそれはつまり「ハイカロリー」という事だ。
カロリーとはそういうものだ。
カロリーには2種類ある。
科学者がカロリーを使う時は小文字の「c」を使う。
小文字でcalと書く。
小文字の「c」のカロリーが1,000集まると食べ物のカロリー大文字の「C」になる。
「kcal」とも言うね。
1kcalは大文字の「C」の1Calと同じだ。
アメリカでは食べ物のカロリーと科学者のカロリーは違う。
混乱しそうだね。
エネルギーの身近な単位にはもう一つある。
「キロワット時」だ。
キロワット時は1kWの電力を1時間使った時のエネルギーの量を表している。
キロワット時。
1キロワット時の電気エネルギーを電力会社から買うとしよう。
プラグを差し込んでメーターが上がり1キロワット時になったら1kWの電球を1時間つけておいたという事だ。
かなりの明るさだ。
ここの照明が多分1kWぐらいだろう。
キロワット時あたりの料金はいくらくらいだと思う?アメリカではいくらか全く見当もつかないという人は手を挙げて。
では分かる人。
12セント。
正解だ。
前は10セントだった。
君は情報通だね。
1キロワット時あたり12セント。
知らない学生が多いだろうね。
自分で払う必要がないからね。
1キロワット時は大体1,000kcalと同じだ。
1,000kcalというとチョコレートチップクッキー1袋分。
チョコレートチップ1袋で明るい照明を1時間つけられる?
(笑い)そう。
油やチョコレートチップといった食品にはものすごいエネルギーが含まれているんだ。
さてエネルギーといえば新聞はいつもエネルギーとパワーを混同する。
英語ではどちらも同じ意味で使われているからね。
だが私たちが専門的な話をする時はエネルギーとパワーを区別しなきゃならない。
エネルギーは例えば一定量の食品に含まれるエネルギーの量を表す。
パワーは仕事率といって1秒間あたりのエネルギーを表す。
距離と速さの関係に似ているね。
速さは1秒あたりの移動距離だ。
仕事率はある量のエネルギーがどれくらいの速さで使われるかだ。
例えばこういう事だ。
ここにハンマーがある。
持ち上げるとエネルギーが蓄えられる。
これを落とすと打ちつけた木材にエネルギーが与えられ音のエネルギーとなって放出される。
木材を僅かに変形させ熱エネルギーとなる。
ハンマーをただ落としただけだが…こうやって振り下ろしてもいい。
落とすだけではなく勢いよく振り下ろす事で更に多くのエネルギーが与えられる。
素手で多くのエネルギーを与える事はできないがハンマーを振り下ろす事でその運動によりエネルギーを持つ。
これが運動エネルギーだ。
腕が良ければこのハンマーで釘が打てる。
失敗。
こういう事もある。
よしできた。
3回目で成功だ。
手は添えない方がいい。
(笑い)ではこれをエネルギーと仕事率という観点で説明しよう。
ハンマーに時間をかけてエネルギーを与えたので仕事率は低かった。
だが釘を打つとそのエネルギーは瞬時に釘に移動した。
同じエネルギーだが時間が短かったので仕事率は高くなる。
つまりハンマーは低いエネルギーを高い仕事率に変える役割を果たしたわけだ。
釘に与えられたのはハンマーが持っていたのと同じ量のエネルギーだった。
短時間でエネルギーを与えたので仕事率は高かったというわけだ。
ここからがややこしいところだ。
いいかな?もう理解し始めている人もたくさんいるだろうね。
まだの人は新しい単語を学ぶようなつもりで臨んでほしい。
仕事率の単位はkWだ。
1kWは1,000W。
1GWは10億W。
これが仕事率の単位だ。
1GWというと大規模な原子力発電所や大きな火力発電所天然ガス発電所で発電される電力がそれくらいだ。
1平方kmの太陽光を100%有効に使えた場合それはまだ実現していないのだが太陽光からも同じく1GWを得られる事が分かっている。
これらが鍵になる重要な数字だ。
キロワット時はエネルギーの単位だから全く違うものだ。
1キロワット時は12セントで得られるエネルギーの量だったね。
こっちの表にはさまざまなもののエネルギー量が書いてある。
弾丸にはハンマーで打つのと同じくらいのエネルギー量があると思うだろう?これらは1gあたりのエネルギーで単位はkcalだ。
いろんなもののgあたりのエネルギーを書き出したわけだがこのとおり弾丸には0.01kcalしかない。
0.01kcalというとチョコレートチップのカス程度だ。
