NHK短歌 題「歯」 2014.05.18

「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第三週の選者永田和宏さんです。
今日もよろしくお願い致します。
今日の選者の一首恐竜が出てまいりましたね。
これねシカゴの自然史博物館の中の恐竜なんです。
本当は外にいるはずの恐竜があんな所に閉じ込められてしかもほこりが見えているのがかわいそうだなという歌です。
恐竜をご覧になるのがお好きだったんですか?結構好きですね。
シカゴ行くとあそこ行くんです。
さあそれでは今日の「NHK短歌」にお迎え致しましたゲストをご紹介致します。
京都大学iPS細胞研究所所長山中伸弥さんをお迎え致しました。
ようこそお越し下さいました。
よろしくお願いします。
山中伸弥博士ご紹介するまでもありません。
iPS細胞の研究でノーベル生理学医学賞を受賞されました。
山中さんがなぜ短歌の番組にと皆さんもお考えでしょう。
どういうご縁でございましょう?私は短歌は詠まないんですが母親が短歌を少し趣味としております。
それともう一つは昔永田先生と研究室が隣だったんですね。
そのご縁で今日こちらに。
京都大学の中のご専門の研究の?ほんとの隣の部屋だったのでしょっちゅうトイレで一緒になりました。
トイレの縁がものすごく強く。
トイレ友達なんです。
そうなんですか。
今日はそのお二人でいろいろ短歌のお話して頂くのが大変楽しみなんですがお迎えする方に短歌とは何ですかって短い言葉をいつもお考え頂いております。
山中さんの場合はどんな言葉になりますでしょう。
論文ですか…どういう事ですか?論文は理詰めだと思いますが…。
論文をふだんから毎日書いてるんですけどその作業と短歌を作るという作業が一緒だなと思います。
どういう事でしょうね?後ほど詳しくお聞かせ下さい。
さあそれでは今週の入選歌のご案内になりましょう。
題が「歯」または自由でした。
永田和宏選入選九首です。
一首目。
立候補者って清潔さが売り物っていうところがあって歯も白いし手袋も真っ白だと。
それはそれでいいんですけど握手する時も手袋を外さないままで握手してる。
そこに作者は少しカチンと来たんですよね。
それをちょっと批判した感じがあるんですね。
恐らく若い候補者の方かもしれませんね。
それでは二首目にまいりましょう。
これ山中さんはどう鑑賞されますか?私昔医者をやっていた時にベッドの上の患者さんが指輪をなくされたと。
寝たきりの患者さんだったんですが一生懸命捜してもなくて諦めていたんですがその何日かあとに検査でベッドの上でレントゲンをお撮りしたらあったんです。
胃の中じゃないでしょうね?その時はベッドのどこかに紛れ込んでいたんですが。
それがレントゲンを撮ったために写ったわけですね。
その時の情景がこの歌でものすごくよみがえってきてあの時は非常にうれしかったんですがこの場合はあんまりうれしくなかったかもしれない。
これどうなったんでしょうね?歌としてはちょっと…というところはあるんだけどすごく面白い歌でですねこのあと義歯どうして取り出したんだという感じですね。
それよりも胃の中に行くまで気が付かないかというところが面白いですよね。
歌われてるエピソードが面白いですね。
それでは三首目です。
これね「歯のなき鶏は」鶏に歯がないのは当然なんだけど「歯のなき鶏は」ってあえて言ったところでこの歌面白くなって歯がないのでかみ切れないから首を左右に何度もふりながら鰯をちぎるというそこの動作が非常にうまく描写されてる歌ですね。
鶏はね歯がない代わりに砂肝というのがあって食べたものを砂肝の中でゴリゴリとすり合わすんですよね。
あれおいしいですよ。
おいしいです。
僕はね砂肝を取ってきてアクチンという蛋白を取った事あるんですよ。
ご研究の対象だったんですね。
そうなんですか…食べ物じゃないんだ。
さあそれでは次の歌にまいりましょう。
これもなかなか意味深長な歌ですね。
息子の所を訪ねたんだと思うんですがそうすると歯ブラシが二本並んでた。
「色違う」がいいですね。
何やら意味がありげなんだけど作者も分かるわけですね。
でもそれをあえて訊かずに帰ってきたというそこがとてもいい歌になってますね。
ピーンと来たんだというのもねいろんな思いが…。
それでは五首目です。
これも見たような光景ですね。
