「ファミコンでしか」って言ってなかったですか?好きな球団探してたんですよ。
お前やらしい。
お前はやらしい。
(語り:吉岡秀隆)
この海にはただ驚かされる
知床羅臼
壮大でミステリアスな海
羅臼は知床半島の東側にある漁師町だ
北方領土の国後島まで26km
島はすぐ目の前に見える
羅臼の海は季節によってまるっきり表情を変える
夏にはクジラが赤道を越えてやって来る
そして冬はシベリアから来た流氷に覆われる
年間の水温差は20℃以上
こんな海は地球上に二つとない
羅臼の海に暮らす生き物たちも個性派ぞろいだ
『カイダコ』はタコの一種
足から石灰質を分泌して貝のような殻を作る
その殻に空気を取り込んで水中を進んでいく
丸い体の『ナメダンゴ』は魚のくせに泳ぐのが苦手
それでも生きていけるのは敵の目をあざむく擬態の術にたけているからだ
ウニの前では自分もウニになる
カニの前に立ちはだかったのは『カンザシゴカイ』
その特徴は…
まるで縁日で売られているおもちゃの笛
カニはこいつが大の苦手だ
この海には大きな謎もあった
秋から冬に差し掛かるころ死んだ魚が浜に打ち上がる
一般的に「死滅回遊」っていう言葉がありますけれども。
「死滅回遊」
その謎解きに世界で初めて挑んだ
イカ!イカ!
その挑戦は…
上げて!上げて!
意外な結末を迎えた
3月
海底の流氷が崩れ始めた
海草の若葉が波に揺れる
羅臼の海も春の兆しを見せ始めた
この海を毎日のように写真に撮り続けるダイバーがいる
幸せだな〜ハハハっ!!
羅臼在住の関勝則さんだ
関さんがこの日撮影したのは『ラウスカジカ』
体長わずか数cm
カメラのレンズが巨大に見える
『ラウスカジカ』は学名を『sekii』という
2006年に関さんがこの海で発見した新種のカジカだ
このイカも関さんが発見した
毎年5月ごろ深海から上がって来る
初めて見つけたのは25年も前のことだ
ドレスのような黒っぽい袋を引きずり2mはあるように見えた
関さんはイカの写真を専門家に送って見解を求めた
しかし…
…くっついているんじゃないかみたいなことをね。
その2年後奥谷教授はビデオで見直してがくぜんとする
皮膚だと思った袋からたくさんの子どもが飛び出してきたからだ
それまで世界中の研究者がイカは卵を海の中に産みっぱなしにすると考えていた
羅臼のイカは学会の常識を覆した
世界で初めて確認された「子育てをするイカ」
科学誌がこぞって取り上げた
おととしDNAの調査によりオホーツク海や北太平洋の深海にすむ『ササキテカギイカ』と判明した
『ササキテカギイカ』の母親は習性として産卵期に入ると餌を取らなくなる
衰弱した体で子どもが育ちやすい浅瀬へと上がって来る
ふ化を促すためにそうするのか力尽きるまで卵を水中で振り続ける
そして…
全ての卵がかえるのを見届けた後母親は生涯を閉じ海底の一部になる
6月
初夏を迎えた羅臼の町で祭りが開催される
(掛け声)
(花火の音)
夜空の花火を見上げることもなく関さんは海の中にいた
カレイが星空の中を飛んでいるように見えた
知床半島は今からおよそ100万年前千島列島とともに海から隆起したと考えられている
火山が作り出した急峻な地形
それはそのまま海の底へと落ち込んでいる
羅臼の海は水深2000mにも達する
ところが南の海域ではわずか30mと極端に浅くなる
魚がたまりやすい独特の海底地形で「天然の定置網」と呼ぶ学者もいる
動物たちにとっては格好の餌場だ
『ミズナギドリ』の大群が南半球のタスマニアからはるばる渡って来る
羅臼の海の夏の主役は『マッコウクジラ』だ
南太平洋からここまでやって来るのは若いオス
母親から離れ大人になるための一人旅だと言われている
夏の羅臼は野生の楽園
海底でホタテのダンスが始まった
その訳は…
知床羅臼の海は秋を迎えた
潜ってきたのは海を楽しむダイバーではない
海底をはうように進み1枚1枚拾い集めていくのはホタテ
全国でも珍しいホタテの潜水漁だ
ホタテも海底も傷つけない実にシンプルな漁だが獲る漁師は大変だ
動きをやめると砂ぼこりでホタテが見えなくなってしまうためひたすら前へ進み続ける