どういう事だろう?弾丸はごく少量の火薬で押し出される。
物質のエネルギーはTNTトリニトロトルエン火薬の量に換算して表す事がよく行われます。
TNT火薬1gが燃焼時に放出するエネルギーは0.6kcal。
これを1として比較します。
ではさまざまな物質のエネルギーを比べていきましょう。
ではその火薬にはどれだけのエネルギーがあるだろう。
これを見てほしい。
TNT火薬だ。
これとチョコチップクッキーを比べてみると1gあたりでチョコチップクッキーに火薬の8倍のエネルギーがある事が分かる。
それを聞くと誰もがばかげているという。
ありえないと。
でもだからこそ私たちはTNTではなくチョコチップクッキーを食べるんだ。
エネルギーが豊富だから。
ではなぜTNTを使うのか。
それは僅かなエネルギーを瞬時に解放する事で強力なパワーを発揮するからだ。
エネルギーを短時間で放出すると非常に大きな破壊力となって物を壊す事ができる。
岩やコンクリートを割るような破壊力になるわけだ。
TNTが使えるのはエネルギーが高いからではない。
むしろエネルギーは低い方だ。
それでも弾丸よりは高いがね。
電池はどうだろう。
弾丸よりはマシだ。
それでもチョコチップクッキーと比べるとかなり低いね。
ではなぜ電池を使うのか。
壁のコンセントから離れられるからだ。
コンセントにプラグを差し込めない場所でも使えるからだ。
だが電池は値段が高い。
どれくらい高いか教えよう。
電気料金は1キロワット時あたり12セントだったね。
それに相当する電池を近所の店で買うとしたらいくらかかるか。
試しにこの近くの店で単3電池を探して1キロワット時のエネルギーを供給するのにいくらかかるかを算出してみた。
いくらになったと思う?既に私の本を読んだ人やふだんの講義を受けている人は答えを知っているだろうから言ってしまおう。
ここだ答えは…。
1キロワット時あたり12セントのところが電池だけで賄おうとすると1,000ドルになる。
自分で電気料金を払っている人はこれがどれだけ高いか分かるね。
払っている人は?1/3くらいか。
表に戻ろう。
ここにTNTがあるね。
これを基準にして見てみよう。
TNTと比べて他のもののエネルギーが大きいか小さいか順番に見ていこう。
弾丸は小さい。
電池も小さい。
高価なコンピューター用の電池だ。
チョコチップクッキーは大きいね。
バターは…かなり大きい。
それからガソリンはどうだ?このとおり。
すごいだろう。
ガソリンには電池の100倍ものエネルギーがある。
100倍だ。
…と言っても電池はガソリンと違って燃やさなくていいから実際には25倍から30倍程度だろう。
だがこれで電気自動車に切り替えるのがいかに難しいか分かる。
ガソリンのエネルギーは電池に比べてはるかに大きいんだ。
先に進む前に電気自動車についてもう少し話そう。
私はニューヨークのブロンクスで育ち暖房には石炭を使っていた。
石炭をシャベルで入れて燃やし残った灰をシャベルでかき出す。
清掃の人が灰を集めに来たら舗道を洗い流す。
2週間後また石炭が運ばれてきてそれを燃やすと灰が出る。
石油はどうだろう。
タンクに入れるだけで灰を片づける必要もない。
二酸化炭素が出るが以前は植物を育てるクリーンなガスだと思われていた。
石油はエネルギー密度もかなり高い。
石炭の倍近い。
50%も高い。
電池と比べるとなんとすばらしいものか。
我々がガソリンに依存しているのはそれだけ良い燃料だからだ。
だが問題もある。
昔と比べ値段が高い。
それに地球温暖化を引き起こす。
どちらも最近言われ始めた事だ。
我々はガソリンを基盤としたインフラをつくり上げてきた。
そう簡単に置き換えられるものではない。
ガソリンはとても効率がいいので貧困が蔓延するこの世界で新たなものに皆が切り替えるのは難しい。
他も見てみよう。
水素はどうだ。
すごいね。
これだからみんな水素に夢中になる。
グラムあたりのエネルギーはガソリンの2倍以上だ。
問題は同じ質量でも体積がガソリンの4倍も5倍もある事だ。
だから電池と同じで場所をとる。
これは液体の場合で圧縮ガスになると10倍ほどになる。
水素にはそういう問題があるから燃料として車に積むのは簡単じゃない。
それでも飛行機か大きなトラックでなら使えるかもしれないね。
最後にウランはというと…エネルギーはTNT火薬の3,000万倍だ。
だからエネルギー源として人気があるんだね。