レントゲン写真だとどれが自分の顔か分からなくてどれも同じに見えちゃうんだけど。
歯の治療ですかね?歯の治療でしょうね。
レントゲン写真の上にこれが俺の顔なのかと思いながら治療を受けているという。
「右上辺に我の名がある」というのがとてもうまく利いてると思います。
では六首目です。
さあこれ山中さんどう鑑賞されますか?私娘が2人おりますしまた大学では学生さんとつきあっているんですがいつもどういう距離でつきあうかというのはいつも悩んでいるんですけれどもこの歌これぐらいがいいなと歯痒いくらいで手は我慢して出さないと。
でも背中は温かく見ている。
でも言いたくはなるんでしょ?それを我慢する。
そうなんですね。
まあ母親といい距離ですよね。
母親ととてもいい距離を保ってるお母さんだなと思うけど山中さんおっしゃったみたいに我々は学生をこういうふうに見られるかどうかなかなか難しいところでね。
濱中さんはどうですか?僕は学生は見ませんけど息子なんか言っちゃいますよね。
絶対嫌われますよ。
どんどん言っちゃいます。
煙たがられる嫌がられる親?緊張関係がありますね。
まあそれはさておき次の歌です。
これも山中さん伺いましょう。
これは僕とっても好きな歌です。
この方恐らく自分の歯並びを鏡で見てあんまり良くないなと思っておられると思うんですがそれを一年生に例えておられるという事はすごく愛おしい。
恐らくわりと高齢の方ででも自分の歯がたくさん残っておられてそれが誇りでもありでもちょっと並び方悪いんだけどでもかわいい。
そういう微妙な気持ちが伝わってくるような気がします。
山中さんおっしゃったとおり歯科の矯正なんかせずにこれでいいと思っているところが「一年生のように」というのがとてもいいですね。
それでは八首目にまいります。
これちょっと怖い歌やな。
今日こそは彼の答えを絶対に聞くんだと言ってくちびるの皮をかみ切って八重歯でというのがなかなかいいですけどね。
眥を決してという感じで行く。
今日こそはっきりさせるんだ。
これから行くわけですね。
ああ怖い。
来られた方は怖いですね。
これはね詠んでおられる方の年齢によっても怖さが変わってくるような気がする。
いくつぐらいだと思います?20代ぐらいだったらまだいいですけどそうじゃないとちょっとほんとに怖いですね。
でもそれを自分で戯画化してるところがとてもいい歌になってるところですね。
それではおしまいの歌にまいります。
九首目です。
これもなかなか面白い歌で「パスポート財布忘れてませんか?」と添乗員が言うのは普通だけど団体の年齢層を見て「入れ歯も忘れてませんか?」と言ったところが哀れにも面白い歌ですね。
まあそれに尽きますね。
よくあるんでしょうね。
忘れ物として。
濱中さんはまだ大丈夫?いやないですけど親なんか入れ歯どこ置いたか分かんないよという事がやっぱりありましたからあるでしょうねこういう事はね。
時代を映してる歌ですよねこれはね。
以上入選九首でした。
それでは今週の特選歌の発表です。
まず三席からです。
三席には熊谷純さんを選びました。
はいでは二席です。
二席は高松紗都子さんを選びました。
さあではいよいよ一席の発表です。
今回は北村保さんですね。
息子の所へ行ってピンと来たんだけど訊かずにさりげなく帰ってくる。
なかなかやるわいと思いながら帰るわけですね。
その時に「土手にたんぽぽ」という結句への飛び方が非常にうまいんですこの歌。
ここで何かひと言言いたいんだけどそれを言っちゃうと歌としては駄目になって「土手にたんぽぽ」と飛んでしまったところで歌が大きく生きたと思いますね。
ほほ笑ましくもあるしそれをうまく作者が処理した大きさというのが感じられていい歌になったと思います。
息子さんの成長を心配だけれども喜んでおられるようなそういうたんぽぽ。
そこが「たんぽぽ」でちょっとうれしいような気もしますね。
以上今週の特選でした。
今回ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品こちら「NHK短歌」のテキストにも掲載されます。
是非ご覧下さい。
さあそれでは「うた人のことば」ご覧頂きましょう。
岡部桂一郎さんが若くして兄妹を亡くした思いは日々一層募っていきました。
「うた人のことば」でした。
それでは続いて「入選への道」ですね。
皆さんから頂戴するご投稿作品の中からここを直せばとても良くなるという歌がたくさんございます。
