NHKスペシャル「流氷“大回転”」 2014.05.18

流氷が漂う海。
北海道…春流氷は解けながら姿を消していきます。
その直後。
世界有数の生きものの楽園がこの海に誕生します。
海を覆い尽くす渡り鳥の大群。
宙を舞う巨大なクジラ。
この時期海の食物連鎖を支える植物プランクトンが大増殖。
これをきっかけに無数の命があふれ出します。
それは生命の大爆発。
一体なぜ流氷の海が突如生きものの楽園へと姿を変えるのか…。
この謎に数多くの研究者が挑んできました。
流氷が生きものにもたらす恵みやこの海の知られざるメカニズム。
その秘密が次第に明らかになる中で今流氷がつくり出す不思議な現象が注目を集めています。
これが…レーダー画像に捉えられた渦を巻く流氷の姿。
人工衛星で撮影された流氷大回転の画像と生命大爆発を引き起こす植物プランクトンの分布を重ね合わせると…。
渦の周りにプランクトンが大増殖していたのです。
命の源プランクトンを育む流氷大回転。
しかしその姿がテレビカメラに捉えられた事は一度もありません。
その存在さえ知られていない幻の現象です。
(プロペラエンジンの音)この冬研究者たちと探索チームを組みその姿に迫る事にしました。
上空3,000mから300kmにもわたる広大な海域を探索。
海からも迫ります。
海上保安庁の協力を得て氷の海へと船を進めます。
探索を続ける中で豊かな海を生み出す意外な事実も浮かび上がってきました。
そしてついに捉えた幻の姿。
あれか。
Thatone?Yeahyeah.Ohyeah.こりゃすごいよ。
世界有数の豊かな海。
その謎に迫る氷の海の大冒険が始まります。
海上保安庁の飛行機がオホーツク海を目指し飛び立っていきました。
今年初めての流氷観測です。
乗っているのは専門の観測員たち。
流氷の動きを把握し海の安全に役立てていきます。
紋別市の沖合およそ15km。
こちらのスジに向け現在高度を下ろしてまいります。
雲の切れ間から現れた白いスジ。
流氷です。
一面にシャーベット状の氷が広がります。
流氷は例年とほぼ同じペースで北海道に近づいていました。
流氷が生まれるのは1,000km離れた北の海。
アムール川河口の沖合やサハリンです。
そこから季節風や海流に乗り一進一退を繰り返しながら南下していきます。
探索チームが動き出したのは流氷が観測された10日前。
目指したのはオホーツク海を望む高台です。
ここに流氷カメラを設置しました。
いつどこで起こるか分からない大回転。
4台のカメラを使い昼も夜もねらい続けます。
目の前に広がる海に流氷大回転は現れるのでしょうか。
幻の現象流氷大回転。
その姿がレーダーで捉えられていました。
流氷の研究で世界をリードしてきました。
オホーツク海の流氷を沿岸3か所から40年近くにわたり捉え続けてきたレーダーの画像。
世界でもほかに例のない流氷の記録です。
この膨大な記録から大回転を探し出したのが大島慶一郎さんです。
長年流氷の観測を続けてきた大島さん。
流氷が渦を巻くという不思議な現象にいち早く注目していました。
(大島)まさにこれですね。
レーダー画像が捉えた円を描く流氷。
流氷大回転です。
渦の大きさは直径20km以上。
東京23区に匹敵する巨大な現象でした。
発生する頻度や場所も分かってきました。
大回転が起きていたのは年に2〜3回。
場所は沖合20〜30kmの海域でした。
流氷大回転その姿を実際に捉えるための大きな手がかりが見つかったのです。
いよいよ探索の始まりです。
流氷カメラの映像や海上保安庁が毎日更新する流氷の分布図など日々変化する流氷の動きに合わせルートを決めていきます。
紋別雄武枝幸ぐらいまで。
枝幸ぐらいまで行きますか?今日は最初に流氷見たいというのもあるので。
これがどれぐらいまで来てるのか…。
探索の範囲は宗谷岬から知床半島まで。
300kmにわたる広大な海域です。
上空で頼りになるのは自分たちの目だけです。
巨大な現象を捉えるため高度を上げていきます。
待っていたのはオホーツクの厳しい自然でした。
気温は氷点下24度。