原子炉がどんどん開発されたのもうなずけるし君たちの多くが原発に将来性があると考えるのも分かる。
3,000万倍のエネルギー。
つまり必要な燃料はほんの僅かだという事だ。
だからコストもかからない。
ウランが尽きる事を心配する人がいるがその必要もない。
アメリカでの1キロワット時あたりのウランの燃料費は10分の1セント程度だ。
日本円にすると1セントは大体1円だから1キロワット時あたり10分の1円という事になるね。
ここまでいろいろな物質のエネルギーを見てきた。
次は熱エネルギーについてです。
「熱にはどんな作用があるのか。
何が起きるのか」。
教授は世界を震え上がらせたアメリカ同時多発テロ事件を例にして考えていきます。
一つ見せたい事がある。
何か重いものはないかな。
本があった。
これを1枚の紙で支えてみよう。
そんなバカなって思うだろう。
紙にそんな強度はないって。
しかし引っ張りには強いね。
でも縦には弱い。
木から作られたのだが簡単に折れてしまうね。
それじゃあちょっとしたトリックだ。
こうやって筒状にすると…。
今度はどうだろう。
紙は紙だが簡単には折れないようになる。
試してみよう。
ここに本を置くとどうなるだろうか。
これが高層ビルが建てられている構造なんだ。
材料の鉄を節約できる。
もちろん高いからだ。
高層ビルを建てるならこの方法で造る。
このシェル構造で曲がったり折れたりしないようにするわけだ。
そうやって高層ビルを低コストで造る。
これを上から押していくとどこかで折れる事になる。
安全を保つためにどれだけの条件を付ければいいのか。
アメリカの建築業界が採用する基準は必要な強度の2倍の強さだ。
かなりいいと思わないか?では鉄を熱した時何が起こるかを説明しよう。
これはまだ教えていなかったが熱とは物質内部の分子の振動だ。
加熱すると振動は速くなる。
振動が速くなると分子が互いにぶつかる頻度が増し分子間の距離が広がる。
物質が熱くなると膨張するのはこの振動のためだ。
加熱して振動が速くなると物質は膨張する。
この時分子間の距離は少し離れているから分子同士を結合している力が低下する。
つまり物質の強度が下がるという事だ。
次にビルの強度を心配している人に役立つ数字を教えよう。
ビルをセ氏600℃まで熱するとどうなるか。
600℃になると鉄の強度は半分になる。
セ氏600℃だ。
軟らかくなるほどではないし溶けるほどでもない。
ただ単に弱くなるだけだ。
ビルが600℃まで熱くなるとは誰も思わないね。
だが燃料をいっぱい積んだ飛行機が衝突してその燃料が燃えたらそうなる。
ジェット燃料にはガソリンと同じエネルギーがある。
TNTをはるかにしのぐエネルギーだ。
あの9月11日妻から「テロリストはどうやって飛行機に爆発物を仕込んだの?」と聞かれて私はこう答えた。
「そんなものは必要ない。
飛行機には60tのジェット燃料があるからだ」。
ジェット燃料には質量あたりTNTの15倍のエネルギーがある。
60t掛ける15だから900tのTNTを積んでいるようなものだ。
1kt近い。
核兵器並みだ。
だが爆発自体は大した事はなくビルもほとんど揺れなかった。
あの映像を見れば分かる。
もう見たくないがね。
ビルはほとんど揺れなかったが燃料が燃え始めた。
燃えているうちに温度がセ氏600℃まで上がった。
そして600℃になると安全な強度は失われ温度が更に上がると耐えられなくなった。
少しでも曲がれば強度は全くなくなる。
それでビルの上部は自由落下したかのように崩れ落ちた。
何かが曲がり始めたら強度を失ったという事だ。
あの映像を見て「物理学的にあんな速さで崩れるはずはない」と言う人がいる。
しかし事実はその逆だ。
物理学を知っている人ならあの崩れ方を予測できる。
確かにビルの低層部は熱くなっていなかった。
下の階には熱が加えられていなかったからまだ強度が保たれていた。
しかしビルは上から自由落下してきて崩れ始める。
そして狭い範囲に集中して力が働くわけだ。
落下のエネルギーがわずか数センチに集中するからね。
そうなればもうどうしようもない。
ただ上から下へ順番に崩れていく。
9月12日に教室に入った時私は「今日の講義の内容を変更する」と言った。
「ガソリンにTNTの15倍のエネルギーがある事は前に教えたから昨日起きた事を説明しよう」。
そう言ってビルが崩壊した訳を説明した。
アメリカ中の多くの科学者や技術者が知っていた事だ。
