サイエンスZERO「“地上の星”を手に入れろ!核融合研究最前線」 2014.05.18

誕生から46億年もの間さん然と輝き続けてきた太陽。
その内部では原子核同士がぶつかって別の原子核に生まれ変わりながら膨大なエネルギーを放出しています。
この核融合を人工的に実現し発電に役立てたい。
そんな壮大な夢にかのノーベル賞物理学者湯川秀樹以来多くの科学者たちが挑み続けてきました。
しかしその実現は大変!太陽の内部のような超高温高圧状態が必要なため核融合を起こせる条件を維持できるのはこれまで僅か数秒ほど。
これじゃ発電なんてとても無理!ところが最近研究が目覚ましく発展。
去年12月には48分間にわたって核融合を起こせる状態を持続させる事に成功したんです。
核融合発電の実用化を目指して民間企業も次々参入!今年3月にはなんと13歳の中学生が手作りの装置で核融合を実現したというニュースも!一体どういう事?今日の「サイエンスZERO」は知られざる核融合研究の最前線に大潜入!人類はついに“地上の星”を手に入れられるのか?
(テーマ曲)今日のテーマは核融合。
「ZERO」でも初めて取り上げるテーマですよね。
奈央ちゃん核融合って知ってました?今回実は実験施設に取材に行ってきたんですよ。
ただ正直核融合ってどんな事が起きてるのかよく分かんないんですよね。
核融合とは何なのか分かりやすくお見せしましょう。
お願いします。
ここに取り出したのが原子核です。
2つあります。
しかし太陽の内部のような超高温超高圧の世界では…。
う〜ん…ど〜ん!あっぶつかった。
(竹内)ん?ん?ん?う〜んと。
大きくなった!
(竹内)これ全く別の物質です。
これが核融合なんですね。
ほう〜!
(竹内)不思議な事にですね合体する前の2つの原子核と重さを比べてみると…。
これをこっちに置きましょうか。
これは合体後。
あらっ!え〜軽いんだ。
(竹内)そう。
軽くなっちゃうんですよ。
え〜っ!ほう〜!
(竹内)そのエネルギーを使ってお湯を沸かします。
そしてそこから出てきた蒸気でタービンを回して発電しようというのが核融合発電なんですね。
なるほど〜。
じゃあ火力や原子力の代わりに核融合のエネルギーで発電できるかも?そういう事なんです。
実はですね日本を含む世界34か国が共同でITERという実験炉をフランスに建設中なんですね。
2020年に完成する事を目指しています。
そこで核融合エネルギーによる発電を実証する事を目標にしているという事なんですね。
へえ〜。
すごいホットな分野だったんですね。
だけど今ある原子力発電と核融合発電ってどう違うんですか?原子力発電というのはあれは核分裂を利用するんですね。
例えばウランみたいな重い元素。
これが壊れてより軽い元素になる現象なんですよ。
核分裂というのは重い元素を持ってくれば比較的簡単に起きるんですね。
しかし…という事で人工的に起こすのが難しい。
だからまだ実用化に至ってないんですよ。
だけど実は私今回その核融合を人間の手で起こすための実験をしている最新の施設に取材してきたんですよ。
是非ご覧下さい。
世界でもトップクラスの核融合研究が行われています。
ちょっと早速行ってみたいと思います。
失礼します。
大きな体育館ほどの空間にひしめく巨大な装置。
中央の部分に超高温状態を生み出す実験炉が収められています。
こんにちは。
こんにちは。
南沢奈央です。
よろしくお願いします。
案内して下さるのは研究チームのリーダー…えっ?炉の中に入れるの?実はこの日はちょうど内部の点検中。
そこで特別に撮影を許可して頂きました。
通路を抜けていよいよ…秘密基地ですね本当に。
本当どこに行くんだろうって感じですね。
このトンネルのような空間がまさに核融合を起こす心臓部。
周囲は複雑にうねった金属の壁で覆われています。
まるでSF映画みたい!外から見るとこんな感じ。
直径14mほどのねじれたドーナツ状になっています。
奈央ちゃんが歩いているのはそのドーナツの内部。
壁に取り付けられたこの装置から強力な電磁波を発生させ電子レンジのように炉の内部を加熱します。
プラズマとは超高温によって原子核とその周りを回る電子がバラバラになった状態の事。
プラズマ化した水素は炉の内部をランダムに激しく飛び交います。
しかしそのままだと周囲の壁にぶつかってエネルギーを失ってしまいます。
これでは核融合は起こせません。
それを防ぐ仕組みがこの奇妙な形の壁に隠されています。
実は中にリニアモーターカーにも使われる強力な磁場を発する超電導コイルが組み込まれているんです。
プラズマ化した水素は磁力線に絡みつく性質があります。
この装置ではらせん状のコイルによってねじれながら走る磁力線を幾重にも作り出します。
