お寿司屋さんなどで耳にする「江戸前」。
江戸の前の海つまり東京湾の事です。
今もアナゴにキスにコハダ色々美味しい魚が水揚げされますがもう一つこれぞ江戸前!と江戸っ子たちが絶賛する海の幸があるんです。
なんだかわかりますか?サラリーマンが集う街東京新橋で探してみましょう。
こちらは新鮮な魚介類が自慢のお店です。
うわー!これは間違いないね。
これはうまいね。
お客さんが熱い眼差しで見つめているのが…これです!ハマグリ。
(店員)ハマグリを。
そう!ハマグリ。
お持ち致しました。
はいハマグリ。
はい失礼致しまーす。
こちらが大ハマグリ。
古くから江戸前でとれるハマグリは肉厚で美味しいと言われてきました。
貝の口が開いたら焼きあがりの合図。
磯のいい香りがします。
ジワジワっとしみ出してくるうま味たっぷりの汁をこぼさないように…。
プリップリの身に火が通ったら食べ頃です。
すみませんいただきます!どうぞ!こちらもハマグリですね。
絶賛です!ハマグリの産地として有名なのは三重県桑名市。
「その手は桑名の焼き蛤」でおなじみですね。
でも江戸の町でハマグリといえば江戸前が当たり前でした。
今では知る人ぞ知る高級品ですが「江戸前はまぐり」というブランド名で東京湾産のハマグリが流通しているんです。
プクプクしてます。
普段食ってるのとは全然違う…。
すごい味が濃いです。
うま味が濃いと言われる江戸前はまぐり。
東京と千葉を結ぶアクアラインのたもと千葉県木更津市の海でほぼ一年を通して漁が行われています。
今では市内の5つの漁協が盛んにハマグリ漁を行っていますが…。
かつては絶滅の危機に瀕していました。
千葉県発行の『レッドデータブック』には絶滅が危惧される動植物が深刻度の高い順にランクづけされています。
ハマグリは「消息不明・絶滅」を意味するXに認定。
つまり天然のハマグリは絶滅したと考えられていたんです。
この海に再び江戸前はまぐりを取り戻そうと情熱を傾けてきた人がいます。
それは木更津のベテラン漁師たち。
そして数年前奇跡が起きました。
一度は失ったものと思われていた江戸前はまぐり。
漁が再開すると漁師の食卓にも代々伝わる懐かしいハマグリ料理が…。
そして老舗の寿司店にも幻の味が復活しました。
今週の『日本!食紀行』は東京湾に伝統のハマグリ漁を復活させた漁師の知恵と情熱に学びます。
千葉県午前6時。
ハマグリ漁師の船が一斉に港を出ました。
漁が出来るのは潮が引く干潮の時だけ。
時間との勝負です。
港から1キロほどの沖に船が集まりました。
よく見ると漁師の皆さん船から降りています。
そう!ここは潮が引くと水深60センチほどになる浅瀬。
膝上まで漬かってハマグリをとります。
漁に使うのはハマグリ漁に欠かせない「腰まきかご」という道具です。
昔は竹で作ってあってね木で。
これだけ鉄で。
これ?腰まき。
このかごにハマグリをとり込みます。
先端には砂に埋まったハマグリをかき出す鋭い刃。
ハマグリが生息しているのは砂泥と呼ばれる粒子の細かい砂地。
ずしりと重く体力が必要です。
腰に巻いた紐に体重をかけかごを後ろに引いていきます。
ゆすると網から砂が抜け貝だけが残るという仕掛け。
江戸の漁師の知恵です。
このあとは江戸前はまぐり復活の秘密に迫ります。
東京湾木更津市で水揚げされる江戸前はまぐり。
古くから日本人に愛されてきたハマグリは美しい貝殻も重宝されました。
平安時代に始まった貝合わせ。
鎌倉時代には上下一組の対になった美しい絵が描かれこれを合わせて取り合う遊びになりました。
また他の貝では決してピタリと形が合わない事から幸せな結婚生活を願う縁起物とされました。