今日は一首取り上げて直して頂きましょう。
これでいいんですがとても悲しい歌なんですね。
若い息子を荼毘に付した。
その中に義歯を支えたネヂがあった。
それだけで悲しい歌でいい歌なんですけど一連が全体どんどん深くへ行って途中に切れがないのでどこかで切れを作りたい。
それが一番大きなところでこんなふうに直してみます。
三句で切れましたね。
まず「終へた」の「た」が口語的すぎるの嫌なので「し」に変えたのと結句に「見いだす」があるんですが「見い出たり」と。
「入り混じる」は混じってるだけなんだけどそこに「見つけた」というところがとても大事なので「見い出たり」というここで一回切ります。
そして「義歯を支へし一本のネヂ」と体言止めで止めておく。
一本か二本か分からないんですけどこれは一本が断然いいですね。
ピシッと決まりましたね。
山中さんいかがです?ますます論文と一緒だなと思いました。
まさにこの作業を見てですね。
どういう事なんでしょうか?楽しみになってまいりました。
皆さんもどうぞ歌作りの参考になさって下さい。
投稿のご案内を致しましょう。
それでは選者のお話です。
永田さんの「時の断面あの日、あの時、あの一首」今日は「複雑な視線デモの外から」というお話です。
これね60年安保の時の歌なんですがデモをしている方ではなくてデモを外から取り締まる方の側なんですよね。
筑波杏明という歌人は実は機動隊の隊長をやってた人で業務としてデモを規制したりスクラムを排除するというそういう役割を持ってた人で排除しようと思って近づくとふるさとの自分の母親ほどの老人がスクラムを組んでた。
機械的に排除すればそれでいいんだけどその時に一瞬たじろいでしまった。
こんな年寄り老齢の人が組んでるスクラムを機械的に排除していいのかという任務と自分の感情との板挟みになってるそういう感情が非常に率直に隠さずに出ている。
これがすばらしいところだと思いますね。
機動隊であるとか警察の方は業務としてある意味ロボットのように仕事をこなすという印象を持ってしまいますけれどもこの歌心の葛藤といいますかロボットじゃない人間ですよね。
一人一人がそれぞれの感情を持って動いてるんだという事がよく分かりますね。
こういう立場からの歌というのは印象深いですね。
筑波さんってこういうのをずっと詠み続けた人でしたね。
選者のお話でした。
それではゲストにお迎えしております山中伸弥さんにもさまざまなお話伺ってまいりたいと思いますがまずはお好きな歌一首挙げて頂く事にしておりますが山中さんはどんな歌をお選びになったのかご紹介頂きましょう。
これは作者のお名前拝見しますとお母様ですね。
母親の歌です。
おいくつぐらいの作品でしょうか。
70前後だったと思います。
どういう背景で生まれた歌ですか?私は父を20年以上前に亡くしました。
そのあと母親がずっとふさぎ込みがちになって趣味もなくて本当に息子として心配していたんですがこの歌を目にした時にあっ母親にこんなにすばらしい趣味ができたんだという喜びとそれともう一つはこの歌の内容細かい事は本人に聞かないかぎり分からないんですがでも非常に暗いトンネルを抜け出して明るい所に踏み出すと。
そういう前向きな力を感じる事ができてすごくそれがうれしかった事を覚えています。
お母様が元気になったんだなと思われたんですね。
「捨てるはジョーカー」というのはそういうお父さんの記憶とかいろんな暗い自分の思いそれをちょっと脱ぎ捨てて「手にはエンジェル」ってひょっとして山中さんの娘さんの事では?そうかもしれないですね。
僕の娘もしくは姉にも子供がおりますので孫の事を言っているのか母親に直接意味を聞いた事はありません。
聞かない方が僕はいいかなと思っています。
本当にそうだと思いますね。
歌で心が表れているものについては歌を読んであげるというのがとても大事な事だと思いますね。
こんなふうにお母様はお気持ちを短歌で表現されてるという事をお知りになっていかがでした?ずっとですね父親と仕事を一生懸命やって僕たちを育ててくれて父が亡くなったあとも落ち込みながらも気分が暗い中で一生懸命仕事を続けてくれましたのでその中でこういった明るい前向きな歌詠むようになったのは本当にうれしかったです。
最初に短歌とは何でしょうかという事を短い言葉にして頂きました。
もう一度お見せ頂きます。