いてつく寒さが襲います。
更にこの季節特有の天候が探索を阻みます。
視界を遮っていたのは流氷到来の頃に発生する雪雲です。
この時期急速に冷やされていく陸地に比べ海水温は緩やかに低下します。
この温度差が大量の雲をつくり出すのです。
その動きを流氷カメラが捉えていました。
雪を降らせながら海の上を移動する雲。
オホーツク海沿岸帯状雲と呼ばれます。
大回転が起こると予想していた海域のほとんどが覆い尽くされてしまいました。
結局この日は流氷を見る事さえできませんでした。
雪雲が去った1月20日。
沖合およそ15kmの海に南下を続ける流氷の先端部分が現れました。
うねるように数十kmにわたって続く流氷の道。
まるで海面に白い絵の具を流したように複雑な模様を描いています。
海面に浮かぶ一つ一つの氷の大きさは3mから10mほど。
ふだんは目に見えない風や海の流れを流氷が映し出していました。
海面に複雑な模様を描き出す流氷。
しかし氷の状態は目まぐるしく変化します。
両舷前進15。
両舷前進15度。
去年大回転を探すための準備を進めていた時の事です。
海上保安庁の協力を得て探索を試みていました。
しかし思うようには進みませんでした。
見渡す範囲ですね。
目の前に広がる氷の平原。
数多くの流氷が風や海流に流されているうちにつながって出来たものです。
少し前までは氷と氷に隙間のあった海が僅か数日のうちに埋め尽くされてしまったのです。
刻々と変わる氷の状態。
大回転を撮影するタイミングを見極める事は簡単ではありません。
この日大回転が起こる場所を分析した大島さんにも探索に加わってもらいました。
レーダーに渦が現れていました。
これレーダーですね。
この動きを見てたらもう完全に。
あっ来てますねこれね。
動画で見てもきれいに出てる。
30年近く流氷を研究してきた大島さんも大回転を見た事はありません。
レーダーが渦を捉えていた海域に近づいてきました。
何か見えるね。
何か見えますね。
流氷の先端部分が小さく渦を巻いていました。
渦は一つだけではありませんでした。
直径10kmにも満たない細く小さな渦。
そのどれもが大島さんの分析どおり沖合20km付近で発生していました。
更にもう一つ特徴がありました。
どの渦も反時計回りに円を描いていたのです。
一体なぜいくつもの渦が岸からほぼ同じ距離で発生するのか?そして反時計回りに渦を巻くのか?大島さんはこの海域を流れる暖流が深く関係していると考えています。
大回転をつくり出すという宗谷暖流とはどのような流れなのでしょうか。
対馬暖流によって日本海に注ぎ込まれた大量の海水。
やがて宗谷海峡の狭い出口から一気に放出されます。
この時幅30kmほどの力強い流れ宗谷暖流が生まれます。
その流れは地球の自転などの影響を受け岸に押しつけられるようにして進んでいきます。
こうして宗谷暖流はこの海域を力強く流れるのです。
渦ができる仕組みを実験で確かめてみました。
北海道とサハリンの間から流れ出る宗谷暖流を再現します。
地球の自転にあたる力を加えるため回転させます。
宗谷暖流の動きを見るために青い染料を流してみると…。
勢いよく流れる暖流がそのへりで次々と反時計回りに渦を巻いていったのです。
はるか北からやって来た流氷と南からの暖流の出合いが海に描き出した渦巻き模様。
流氷大回転の姿が明らかになりつつありました。
流氷大回転の起こるこの海でやがて始まる生命の大爆発。
それにしてもなぜ流氷の消えた直後に生きものがあふれ出すのでしょうか。
その謎に迫る調査が進められていました。
調査を行っているのは北海道大学の西岡純さんです。
実は生命大爆発には流氷に含まれる何らかの物質が大きな影響を与えていると考えられてきました。
じゃあ45mまで下ろします。
その物質の正体を西岡さんは明らかにしようとしているのです。
しかし生命大爆発に影響を与える物質を見つけ出すのは容易ではありません。
流氷はほとんど真水と塩分でできています。
それ以外の物質は流氷1kgに僅か1000分の1gほど。
そのため流氷の採取には細心の注意が求められます。
