NHK俳句 題「薬(くす)玉」 2014.05.18

朝の体操はこの辺で。
どうぞ良い日曜日をお過ごし下さい。
「NHK俳句」第3週の選者は櫂未知子さんでいらっしゃいます。
どうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願い致します。
今日の兼題は「薬玉」です。
船の進水式ですとか鉄道の開通式にパカッと割れる物かと思っていましたらこちら。
これが薬玉なんですね。
そうですね。
かつての形よりはちょっと簡略化された形になってますけれどもこれが本来の薬玉でございます。
香りが本当にお香のような。
届けたいですねこの香りを。
気持ちの静まるようないい香りが致します。
この季語としての「薬玉」は端午の節句に柱に掛けてよこしまなものが家に入らないように家族が健やかでいられるようにという願いを込めた物でございます。
今日はこちらの俳句よろしくお願い致します。
さあゲストをご紹介致します。
今日は銅版画家の山本容子さんにお越し頂きました。
よろしくお願い致します。
よろしくお願い致します。
山本さんはこの薬玉は?全然知らなかったです。
ただ薬玉というので母にちょっと聞いてみましたら子どもの頃確か上の方からブラ〜ンとぶら下がっていたような記憶があると言ってましたので私の母の世代の人たちはまだ家の中で機能してたのかななんて思いながら来ましたけれども。
そういうものなんですね。
さあその山本さんですけれども以前ご出演頂いた時の俳句は憧れの存在だとおっしゃってた…今いかがですか?憧れの櫂さんを横に置いてまたというような…。
今は2年前から月に1度句会に参加してるんです。
ちょうど還暦を迎えたので今までの自分を変えようじゃないけど知らない事が多すぎるので「歳時記」からいろんなすてきな言葉を覚えたいというのがきっかけだったんですけども始めました。
先生もいらっしゃるんだそうですね?小説家の小林恭二宗匠です。
始められて楽しさ面白さってどういう事ですか?ちょうど12人ぐらい集まって俳句を全然作った事ない人12人集めてよちよち歩きの我々をこう飼って下さってるんですけれども。
同じものを見ても同じ風景だとか同じ食べたりした物みんな感じ方違うのね。
そこが何かすごいすてきで。
正解ないじゃないというか。
でも格好いいのは格好いいと思うし。
何かそういう感じです。
俳句ってそういうもの…?そういうものですね。
小林さんも偉いですよね。
初心者12人集めてやるというのはなかなか…。
へろへろになってらっしゃいます。
多分相当お疲れだと思いますが。
さあまず1句ここで山本さんの俳句をご紹介頂けますか?そうですね。
なかなか格好いい句ですよねこの句ね。
どういうつもりでお作りになられたんですか?私はもともと毛虫が好きなんです。
「虫めづる姫」とは言いませんけれども何かすごい変化していく感じが好きなんです。
毛虫は葉っぱ食べて生きてる訳なんだけど飼われてる訳なんだけど。
何かね風の中でこうあの形態もそうなんだけどこうふ〜っと毛が揺れるでしょ。
あれってやっぱり風に飼われてる感じもするのね。
これは見た感じです。
だけどもう一つは風という字を見てみると中に「虫」が入ってるんですね。
だからこう風の中で虫が飼われてるって感じもイメージしてこんなものが出来ました。
邪道でございますが。
とっても形のいい句なんですこの句ね。
まずそれで「毛虫」って大体嫌だなというふうに作品にされる事が多いんですがこの句はあたかも…何て言ったらいいんでしょう風を切って生きていく生き物の姿というんでしょうかね飼われてはいるんだけど。
これはやっぱり小林恭二さんの薫陶のたまものというかそんな感じが致しました。
感性豊かな山本さんならではの句かなと思いましたけれども。
あまり言わないで下さい。
頑張ります。
後ほど…俳句と銅版画は共通点があるとおっしゃってるんです。
そのお話もよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
それでは入選句ご紹介してまいります。
まず1番です。
すごい。
小林さんも読んだ時に…「人の句を読みなさい」ってすぐ教えてくれて。
これは私今読んでみますとこの「薬玉」というのはさっき櫂さんがおっしゃったみたいな子どもの成長を願ったり要するに健康でねというのがある訳だから。
「嬰は一気に雲掴む」というとその健康を願ってサッとした成長を願うというふうにも読めるし薬玉自体が家の中ではうちの母なんか言ってるようにちょっと軒というか鴨居の辺からあった。
そうすると下から嬰がそれを見ていて何かこう長命縷というんですかひもでこう遊んでる姿も見えるしと。