それでもホタテがもしもこんな状態だったら獲るのはもっと大変なはずだ
夏のホタテは海底を飛び跳ねることがある
その理由の多くは…天敵のヒトデ
ホタテは命懸けで逃げる
ホタテは水温が下がると動きが鈍くなる
この漁が秋に行われる理由だ
天然の風味はホタテが羅臼の海で懸命に生きた証し
秋の羅臼の海にはサンマやイワシが回遊してくる
冬が来る前に南の海へ帰るはずの魚たちだ
その回遊魚が知床では時として悲劇に見舞われる
8年前知床半島の西側ウトロの浜辺に死んだサンマが信じられないほど大量に打ち上がった
カモメや『ヒグマ』さらには人間まで集まってきた
あたかも天変地異をイメージさせるこの怪現象はニュースにも取り上げられた
これほど大量なことは珍しいがこの現象自体は羅臼の海で時々見られる
…現象なんだと思いますね。
知床の海に詳しい『北海道大学』の桜井教授は魚が回遊先で死ぬ現象をこう説明する
一般的に「死滅回遊」っていう言葉がありますけれども一部は多分そうだと思いますね。
イカは秋の羅臼を代表する海産物だがそのふるさとは温かな東シナ海だ
桜井教授は漁の網をくぐり抜けたイカも結局はこの海で死滅すると推測している
東シナ海で春に生まれたイカは快適な水温を求めて夏は北上
秋には南下してふるさとの海で卵を産む
しかし羅臼に回遊してきたイカはこの海から出られなくなると教授は言う
実験によればイカは水温が12℃になると動きが鈍くなる
羅臼の秋の半ばの水温だ
イカが冷たくなった水から逃れようとしても周りの海は内海の羅臼より先に水温が下がる
もっと冷たい水がイカを待ち受けている
結局イカは羅臼の海に閉じ込められたまま弱っていく
イカを獲る定置網の中
漁業者の許可を得て羅臼のダイバー関さんが入った
おびただしい数のイカが窮屈そうに泳いでいた
関さんは瞬く間に囲まれてしまった
わずか1日でこんなに網に掛かるのだ
羅臼へのイカの回遊がどれほど大規模なものかが分かる
イカの「死滅回遊」は知床の生態系にとっても重要な意味を持つと桜井教授は言う
そういう物をもたらしてくれると。
桜井教授の後輩でイカを研究する山本先生
あるプロジェクトを進めていた
12月半ば山本先生が羅臼にやって来た
とんでもない物を持ってきた
狙うのは海底に敷き詰められた「イカのじゅうたん」
冬に差し掛かった羅臼の海で世界で初めての調査が始まろうとしていた
『北海道大学』の山本先生がイカの「死滅回遊」の謎解きに挑む
羅臼の海底には水温の低下で死んだイカが「じゅうたん」を敷き詰めたように沈んでいるはず
その仮説を実証する
鍵を握るのがこのロボットカメラだ
羅臼のダイバー関さんにも船に乗ってもらった
海に入るロボットカメラを関さんが撮影する
ロボットの方も撮影する関さんの姿を借りてカメラチェック
リモコン操作にも問題はなさそうだ
ロボットカメラは海底に「イカのじゅうたん」を探しに行った
あぁ〜来た来た来た来た。
最初のポイントは水深72m
25cmの幅を示す緑のレーザー
大きさを確認しながら進む
時々魚もいるが目に付くのは海底のヒトデ
イカの姿は見えない
何より驚いたのが…
(研究員)水温9℃ありますね。
イカが死ぬのは水温4℃か5℃だ
まだ十分泳げる水温。
船を動かし調査ポイントを変えてみる
やはり9℃近くある
冬の海は冷たい空気に触れる表面から冷えていく
中の方が温かいことはよくある
それにしても12月半ばで水温9℃とは予想外の高さだ
細長いひものような物が海底から伸びていた
『ウミエラ』?
(研究員)『ウミエラ』か。
『ウミエラ』はイソギンチャクやサンゴの仲間
海底を移動することもある
ここでも「イカのじゅうたん」は…
移動中関さんからこんな提案があった
外海に近い『知床岬』周辺ならもっと水温が低いはず
しかしそれには問題があった
岬の近くは潮の流れも速いためロボットカメラを入れるのが難しいのだ
ロボット200。
限られた海域の中で数をこなすしかない
3本目は水深を230mまで下げた
何かがいた
…えっ違う?
それはイカではなく…
(研究員)これエビか?全部エビ?