ほかの物質が混じらないように不純物の溶け出さない特殊な手袋や容器を使います。
はいOKです。
こうした作業を積み重ねながら物質の正体を突き止めていくのです。
(暴風雪の音)調査が進められる一方流氷大回転の探索は止まってしまいました。
北から吹きつける季節風。
猛烈な吹雪が襲います。
風に乗って流氷が次々と押し寄せてきました。
日に日に氷の状態が悪化していきます。
ついに流氷が海を埋め尽くしてしまったのです。
こうなると再び氷と氷の隙間ができるのを待つしかありません。
流氷大回転が起こらぬまま3週間が過ぎていました。
(プロペラエンジンの音)2月11日。
この日大島さんの代わりに海外から来た専門家が探索に加わる事になりました。
博士は大島さんの共同研究者で流氷の観測が専門。
世界中の流氷の海を知り尽くしています。
この日冬のオホーツクには珍しい南からの風が吹きました。
その風が海を埋め尽くしていた流氷を押し戻してくれたのです。
氷と氷の間に隙間ができた事で大回転が起こるチャンスが生まれていました。
ちょっと…ああなるほど。
流氷カメラがこの小さな渦ができる一部始終を捉えていました。
氷が回り始めました。
初めて見る渦ができる瞬間です。
沿岸に生まれた直径500mほどの渦。
流氷大回転はこの数十倍の大きさでその姿を現すはずです。
翌日。
この日も晴れ。
風もなく流氷が海の流れを表すには絶好の条件です。
その時です。
どれどれ?あっあれか!Thatone?Yeahyeah.すごいすごい!これ回転してるよ!流氷大回転。
初めて映像で捉えたその姿です。
渦の直径は20km以上。
上空からでは分からないほどのゆっくりとした速度で回転していました。
数限りない流氷が海面に描き出す巨大な渦巻き模様です。
海面に漂う一つ一つの氷が海の流れを映し出していました。
流氷と暖流そしていくつもの条件が重なり合う事で初めて生まれた奇跡の光景です。
驚きはそれだけではありませんでした。
至る所で流氷が渦を巻いていたのです。
その数10個以上。
渦は150kmにわたって連なっていました。
壮大なスケールで現れたこの海の姿。
その底知れぬエネルギーの大きさを流氷が見せてくれた瞬間でした。
流氷渦巻くオホーツクの海。
その下に生命の大爆発を引き起こすどのような秘密があるのでしょうか?大回転が起きた直後。
海上保安庁の船に同乗させてもらい渦が発生した海域へと向かいました。
初めて大回転の海にカメラを沈めます。
流れているのは氷の粒。
水温は氷点下1度を下回ります。
生きものの姿もありました。
冷たい冬の海でも活動を続けるクラゲたちです。
この時期にだけ現れる魚たちがいました。
卵を産むためはるばる深い海の底から上がってきたのです。
卵がふ化するのはまさに海に命があふれ出す頃。
その豊かな恵みを子どもたちが受けられるようタイミングを合わせてやって来ました。
流氷に生命大爆発の兆しが現れていました。
太陽の日ざしを受けて幻想的な光を放つ流氷。
表面が薄く黄緑色を帯びています。
アイスアルジーと呼ばれる流氷に付着した植物プランクトンです。
周りに小さな生きものが群がっていました。
オキアミです。
オキアミも深い海に住む生きもの。
増え始めた植物プランクトンを求めて次々と集まってきたのです。
海の中に現れた生命大爆発の兆し。
流氷に含まれるある物質が影響を与えていると考えられてきました。
その物質の正体を突き止めようとしていた北海道大学の研究チームです。
流氷に含まれる微量な物質を1億分の1gの単位まで分析していきました。
その結果通常の海水にはほとんど含まれない意外な物質が見つかりました。
鉄です。
生命大爆発を引き起こす物質は鉄だと考えられるのです。
最近鉄が植物プランクトンの増殖に重要である事が分かってきました。
これはオホーツク海や太平洋の3か所で調べた海水に含まれる鉄の量です。
夏の間大きな違いはありません。
しかし冬になると流氷が来る海域だけ突出して鉄が多くなっています。
どうして流氷に鉄が含まれるのでしょうか。