何か両方見えてとても面白いと思いました。
私はあの…雲をつかむような話というのがありますけれどもそれとはまた別にこの句は未来というか空というかそういうものを小さな手だけれども鷲掴みするというかなそういう未来を掴んでいる感じが見えるかしらと思ってこの句を選んだんですね。
では2番です。
なんとも珍しい句ですよねこれはね。
この「薬玉」でこういう句はこれ一句だけでした。
薬玉の気持ちになっているようなそして大変優雅な感じがこの一句には込められていると思いましたね。
「花のこころ」って何だろうと思うけれどこれはこの「花のこころ」は何だろかというよりかは何かこの雅な感じこれが何か「花」という象徴と合っていて「雅なこころ」を持っていると言いかえてもいいのかなというふうに思いました。
では3番です。
柱の傷と長命縷みたいな句はたくさんあったんですね実は。
あるいは柱から下げるあるいは鴨居から下げる。
しかし「耐震の柱」というふうに読み切った例はこれ一句でございました。
やっぱり震災があったりしましたので家の中にその災厄が入ってこないように柱もしっかりさせていると。
大変面白い句だと思いました。
何か願いも籠もってますよね。
はい。
では4番です。
凝っている句といいましょうか形が大変面白い句で。
あるお子さんがいてそのお子さんにお父さんがいる。
お子さんをこう乗せてくれる膝がある。
寛容な膝ですよね。
それに対してお母さんは抱き留めてくれる。
何も聞かずに抱き締めてくれる。
大変…何て言うんでしょう親子の情愛に溢れた作品だと思われました。
5番です。
「嬰児」の「嬰」と書いて「嬰」と読む場合もありますしこの場合は「幼稚園」の「稚」と書きまして「稚」と読ませております。
小さな赤ちゃんあるいはこれからゆっくりと歩きだしそうなお子さん。
はっきり言っちゃうとおいしそうなむちむちとした…。
ぷくぷくしてむちむちして。
手も足も。
健康的なね。
輪ゴムで何か縛ったようなくびれがあったりして。
なんともかわいい句でね。
これはやっぱりすぐ頂きましょうと思いました。
今度は6番です。
ご覧頂くと分かるんですがこの「薬玉」というのは中身がどうなってるか分からないんですよね。
匂いだけはいい匂いだけはしてくるけれども。
私なんかも非常に好奇心溢れる子どもでしたから何か閉ざされてるものがあれば見たくてしょうがなかったんです。
開けてみたいんですよ。
そういうのありませんか?山本さん。
あります。
ばらばらにして壊して怒られちゃう事。
そうなんですよね。
開けてがっかりしたりするんですが。
でもそれを一句にしたというのは大変面白い発想だなと思いますね。
少しでも…怪しげな感じですね若干。
珍しい句だと思います。
珍しいですよね。
では今度は7番です。
薬玉と手足をセットにした句は結構あったんです。
薬玉に子どもの手が触れるとか掴みたがるとか。
しかしながらちょっと目を転じまして髪の毛に視点を移した句というのはめったにないといいましょうか今回の投句ではなかったんですね。
「鄙」といいますとこの「薬玉」は雅な物でありますけれども「鄙」って田舎ですよねはっきり言って。
この髪を抱き締めた時にふっと日向の匂いがした。
これも大変温かなやさしい句だなと思って頂きました。
何かすごいデッサンが見えてきますね。
子どもをぎゅっと抱き締めてちょうど鼻の所にぎゅってやると子どもの髪がきて。
それが…鄙の匂いというのは健康な香りでもありますよね。
日向の匂いで。
だから愛情がそのまま繋がるという。
それで繋がって何かいい香りしてますけどこの香りの事をテーマにされたというのは非常にらしくていいなと思う。
そうですね。
今度は8番です。
ほかの句は「薬玉や」で切った句が多かったんですけれどもこれは丁寧に「薬玉の下や」つまり下がっている下ですよね。
そこで一旦切りましてそこにいる双子の夢が違うという。
顔がそっくりでも考えている事や目指すものが全く違うという事をさりげなく作品にしたものだと思われました。
健康は当然願うけどもこの子たちそれぞれがそれぞれの個性を持って豊かに生きてねという感じもしますし。
もう一歩何か入った感じがしますね。
そっくりな顔をしていながら全く違う人生を送っていくんだろうなという。
そう考えると面白いですよね。
面白いですね。
では9番です。
「薬玉」「長命縷」ときましたけれどもこの句は「五月玉」というまた薬玉の別名を使っております。
そこに座敷童が来て座敷童といえどもやっぱり好奇心は旺盛で子どもですから触れたがっているのかなという感じでどこか「遠野物語」の雰囲気のある懐かしい句ですよね。
何か風もないのにふっと揺れると「あっ座敷童が」。