今でも婚礼の席などにハマグリの潮汁が定番となっているのはこうした由来があるのです。
古くから続くハマグリ漁。
その漁場で漁協を取り仕切る…。
数えてみて。
ねえ…大したもんでしょ?はい!漁師歴57年!貝でいっぱいになると3キロにもなるかごを軽々と持ち上げる75歳。
さすがです!船の上でハマグリだけをより分けます。
つやつやしていて形がふっくらしているのが江戸前はまぐり。
他には…。
(鳩飼さん)知らない人はねみんなこれそうかと思ってね。
(鳩飼さん)幅があるの。
カガミ貝は鳩飼さん曰くあまり美味しくないそうです。
市場に出しても売り物にならないので海に戻します。
かごからあげても半数以上が違う貝。
手間が掛かりますがそれでも皆さんハマグリ漁には特別な思いがあります。
(鳩飼さん)色んな柄があるけどもね…。
色も形も栗のようなので「浜の栗」ハマグリとなったという説もあるほどです。
しかし…。
木更津沖は昔から優れた漁場として知られていました。
潮が引くとおよそ2キロ先まで干潟が広がります。
ここは盤洲干潟。
今でもアサリやアオヤギなど魚介類をはじめ野鳥も集まる海のゆりかごです。
かつては東京湾全体にこうした干潟がたくさんありました。
これは江戸時代の品川沖の図。
干潟で漁をする様子が描かれています。
以前の東京湾はどんな様子だったのか専門家に伺いました。
深さ…20メートル30メートルの結構広い湾が陸地に閉じ込められた状態であると。
周りから適度の栄養塩類ですよねそういうものが入ってきてる場所でかつ人がそこそこいるって事は人が出す栄養物質がありますよね。
窒素とかリンとかそういうものも適度に供給されていて本当に色んなものがとれたらしいですよね。
明治時代に東京湾でどんな魚がとれたのかそれぞれの漁場を描いた図です。
品川沖の干潟ではエビやヒラメの他ハマグリがとれた事も記されています。
しかしその後埋め立てが進み房総半島側の干潟に主な漁場が移ってハマグリやアサリ漁が盛んに行われました。
さらに昭和30年代には工場排水などの影響で東京湾の汚染が進みハマグリをはじめ多くの魚介類が姿を消していきました。
盤洲干潟を有する木更津の漁師たちは環境の変化に強いアサリの漁に切り替えて操業。
二度と江戸前の海でハマグリはとれない。
誰もがそう思っていました。
ところが12年前木更津市中里漁協の永峯組合長は奇跡的な体験をします。
ハマグリのちっちゃいのがね入ってたんですよアサリの中に。
いやあこりゃしめたなと。
近年工場排水や生活排水の浄化施設が整い東京湾の水質が改善されてきたのです。
海の環境が復活していく中ついにハマグリが戻ってきました。
それは実はもう始まっていて…。
昔のようなハマグリ漁を復活させたい。
矢も楯もたまらず永峯さんは動き出しました。
千葉県の漁業組合連合会に協力を仰ぎ江戸前はまぐり漁業復活プロジェクトを立ち上げたのです。
そして手始めに行ったのが小さな小さなハマグリの赤ちゃんの放流です。
今日何トン?今日5トン半ぐらいですね。
プロジェクトの指揮を執る千葉県漁連の岩崎所長。
もうこの仕事を始めて8年。
漁獲に繋がってますので。
漁協の皆さんは一生懸命取り組んでおりますので。
目的は伝統あるハマグリ漁の復活です。
国内産ハマグリの稚貝を育て毎年春に干潟に放ち2年から5年ほど育成します。
以前は海水の汚染で生きる事が出来なかったハマグリが今はすくすく育つ環境になりました。
幅1センチにも満たない稚貝が5年後には10倍ほどの大きさに。
江戸前の漁師たちの熱き思いが年間30トン以上の漁獲高として実を結んだのです。
32!大きさも形もそしてもちろん味も漁師たちの自慢。
よっ!ハマグリ漁が復活して漁師の食卓にもハマグリ料理が戻ってきました。