もちろんビンラディン自身がビルが崩れる事を知っていたとは思わない。
想定外の出来事だっただろう。
ビルを崩壊させたのは熱だった。
向かい側のビルでも同じ事が起きた。
ガソリンが飛び散り火が燃え広がりビルの低層部がセ氏600℃まで上がった事でビルは崩れたのだ。
将来このような事が起きないようにするためにはどうすればいいだろう。
教授の次の提案は次世代のエネルギーについて考える事です。
大統領を目指すならエネルギー問題の解決に向けて何ができるのか知っておく必要があります。
発展途上国がもし…いや「もし」ではない私は絶対にそうなると思っているが発展途上国が先進国に追いつくにつれてエネルギー消費量も増えるだろう。
そのエネルギーはどうやって得るのか?それについては議論が尽きないだろうね。
今天然ガスに革命が起きつつある。
これについては今後の講義でもっと詳しく話す事になるだろう。
とにかく今驚くべき量の天然ガスが比較的低コストで手に入るようになっている。
日本はほぼ全てのエネルギー資源を輸入している。
アメリカは液体のエネルギー資源を輸入しているが石炭と天然ガスは豊富にある。
この15年の間にシェール層の天然ガスが相次いで発見されたからだ。
これはエネルギー革命につながると私は思っている。
カリフォルニアで金が発見されたようなものだからね。
しかし今はまだ入り口の段階だ。
天然ガスの採掘は安全ではないという事になったらまた止められてしまうかもしれない。
この事を題材にした映画もある。
シェールガスの危険性を主張するもので原発に反対する映画と同じくらい影響力を持っている。
天然ガスはこの先重要になってくるので君たちもよく理解しておいた方がいいだろう。
今後の講義で天然ガスの埋蔵量についても説明するつもりだ。
私はアメリカは近い将来天然ガス輸出国になる可能性が高いと思っている。
これは貿易収支を大幅に改善する事につながるからアメリカにとってはいいニュースだ。
日本にとってもいいニュースとなるはずだ。
アメリカや他の国が天然ガスを輸出し始めたら価格が下がるからだ。
現在アメリカ国内で売られている天然ガスは同じエネルギーあたりの価格がガソリンの3/3だ。
サンフランシスコでは半数程度のタクシーが数千ドルをかけてガソリンから天然ガス仕様に変えられている。
それだけ安いからだ。
ここではタクシーの運転手は自分で燃料代を負担するからね。
天然ガスは化学物質だ。
主成分は…要するに1個の炭素原子に4つの水素原子が結合した分子だ。
これが化学式。
天然ガスの90%はメタンだ。
石炭の成分はほとんどがC炭素だ。
石炭を燃やすと炭素が酸素と結合してCO二酸化炭素ができる。
燃やすと…。
これで燃えたという事にしよう。
酸素と結合して二酸化炭素とエネルギーになる。
天然ガスを燃やした場合も炭素は燃えて二酸化炭素になる。
ここにある水素はどうだ?燃えるとHO水になる。
水は環境にとって全く無害だ。
そしてこの過程でエネルギーが得られる。
水素ガスと同じだ。
1個の炭素原子は害になるがね。
エネルギー源として水素ガスが天然ガスに張り合えるとは考えづらい。
私の意見だが地球温暖化問題にはメタンがとても重要になるだろう。
課題は2つある。
エネルギーの安定供給と地球温暖化だ。
この2つは激しく対立している。
エネルギーの安定供給に必要な事は地球温暖化の歯止めにはならないからだ。
石炭は最も安い燃料だが二酸化炭素をたくさん出す。
エネルギーの安定供給にはいいが地球温暖化には悪影響を及ぼす。
太陽光エネルギーは地球温暖化にとってはいいが車を走らせるのは難しい。
1平方kmの太陽光には1GWのエネルギーがあると言ったね。
1GWはすごい数字だ。
それで100万世帯に電気を供給できる。
だが車の上に設置可能な1平方mだとどうだろう?その場合エネルギーは100万分の1に減ってしまう。
10億の100万分の1は1,000要するに1kWだ。
太陽光には1平方mに1kWのエネルギーがある。
1kWとはどのくらいだろう?仕事率の話の中では触れなかったがよく使われる単位に馬力というのがある。
厳密に言うと1馬力は746Wなんだがそれは覚えなくていい。
ざっと言えば1kWでいい。
そう覚えておけば十分だ。
そこまで正確でなくていい。
大体どれくらいか分かっていれば十分だからね。
出力1kWの車は1馬力の車だ。
だが最近の車を動かすには最も小型で弱いもので40〜50馬力はあるだろう。