そんな感じもありますよね。
やっぱり座敷童というのは幸福をもたらすといわれていますから多分このおうちは大丈夫だろうと。
そうですね。
以上が入選句でした。
では特選三句をご紹介する前に「俳人のことば」をご覧下さい。
(文挾)そういえば昔「候文のラブレター」をもらったなという記憶ももう消えつつあります。
もうでも内容は覚えてません。
(文挾)「曼珠沙華」には数は少ないけど白い花のものもあります。
高齢者のプラトニックが大いにふさわしい花と思います。
これはやっぱりお遊びですよ。
もののあわれな。
老人の心境を何か訴えてるんじゃないかなという自分で思いますけど。
それでは特選句です。
まず第三席はどちらでしょう?松下弘美さんの句です。
二席の句はどちらでしょう?奥田誠さんの句です。
一席はどちらでしょう?橋田敬子さんの作品です。
特によかった点といいますとまず派手な言葉を一つも使っていない。
そして一つ一つの言葉が一句の中で居場所を得てるというんでしょうか。
無駄がない。
そして詰め込み過ぎでもないという。
親の気持ちがよく伝わってくる美しい句だと思われました。
以上が今週の特選でした。
ご紹介しました入選句とそのほかの佳作の作品はこちらNHKの俳句テキストに掲載されています。
俳句作りのためになる情報も参考になさって下さい。
それでは続きまして入選の秘訣です。
入選までのあと一歩を教えて頂きます。
俳句を作る時にどうしても五七五にまとめたくて変に言葉を省略してしまう事が時々あるんですね。
そこでちょっと注意して添削をしてみたいと思います。
こちらの句でお願い致します。
はい。
意味はそこに吹いているか吹いていないか分からない程度の風に長命縷が揺れているというね。
大変すてきな句だと思うんです。
しかしながら残念ながら「あるなしの風」という言い方は普通はしないですよね。
ここで「あるかなきか」と正確に直してみます。
しかしこうするとちょっと頭が重いんですね。
そこで「長命縷」をトップに持っていきまして「長命縷あるかなきかの風にゆれ」というようにすっきりとさせたいと思います。
なるほど。
こんなに変わるものなんですね。
そうですね。
どこに言葉を置くかによっていい句になるかならないかはっきりしてきますので注意したいと思います。
どうぞ参考になさって下さい。
それではここからは櫂さんの年間のテーマ「日本の季語遺産」。
今日はこちらの「薬玉」です。
季語としての「薬玉」というのは文庫「歳時記」にも載っているんですが意外と皆さん句を作りませんしご存じないんですね。
これ先ほど香りの事を申し上げましたけども実はこれこんなふうに…ちょっと立ちますけど長いんですね。
これ見て下さい。
長いですね。
やはり糸。
糸が大事でありまして「縷」というのは糸?「縷」が糸でございますからね。
命が長く続くように健康でいられますようにそして邪気が寄ってきませんようにという願いを込めて作られた物ですね。
大変歴史のある季語です。
そうですか。
この薬玉を大変ひたすら写生した句があります。
ご紹介下さい。
例えばこれ実物があるとよく分かる句なんですね。
これをちょっと回してみましょう。
本当は風があるといいんですけれども手でやります。
しゅるしゅるしゅるっと静かに回りましたがちゃんと戻りました。
どうという内容でもないんですけれどもこれを定型に収めるとすてきな詩情ある作品になるというね。
やっぱりこれが写生の力といいましょうか。
どうでもいいような事を詩に昇華させるこれが定型の力ではないかなと思われますね。
さあそれではここからまた山本さんのお話を伺ってまいりますけれども最初に俳句と銅版画と共通点があるとおっしゃってるんですね。
どういう事でございましょう?絵を描くにはテーマというのが必要で。
例えば風景画なら「風景」花なら「花」っていろんなテーマがあるんですけど。
私の場合は例えば今「肖像画のシリーズ」というのを描いてるんですがその肖像画でもテーマに選んだこちらにあるんですけれども銅版画なんですけども。
これは芥川龍之介さんの肖像画を私が描いた物なんですけれど。
ちょっとこのひょろんとした形。
銅の板をいろいろ切っておいてこの形を選んで。
これは芥川さんの特徴ある秀でたおでこと髪形だと考えるとこれが芥川さんに見えてくるのね。
それで彼は長身だったというイメージもあるからちょっと長い物を使ったり。
真ん中に抱いてるのが河童なんですけど。
彼の晩年の小説の「河童」というちょっと不思議なもの。
彼自身だとも言われている。
そういうつまり彼自身のいろんな人生がある訳なんだけれど私はこの時期の芥川さんが好きで私と芥川さんの距離感はこんなものですよというのを表現した物だと考えて下さい。