(永峯さん)おーい!これさむいてやってよ。
永峯さんの妻好子さん。
漁師の家庭に代々伝わってきたハマグリ料理を作ってくれる事になりました。
身をむくと江戸前はまぐりならではの特徴がわかるそうです。
だから食べてもものすごくやっぱりふんわりしてて甘いですよ。
むき身を1センチ角ほどに切っていきます。
青く見えるワタがコクを出し味の決め手になります。
火にかけると自然と乳白色のハマグリのダシが出てきます。
ある程度水分を飛ばしたらみそと砂糖で味付けします。
最後にお酒を少々。
永峯さんのお母さんから伝えられた漁師料理です。
仕上げは卵。
意外な組み合わせに見えますがハマグリの上品なダシと相性がいいんです。
弱火で炒っていくとご飯のお供にピッタリのハマグリみその出来上がりです。
そしてお吸い物。
ハマグリのうま味がしみ出しています。
はい。
いつもこんなもんだ…。
これぞハマグリ漁師の家庭のご飯!素朴で本当に美味しそうです。
甘辛く味付けしたハマグリみそはアツアツのご飯にのせて食べるのが一番!かつて漁師の家では定番中の定番でそれぞれの味があったそうです。
永峯さんにとっては懐かしいおふくろの味です。
うん美味しい。
(永峯さん)うん。
(好子さん)美味しい?うん。
ふっくら甘い昔の味。
未来に残したい江戸前の漁師料理です。
よみがえった東京湾で育つ江戸前はまぐり。
その名に恥じないよう細かな努力が重ねられています。
永峯さんの中里漁協をはじめ木更津の5か所の漁場でとれたハマグリは千葉県漁連あさり事業所に集められます。
まずは水揚げされたばかりのハマグリを洗浄。
砂や海藻を落とします。
この機械で4段階の大きさに分ける事が出来るんです。
サイズによっておすすめの調理法があります。
サイズ分けのあとすぐには出荷されません。
きれいな海水が入った水槽で3日ほど砂抜きをし買った方がすぐに食べられるようにしています。
砂抜きをしたものはこの部屋で検品です。
(叩く音)音で割れている貝を選別し除きます。
鈍い音は割れている証拠。
こうして選び抜かれたものだけが江戸前はまぐりのブランド名で出荷されていくのです。
その多くが運ばれるのがここ東京築地市場。
貝類専門の仲買栄光水産です。
カキやホタテあらゆる種類の貝を入れています。
その中に…ありました江戸前はまぐり!早速仕入れに来た方がいました。
ねえ!?江戸前はまぐりの復活をみんなが待ち望んでいました。
この日は100個以上の大量注文もありました。
結婚式場に届けるそうです。
お店では江戸前はまぐり以外のハマグリも売られています。
出回っているのは3種類。
さて皆さんはこの違いわかりますか?答えは木更津の漁協の皆さんに伺いましょう。
比率的に。
国内に流通しているのは主にこの3種類。
リーズナブルに手に入るシナハマグリは中国からの輸入品。
大きくしっかりした汀線ハマグリは九十九里浜など外洋に面した砂地に生息しています。
そしてこれがずばりハマグリ!江戸前はまぐりはこの種類で河口付近の浅い海干潟に棲んでいます。
その特徴を見ていきましょう。
貝の横幅を「殻長」といい江戸前はまぐりは丸っこい形です。
そして厚みが「殻幅」。
江戸前のものはしっかりと厚みがあるのが特徴です。
一方外洋性の汀線ハマグリは殻長がやや長いのが特徴。
そして厚みを比べてみると…一目瞭然!江戸前はまぐりは分厚く汀線ハマグリはスリムです。
さらに…。
中国産のハマグリ。
見分け方?シナハマグリは殻の表面がザラついています。
江戸前はまぐりはつるっつる!見分け方のコツわかりましたか?ぜひお買い物の参考にしてください。
江戸前はまぐりをはじめ内湾性の国産ハマグリしか使わないという老舗があります。