プラズマはいわばこの磁力線のカゴによって閉じ込められるため壁に当たらずに動き回るのです。
ここで更に加熱し水素を秒速1,400kmものスピードに加速すると飛び回る水素同士が正面衝突し核融合が起きるという仕組みです。
去年12月炉内に水素ガスを入れ温度を限界まで上げる試験が行われました。
その時の映像です。
炉の壁面の少し内側が青白く光り始めました!水素がプラズマ化した証拠です。
この光っている部分より内側に9,400万度にも達する超高温の水素プラズマが出来ている事が確認されました。
これまでの実験で核融合が起こせる超高温の状態を48分間持続させる世界記録を達成しています。
多くの科学者が夢みてきた核融合発電。
その実現に向けた大きな一歩が記されたのです。
これSF映画だったらあのらせんの奥から何か出てくるんですよね。
そうです。
本当に異空間でしたね。
重水素を使うんですか。
普通の水素だと原子核というのは陽子が1個だけなんですよ。
ところが重水素になると水素の同位体で原子核が陽子1個に中性子1個がついて計2個なんですね。
なので原子核が大きくて重いので核融合が起きやすいと。
なるほど。
でももう安定して核融合が起こせる環境は作れてるんですもんね。
いよいよ核融合発電も夢が近づいてきましたね。
さあ核融合発電はどこまで実現に近づいているのか専門家のゲストに伺いましょう。
京都大学エネルギー理工学研究所の岸本泰明さんです。
ずばり核融合発電実現までどれぐらいのレベルに来てるんですか?大体6合目とか7合目まで来たというところでしょうか。
超高温で高圧のプラズマを作る磁場の籠を作るそれに成功して初めて到達したところです。
もし完成したら今ある発電に取って代わるぐらいのものですか?それを切に願っています。
海水は世界にたくさんありますので…すごい。
核融合発電は今ある原子力発電のようなリスクというのはないんですか?三重水素は放射性物質ですのでやはり取り扱いには最大の注意を払って行う必要があります。
でも日本には十分な技術研究の蓄積があって十分可能であるというように考えています。
またですね核融合というのは1億度を超えるような太陽の内部のような状態を作らないといけません。
このような高温高圧状態というのは少しでもバランスが崩れたり少しでも綻びが生じると穴を開けた風船のようにしぼんで無くなってしまう。
従ってすぐに反応が止まってしまうという事になります。
その分リスクは少ないと。
仮に核融合発電ができたとして効率よくエネルギーを取り出す事はできるんですか?やっと私たちはたどりつく事ができました。
これでは発電が無理な訳です。
先ほどご紹介のあったITERでは当面は実際の核融合反応を起こして10倍ぐらいのエネルギーを取り出す。
そのような計画を考えています。
さてここまでは磁場閉じ込めによる核融合を見てきました。
実はですねこれとは全く違った方法の核融合が注目を集めているんです。
それがこちらです。
おお〜っ!「レーザー核融合」?レーザーって光ですよね。
そうです。
それでどうやって核融合を…。
レーザーを使って核融合発電!そんなユニークな研究を行っているのは意外にも民間の光学機器メーカーです。
一体どうやって光で核融合を起こすんでしょうか?こちらがその核融合炉。
直径80cmほどの円筒形でかなりコンパクトです。
炉の上部から燃料にあたるものを落としそこに左右から強いレーザー光線をあてます。
すると炉の中心部で核融合が起きるっていうんです。
気になる燃料がこちら。
直径3mmほどの透明なカプセルです。
レーザーが命中するとカプセルの表面が高温で爆発しカプセル内の重水素を一瞬にして押し潰します。
この時核融合が起こるのです。
それでは実際に核融合を起こして頂きましょう!炉の中の様子です。
上から燃料カプセルを連続して落とし画面中央でレーザーを命中させます。
あっ光った!カプセルが落とされる度に核融合反応が起きているんです。
実は従来のレーザーは1回撃っただけで発射装置が高温になるため連続して撃つ事はできませんでした。
そこでこの企業ではレーザー溶接機の開発で培った技術を生かし熱を出さない新たなレーザーを開発しました。
それがこの…LED照明のように熱は僅かしか発生しません。
更に燃料カプセルを簡単に生産する方法も工夫しました。
中心の細い管からは重水素ガスその周囲からは液体状の樹脂を送り出しシャボン玉を膨らませる要領で重水素が詰まったカプセルを次々と作り出します。
この会社では現在複数の企業と共同で核融合プラントを建造し発電の実現に向けた研究を行う計画です。
現状ではまだ半導体レーザーのパワーが弱くカプセル内の重水素の1%以下しか核融合を起こせません。
そこで更にレーザーの出力を上げ核融合の効率を高める研究に挑んでいます。