こちらでしたね「短歌は論文だ」という事なんですが大変理詰めな論文と短歌は短い詩ですが…。
論文というのは僕たち科学者が毎日のように書いているやっている作業なんですけれども今回この番組に出して頂くにあたって少し短歌の勉強を自分でも少しだけしたんですがその時思ったのは僕たちがやってる論文という作業と短歌を作るという作業はほんとよく似ているなと。
どういう点でしょう?論文全体的にもそうなんですが論文の中でもタイトルとかアブストラクトは字数制限があります。
アブストラクトというのは要旨の事ですね。
タイトルは大体90字とか100字とか非常に短い制限がありますしアブストラクトも全体で120ワード200ワードとか短くまとめないと駄目なんですね。
その中で自分の実験結果自分の言いたい事をどう伝えるか。
単に事実を伝えるだけではなくてどう読者の方の心に響くような伝え方をするか文字一個一個を取っ替え引っ替えしてどうしたら一番いいかというのを常に考えていますので短歌の本を読んだ時にあっ一緒だと。
言葉を選ぶその吟味するというね。
事実はまず大事な事。
でも伝えるのは英語でも日本語でも言葉で伝えるので言葉を吟味するってすごく大事ですよね。
先ほど添削されました。
論文も添削してああやって赤い字を入れるんですがうまい方に添削してもらうと全然違う生き生きとしたタイトルになるんですね。
みんなに見てもらうというのが大事な事なのでね。
しかしよほど言葉を選んでいらっしゃるという事ですよね。
永田先生が歌でもすごい方だし研究者としてもものすごい方なんですが全然違う作業のように思っていたんですが今回あっ共通点があるんだ。
だから両方こんなに立派にされているんだというのがすごく分かりました。
短歌ほど論文書いたらすごいんですけどね。
論文もすばらしいです。
永田さん山中さんで思い出すのは?山中さん僕の横に来られた時からよく知っていて若い爽やかな青年が来たなと思ったらそれがあれよあれよという間に世界で一番有名な科学者になってしまった。
文字どおり世界で最も有名な科学者になってしまったけど僕はねそれぞれの方がどういう発言をされたかがすごく大事だと思ってるんですけどうちの大学でノーベル賞取られた益川先生と山中先生とで対談して頂いた事があってその時山中さんおっしゃったのはそれぞれ一枚一枚サイエンティストは真実のベールを剥がすんだと。
剥がしながら誰もみんな剥がしてるんだけど前の人が剥がさないと次のベールは剥がせない。
剥がした時にすごい発見がある。
これが僕の発見だとおっしゃったんだけど山中さんすごく謙虚なところなんですがそんな事は全然なくて山中さんすばらしいんだけどでもこうおっしゃったのは日本のあるいは世界の若い科学者にすごい希望を与える言葉だと思うんですよね。
一人一人の研究者の積み重ねで発見ができていきますから一人ではできない。
前の人のベールがないと次のベールは剥がせないんだね。
今日は山中伸弥博士をお迎えして「NHK短歌」お送りしました。
興味深いお話大変ありがとうございました。
永田さんでは来月もどうぞよろしくお願い致します。
どうもありがとうございました。
ではごきげんよう。
2014/05/18(日) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「歯」[字]

選者は永田和宏さん。ゲストは2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん。京大時代の永田さんの研究室の隣が山中さんの部屋であったことから交遊が深まった

詳細情報
番組内容
選者は永田和宏さん。ゲストは京都大学iPS細胞研究所所長で 2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん。山中教授の母が短歌を趣味とし、また京大時代の永田さんの研究室の隣が山中さんの部屋であったことから 交遊が深まったという。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】山中伸弥,永田和宏,【司会】濱中博久

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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