鉄のふるさとの一つと考えられているのが…その流域面積はおよそ200万。
鉄はこの広大な大地から集まり海へと運ばれていきます。
普通鉄は沈んでしまいます。
しかしここは流氷の誕生する海。
氷ができる時に浮遊している鉄を内側に閉じ込めるのです。
流氷はやがて北海道までたどりつきます。
流氷がやって来るはるか1,000kmの道のり。
それは鉄を送り届ける旅でもあります。
そして旅の終わり。
生きものに恵みをもたらす鉄を解き放ちながら流氷は渦を巻くのです。
大回転はもう一つ重要な役割を果たしています。
渦の周りに増殖した植物プランクトン。
この増殖に渦が生み出す意外な流れが関係していると考えられ始めています。
渦が生態系に与える影響に注目していた海洋研究開発機構。
4年前北極海を調査中偶然巨大な渦を発見します。
水温や海流の速さから海水の成分まで徹底的に調べました。
その結果この渦が植物プランクトンを飛躍的に増やすという新たな事実が分かったのです。
研究者が考えるメカニズムです。
実は渦はその内側に上への流れを生み出しています。
この流れが植物プランクトンを増殖させます。
沖合の海面付近では窒素やリンといった栄養が不足しています。
植物プランクトンが光合成を行う時に使い果たしてしまうからです。
しかし深い海には栄養が豊富に存在しています。
その栄養が上への流れに乗って巻き上げられていきます。
こうして植物プランクトンは爆発的に増えていくのです。
そういう意味では…日ざしが強まる3月下旬。
海を覆っていた氷は解け流氷の隙間が生まれていました。
再び大回転の探索に向かいます。
雲の向こうに大回転が現れてきました。
流氷が鉄を解き放ち回転が深い海から栄養を巻き上げる。
流氷大回転はこの海の豊かさの秘密をかいま見せてくれたのです。
おお〜大きい!あっこれ大きいよこれ。
すごい大回転。
至る所で巨大な渦が巻くオホーツクの海。
この海が生きものであふれかえる時が迫っていました。
流氷が消えた直後ついに生命大爆発の始まりです。
海を真っ黒に染め上げる水鳥の大群。
南半球から赤道を越えやって来た…競うように飛び込み水中を乱舞。
狙うのはすさまじい数に増えたオキアミです。
鉄と渦がもたらした栄養によって爆発的に増殖した植物プランクトンに群がってきたのです。
深い海からはるばるこの海にやって来ていたあの魚たち。
ふ化したばかりの子どもたちが次々と飛び出していきます。
そこはプランクトンあふれる豊かな海。
その恵みに育まれ子どもたちは成長していきます。
命から命へと流氷と渦のもたらした恵みが受け継がれていきます。
波紋のように広がる生きものの連鎖。
ここは世界有数の豊かな海です。
流氷が描き出す巨大な渦巻き模様。
それはこの海に隠された大いなる力の証しです。
2014/05/18(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「流氷“大回転”」[字]

オホーツク海の沖合で、流氷が数日間かけて「大回転」することがあるという。だが、このスペクタクルを見た者はごくわずか。小型機や砕氷船で巨大現象の全貌に迫る。

詳細情報
番組内容
オホーツク海の沖合で、流氷が数日間かけて「大回転」することがあるという。だが、このスペクタクルを見た者はごくわずか。 番組では、レーダー画像などを手がかりに、小型機や砕氷船、そして沿岸の5か所に定点カメラを設置し、巨大現象の全貌を記録。 さらに、流氷が消えるころに、この海で起こる魚や水鳥、シャチやクジラなど、生き物たちの大集結と「大回転」の関係性のナゾに迫っていく。
出演者
【語り】吉川晃司,首藤奈知子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ニュース/報道 – 報道特番

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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