ですからこの形自体が…例えば定型五七五だと考えて頂けるとその中に自分らしい季語とか何とかが入ってるはずなのね。
ご自身のその芥川の感じでそのイメージを切り取ってそこに入れられるという事?私と芥川さんの距離。
リアリティーも含め。
なるほど。
面白いですね。
形があってはめていく。
それがぴったり合っているかどうかを悩むというか苦しむというか創作ってつらいですよね。
それと読んだ人がちゃんと読んでくれてそれでこのウイットに気が付いてくれたりすると「よかった。
コミュニケーションができた。
絵が出来た」って感じがするので。
やっぱり俳句と同じで作った側とそれを鑑賞する側とのこのコミュニケーションという点ではやっぱり形にはめるという点でも似てるかもしれませんね。
そうですね。
展覧会で見て頂いて何か感想を言って頂くと私の俳句なら俳句作品がそこで一個仕上がったという感じがするんですね。
形という意味では今日はとても大切な物をお持ち頂きました。
銅の板を持ってきました。
銅板で。
これは今の芥川龍之介の。
もうちょっと前…。
難しい…。
こうだ。
出た。
ちょうどここの所が芥川さんのおでこの感じ。
なるほど。
その形を選ばれたんですね。
すごく銅の板は薄くて1mmぐらいなんです。
本当にもう少し深く彫ってらっしゃるかと思ったら繊細な線なんですね。
そうなんです。
ちょっと手に取って。
割と軽くて。
貴重な物を。
すごいですね。
手元が狂うって事はないんですか?彫る時。
狂っててもいい。
別に芥川龍之介さんの写真みたいに似せようなんて思ってません。
なるほど。
つき過ぎでもよくないですよね。
俳句と同じですね。
説明し過ぎもよくない。
そうですね。
何もかも彫り込んじゃいけないと?いけない。
ちょっとさっきおっしゃってた風が吹いているような形がいいとかいろんな批評な言葉がありましたよね詰め込んでないって。
あれもすごく勉強になりました。
いえいえ。
こちらも勉強になりました。
そういう意味では俳句もますます何か今面白く感じてらっしゃる?面白いですね。
何か自分自身を知るというか自分が今ここにいて櫂さんのご本読んだら自分がここにいてこれを見たんだという何か記録になるところがとても気に入ってます。
さあテレビをご覧の方もそういう思いでまた作って頂きたいんですが。
今度は投稿のご案内をここでしたいと思います。
こちらです。
さあそしてここで兼題は「蠅捕」なんですが実は?「蠅捕リボン」を詠んでもいいしあるいは「蠅叩」でもいいですし。
懐かしい物ばかり。
お手元に?ここには蠅捕リボンがありますけれども。
なんとあのリボンがまるでフィルムのようになってるんですけどもね。
これ実は私たち持っていまして開けてみましょうか。
これぐっと引っ張れば出てくるんですね?そうです。
これがですね…。
12の…。
ゆっくりいきますよ。
12の3。
うわっ出ない。
取れた。
取れちゃった。
相当硬いですね。
リボンが…。
出た。
出てきました?お上手!さすが櫂先生よくあれですね。
プロですから。
これ出てこない。
何か回してらっしゃいますけど。
こういう物?何かぶきっちょですね。
皆さんこちらの先生のお二人の見て下さい。
何か子どもの頃これが掛かってたな。
ぶらんぶらんと。
魚屋さんの軒先か何かに掛かって。
ありました。
魚屋さんと八百屋さんですね。
ご年配の方懐かしいなと思われる方も多いと思いますし。
それで若い方は初めて見たという方もいらっしゃるかもしれませんけども。
この「蠅捕」櫂先生の次回の兼題でございますのでどうぞお寄せ頂きたいと思います。
お上手!なんてうまいんでしょう私。
なんてうまい。
ありがとうございました。
ぐるぐるになっちゃった。
(きてき)2014/05/18(日) 06:35〜07:00
NHKEテレ1大阪
NHK俳句 題「薬(くす)玉」[字]

選者は櫂未知子さん。ゲストは銅版画家の山本容子さん。二年前から俳句の勉強をしているという山本さん。俳句も版画も枠の中に何を描くかが大事。構成力が問われるという。

詳細情報
番組内容
選者は櫂未知子さん。ゲストは銅版画家の山本容子さん。二年前から俳句の勉強をしているという山本さん。俳句も版画も枠の中に何を描くかが大事。構成力が問われるという。題「薬玉」【司会】桜井洋子アナウンサー
出演者
【出演】山本容子,櫂未知子,【司会】桜井洋子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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