速い車なら100馬力あるかもしれない。
数百馬力の車もあるだろう。
1馬力しかも太陽が真上にある時だけ?太陽光には膨大なエネルギーがあるがこんな小さなパネルでは全く意味がない。
これも覚えておいた方がいいね。
それから天然ガスについては代替エネルギーの講義でまた取り上げるつもりだ。
今後の講義では…。
質問かな?原子力発電はチェルノブイリや福島のような事態を引き起こしますが天然ガスはどうでしょうか?どんなリスクがありますか?天然ガスには2つのリスクがある。
1つは地域への環境汚染でこの業界には前科がある。
ほとんどはワイルドキャッターと呼ばれる連中のせいだ。
環境への影響など考えずに資源を採掘しようとする人たちだ。
環境を汚さずに採掘できるかそれが問題となる。
アメリカには環境を汚さずに採掘できるか研究しているグループが私たちを含めたくさんある。
そもそもきれいに採掘する事などできるのか?最大の影響は採掘地での汚染だ。
地域の水が汚染されてしまう恐れがある。
もう一つが温室効果地球温暖化だ。
実はメタンガスそのものは二酸化炭素より悪い影響を及ぼす温室効果ガスだ。
長期的に見ると25倍くらい悪い。
それを考えると大気中には数%しか放出できないわけだ。
石炭の代わりにメタンを燃やす事によって生じる悪影響はない。
だがメタンが採掘されてからパイプを通って家か車で燃やされるまでに漏れ出す量を1%以下に抑えられるか。
技術上の課題としては面白いがそれができないとすれば地球温暖化の観点からメタンに移行して得るものはない。
だがその数値を実現できるのであれば得られるものは大きい。
以前私はウインドサーフィンを練習していたがその時は物理の事ばかり考えていて何度やってもすぐに落ちてしまった。
時には全体的に考えた方がいい場合もあるという事だ。
他に質問は?先生が最善だとおっしゃる道をたどるとエネルギー消費量が将来も増え続けるように感じられます。
もっと効率のいい家電の開発に投資する事や全体的に効率を良くする事を考えた方がいいのではないでしょうか?私も君と全く同じ意見だよ。
我々が消費するエネルギーの1/4は無駄使いだと思う。
我々は1あたり13kmしか走らない車の代わりに1あたり42km走る車を開発できる。
それに家庭でのエネルギー消費量を減らしても快適な温度を保つ事ができる。
これは必ず実現すべきだと思う。
私が特に重要だと思っているのはこの考え方だ。
これは「ネガワット」と呼ばれるものだ。
省エネのために使用されなかったエネルギーにも他のエネルギーと同じ価値があると見なしカウントしようという考え方だ。
私たちは2つの事を実現すべきだと思う。
一つはエネルギー効率を高める事。
もう一つは石炭から天然ガスへ移る事だ。
天然ガスは液体にする事で車の燃料にもできる。
これらを組み合わせて行っていく事がアメリカや日本のみならず世界にとって重要な問題である。
エネルギーの安定供給と地球温暖化の両方を解決できる唯一の道だと思う。
さあ今日はここまでだ。
次回の講義で会おう。
(拍手)2014/05/16(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
バークレー白熱教室 大統領を目指す君のためのサイエンス 第1回 [二][字]
アメリカ西海岸の名門カリフォルニア大学バークレー校の人気ナンバーワン教授が登場。物理学のムラー教授が「大統領を目指す君のためのサイエンス」をレクチャーする。
詳細情報
番組内容
カリフォルニア大学バークレー校のリチャード・ムラー教授が5回にわたって「大統領を目指す君のためのサイエンス」をレクチャーする。大統領ならエネルギー、原子力、地球温暖化、テロなどあらゆる危機に瞬時に判断を下さねばならない、そのために必要な知識、考え方を学んでいく。講義は、今世界にとって最も切実な問題である、「エネルギー」を中心テーマに据える。知的快感にあふれた特別講義!
出演者
【出演】カリフォルニア大学バークレー校教授…リチャード・ムラー
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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英語
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