(研究員)全部エビ。
(研究員)全部エビかぁ〜!
(研究員)うわぁすごいエビ!
水温は6.5℃
ここまで深くなるとさすがに下がった
(研究員)…アハハっ!これは大量だべや!半端ないな!
エビに誘われてさらに進んでいくと
(研究員)うわぁ〜!!
(研究員)おっとっとっとっ!!やばい!やばい!やばい!!
(研究員)バックバックバック!!
(山本先生)上げましょう!上げましょう!
(研究員)船長…バック!!
羅臼の海には至る所に漁の網が入っている
調査に影響を及ぼすのは水温や潮の流れだけではなかった
翌日は夜明け前から強い風が吹き荒れていた
海はうねりが高くとても船を出せる状況ではない
実は山本先生にとってこれは期待通りの展開だった
逆にそういう低気圧みたいなそういうイベントがあったら…。
これですね。
前の年の同じ時期羅臼の海水温は急激に下がった
猛烈な低気圧がやって来て海を一気に冷やしたのだ
(テレビの声)週末は真冬日この寒気のために今度は…。
明日も海は荒れ気温もさらに下がる
山本先生は1週間後に大学で講義がある
その時学生たちに今回の調査のことを話したいという
…っていうような話もしたいなと思います。
冷たい空気が海水を冷やし荒い波が海の中をかき回せば「イカのじゅうたん」がきっと見られる
低気圧が去った後の海
水温は下がっているだろうか
下がっていなかった…
ロボットカメラに映ったのはわずかに『ハッカク』が数尾
あぁ〜…。
ため息ばかりが漏れる
知床羅臼
イカの「死滅回遊」の調査は3日目に思わぬ展開を見せる
イカの研究者のプライドを懸けて山本先生は勝負に出た
300mのケーブルをギリギリまで伸ばしロボットカメラを深みへ下ろしていく
浅い場所は捨て水温が低い深海を重点的に調べることにしたのだ
深くなるに連れて動物プランクトンが大量に映るようになった
こういう場所には他の生き物も集まって来る
(研究員)5℃ぐらいだ!バンバン水温が下がってます!
そして水温も…
初めて5℃台を記録
これまでとは明らかに違う
全員がそう思った
ロボットカメラが海底を捉えた
水深は240m
(研究員)うわっ!岩岩岩!
(研究員)危ない危ない!
岩場にイカが沈んでいないか注意深く調べる
(研究員)うわぁ〜!!
(山本先生)おぉ〜やめて!
またしても大きな岩
知床が太古の火山活動で作られたその証しだ
水温が4℃台まで下がった
その時予期せぬことが起こった
「漏水」!「漏水」って書いてある!!「漏水」って書いてる!
トラブル発生
モニターに表示された「漏水」の文字
ロボットカメラの中に水が入った
全速で海底から引き上げる
(研究員)ロボット200!
全幅の信頼を置いていたロボットカメラのまさかのトラブル
山本先生もショックを隠せない
羅臼の海は「死滅回遊」の謎解きを許してはくれなかった
「イカのじゅうたん」の夢は次回に持ち越しとなった
調査打ち切りの翌日
羅臼を爆弾低気圧が襲った
この日を境に羅臼は一気に冬へと突入した
まだ明け切らない2月の海を一隻の船が進む
トドの観光船
運航して2年目になる
野田克也さんの本業はサケを獲る漁師だ
トドは羅臼の海を通って北の千島と南の太平洋を季節ごとに移動する
個体数が減少していることから『環境省』の「準絶滅危惧種」に指定されている
しかし羅臼の漁師にとっては網を壊す「海のギャング」だ
被害額が1億円を超える年もある
焼け石に水ではあるが年に10頭前後という取り決めでハンターがトドを仕留める
漁師であるにも関わらずトドを観光客に見せる野田さんに漁師仲間からは批判の声もある
…みたいな感じそういうこともあります。
…みたいな感じでこっちはやっていますけどね。
この日海にトドの姿がない
ようやく見つけたかと思えばどんどん逃げていく
野田さんが誰かに電話を掛けた
電話の相手はトド撃ちのハンター
本業は野田さんと同じサケの漁師だ
…分かりましたはい。
野田さんは時々こうしてハンターと情報を交換する
でもね情報はお互いに。
トドを探し回っていた野田さんがある光景に目を留めた
船を近付けると…
キツネが獲物を奪い合っている
トドだ
恐らく銃で撃たれて手負いとなったトドが死んだ後波に運ばれたのだろう
漁師にとってトドは撃っても仕方のない憎い敵