九段下寿司政。
創業から150年。
江戸前寿司の心を今に伝えています。
ネタに仕事をするのが江戸前寿司。
アナゴやハマグリなどはふっくらと炊きあげ甘辛いツメをつけて握ります。
板場を任されている戸田行雄さん。
煮ハマグリの仕込みです。
江戸前はまぐりの特大サイズを使います。
むき身にしたハマグリは流水で丁寧に洗いぬめりを取ります。
まずハマグリを煮るための汁を用意します。
沸騰したお湯にたっぷりの日本酒そしてしょうゆ。
コクを出すために三温糖を入れます。
そしてハマグリを湯でさっとゆがきすぐに上げます。
これがやわらかい煮ハマグリを作るコツ。
次に先ほど作った汁にハマグリを入れて煮立たせます。
ここで重要なのが…。
(戸田さん)煮汁を少し入れます。
いっぱい入れちゃうとダメなんですよまた。
ここからまた
(スタッフ)ああ…!はいうま味。
ひと煮立ちさせたら火を止めしばらく冷ましておきます。
こうする事でうま味がしみてやわらかくなるそうです。
そうしてようやく握ります。
身に包丁を入れ開いていきます。
握りに使うのは江戸前寿司伝統の赤酢を使ったシャリです。
そして仕上げは甘辛いツメ。
アナゴとハマグリの煮汁を煮詰める事から「ツメ」と呼ばれます。
まさに芸術のようなひと品です。
江戸前はまぐり復活への道夢はまだ広がっていきます。
江戸前はまぐりの復活はまだ道半ばだと言います。
定着する事が。
ここで生まれ育ったハマグリが定着し増えていく。
それが夢です。
あの場所は干潟が残ってるので。
時代とともに姿を変えてきた東京湾。
江戸前の魚介類は幻とまで言われた時代もありました。
しかし今多くの人々の力で江戸前の海は再生の時を迎えています。
漁師たちは言います。
「この豊かな海を次の世代に必ず受け継いでいく」江戸前漁師の心意気が未来を切り開きます。
次回の『日本!食紀行』は城下町松江。
和菓子をこよなく愛する暮らしに学びます。
2014/05/18(日) 06:00〜06:30
ABCテレビ1
日本!食紀行[字]
日本全国各地の「食」を通して、地域の歴史や文化、人々の英知や営みを学び、温かいコミュニティーなどを四季折々の美しい風景とともに描き出す教育ドキュメンタリー番組。
詳細情報
◇番組内容
磯の香りを堪能、焼きはまぐり!シンプルなのに深い味わい、はまぐりのお吸い物!絶品、煮はまぐりの握り寿司!漁師料理の“はまぐり味噌”…今回は“江戸前はまぐり”の魅力をたっぷりとご紹介します。かつては東京湾でたくさん獲れたのですが、一度は死滅した幻の貝…しかし今、再び市場に出回っているのです。
◇番組内容2
高度経済成長期に海水汚染や干潟の消滅で東京湾から姿を消しましたが、漁の復活を願う年配漁師達の熱い思いがきっかけで、復活プロジェクトが始動。同種のはまぐりの稚貝を千葉県木更津市の干潟で育成することで、再び食べられるようになりました。熱い思いで漁を復活させた漁師の知恵と情熱に学びます。
◇ナレーション
松尾由美子(テレビ朝日アナウンサー)
◇音楽
エンディングテーマ曲
Bom Dia ! / 柏木広樹
◇制作
企画:民間放送教育協会
制作著作:テレビ朝日
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.minkyo.or.jp/
◇おしらせ2
この番組は、朝日放送の『青少年に見てもらいたい番組』に指定されています。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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