しかし観光船から間近に見ればトドを哀れにも思う
野田さんが戻るのを待ってトド撃ちのハンターが船を出す
何とも言いようのない港の光景
野生の保護と人の暮らし
羅臼の海の永遠のテーマだ
羅臼の沖に今年初めて流氷が観測された
羅臼で暮らす人は年に一度まだ夢の途中にいるような不思議な朝を迎える
海があったはずの場所が白い陸地に変わっている
今年もこの海に流氷がやって来た
幾重にも重なった流氷の下でダイバーたちがカメラを構えていた
長く下がった氷は象の鼻のように見える
空に浮かぶ雲のような氷もあった
どんな芸術家も思いつきそうにない氷のオブジェ
その一つひとつを鑑賞するかのようにアザラシがゆっくりと泳いでいく
そしてアザラシに気を取られていたダイバーの横をクリオネが通過していく
案内役の関さんが書いた
「絶賛食事中」
そこでは人間にとってのごちそうが彼らのごちそうを頬張っていた
ごちそうにありつきたいのは海の生き物だけではなかった
『シノリガモ』が魚を狙って水中に潜ってきた
何というツワモノだろう
(流氷がこすれ合う音)
沖の方から聞こえてきたのは流氷がこすれ合う音
(流氷がこすれ合う音)
泣いているようにも聞こえる
(流氷がこすれ合う音)
流氷の動きはひどく気まぐれで海底の昆布を削り取ってしまうこともある
時には小船の上でウニを獲る漁師の命さえ脅かす
…実際に。
この男性も漁の船に流氷が猛スピードで迫ってきて肝を冷やしたことがある
危険で迷惑な氷だが一方では大きな恵みももたらしてくれる
流氷が大陸から運んでくるプランクトンは海を豊かにしその海で絶品のウニが育つ
人間も海に生かされている
だから自然と折り合いをつけながら羅臼の人たちは暮らす
羅臼の冬の海を漂う『キタユウレイクラゲ』
この優美な姿に「ユウレイ」は失礼だろうと関さんは「氷の貴婦人」と呼ぶ
流氷の下では珍しいクラゲに次々と遭遇する
その一方で不思議なのは魚の姿をほとんど見ないことだ
この海で暮らす魚たちはどこに行ってしまったのだろう?
その答えを知る人物を訪ねた
こんにちは。
『北海道大学』の山本先生が見せてくれたのはちょっと信じられない映像だった
流氷の下で魚の姿が見えないのはなぜなのか?
山本先生が貴重な映像を見せてくれた
もうすごい群れですよね。
ロボットカメラが捉えた羅臼の海底
水深300m付近にホッケが群がっていた
ホッケは春を待っていた
流氷のある浅い場所は氷点下の水温
海底の方が多少は温かい
羅臼で暮らす魚の多くは海底に潜りひたすら春を待つ
流氷の海を生き抜く魚たちの知恵だ
今年の流氷は4月の末になっても羅臼の海を離れなかった
「まぁこんな年もある」と漁師たちは苦笑いだ
それでもホッケが少しずつ網に掛かるようになった
海底から動き始めたようだ
季節は確実に巡っている
春だ
こいのぼりが風にたなびく
子どもの成長を願うのは人間だけではない
栄養豊かな羅臼の海で卵をかえすためにあの大きなイカがオホーツクの深海からそろそろ上がってくるころだ
2014/05/18(日) 14:00〜14:54
MBS毎日放送
季節の海“RAUSU”[字]【謎の現象“死滅回遊”四季が生む感動ドラマ】
夏はクジラ、冬は流氷。知床・羅臼の海は季節によって大きく表情を変える。死んだサンマが打ち上がる「死滅回遊」という現象も起きる。その謎を世界で初めて解き明かす。
詳細情報
番組内容
夏と冬の水温差は、実に20度以上。こんな海は世界に二つとない。知床・羅臼は、「季節の海」だ。晩秋、サンマやイワシなどの回遊魚が死んで浜に打ち上がる「死滅回遊」という現象も起きる。その謎を解き明かすため、ある研究者が世界で初めての調査に乗り出した。最新鋭ロボットカメラが海底でとらえたものは…。これまでテレビが伝えてこなかった、壮大で驚きに満ちた海中の四季を初公開する。圧倒的な映像は必見。
出演者
語り 吉岡秀隆
制作
【製作著作】HBC 北海道放送
◇番組HP
http://www.hbc.co.jp/tv/info/rausu/index.html
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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