へえ〜あんなにコンパクトな装置でも核融合が起こせるんですね。
そのような学術基盤をベースにこれはレーザー核融合も夢ではないという事で民間企業も着手するほどになったという事かと思います。
レーザー核融合でも発電というのはできそうなんですか?決して簡単ではないんですけど最近ではアメリカのローレンス・リバモア研究所で非常に大きなレーザー核融合装置を作りまして投入するレーザーのエネルギーと核融合反応で出てくるエネルギーがひとしくなるような核融合反応を起こそうという事で研究を進めているところです。
このレーザー方式にはどんな課題がありますか?まずは1回の照射によって多くの核融合エネルギーを取り出す事に成功する必要があります。
現状ではまだ取り出せるエネルギーが少ない状況です。
この効率を格段に上げる研究が進められていますので今後期待されると思います。
僕の学生の頃は夢のエネルギーというふうにいわれてたんですけども手が届きそうになってるというのがすごいですよね。
さあこれまでは核融合による発電の最新の研究を見てきました。
実は今その磁場閉じ込めでもレーザーでもないもう一つの核融合を起こす方法が話題になってるんです。
えっ?もう一つの方法ですか?今年3月世界最年少で核融合炉を作ったとニュースで報じられたのがイギリスの…インターネットで専門家に教えを請いながら自分で作ったという核融合炉がこちら!金属パイプの中には重水素ガスが詰まっています。
そしてそこに差し込まれているのがこんなコイルのような形の電極。
電極に強い電圧をかけると周りの重水素がプラズマ化しプラスの電気を帯びます。
一方の電極はマイナスの電気を帯びているため重水素は電極に引き寄せられ電極の周りを行ったり来たり。
すると電極の中心付近で衝突し核融合が起こるっていうんです。
本当なの?え〜?本当ですかね?核融合って極限技術の結晶のはずでしょ?そうですよ。
苦労してますよ。
13歳の子どもがねチョコチョコって作れるもんなんですかね?本当に核融合が起きたのかどうかきちんと科学的に検証しないと何とも言えません。
ただこの少年が使った方法というのは昔から世界的にも研究されてきた慣性静電閉じ込め核融合というものではないかと思います。
そうなんですね。
でもこんな簡単な仕組みで核融合って起こるんですか?研究者がこの方式で実験をしたところ確かに核融合が起きた時に観測される中性子が捉えられています。
この方法でも核融合が起こせるという事は間違いないと。
ふ〜ん。
中性子が放出される…。
重水素というのは原子核が陽子1個と中性子1個の計2個って言いましたよね。
重水素同士がぶつかって核融合を起こした時には中性子が1個放出されるんですよ。
なるほど。
でもこんなお手軽な核融合で発電なんてできるんですか?非常に小さい装置である事からも分かるように発電にそれが使えるというようには今のところ考えていません。
そうなんだ。
ちょっと残念ですね。
でもね奈央さん。
この方式の核融合は発電ではない別の使いみちが実は期待されているんです。
別の使いみち?核融合を発電以外に役立てようと取り組んでいるのは京都大学。
増田開さんは15年前から当時はまだ謎に包まれていた慣性静電閉じ込め核融合を研究してきました。
こちらがその核融合装置。
ジェイミー君の装置と同じように中に電極が入っています。
それがこちら。
まるで地球儀のような丸い籠状の形をしています。
やはり電極の中心付近で重水素同士がぶつかり核融合反応を起こします。
増田さんはこの時放出される…それはなんとこんな貨物コンテナの中身を調べる検査装置!実は中性子が物にぶつかるとその物質を構成する元素によって特有の波長の電磁波が発生します。
それを捉えれば何の元素で出来ているかを当てる事ができるんです。
この性質を利用して隠された爆発物などを見つけ出そうというアイデア。
これは土の中に埋められた地雷を探り当てる実験です。
本物の火薬を土の中に埋めて…。
それを核融合装置の下に置きます。
核融合を起こして中性子を発生させ真下の土から戻ってくる電磁波を検出します。
捉えられた電磁波の波長ごとの強さです。
土だけしかない場合はこんなグラフになります。
そこに爆発物があるとある波長の電磁波だけが強くなりました。
火薬に多く含まれる窒素から放出された電磁波です。
こうして見事地雷の探知に成功!この技術を使って現在国からの依頼を受け港に運び込まれる大量のコンテナを検査する装置を開発しています。
へえ核融合を使って荷物検査。
想像もしてなかったです。
こんな爆発物って本当に分かるんですね。
今回増田さんが実際に使っていらっしゃいます核融合装置お借りしてきました。
結構小さいですね。
この中にこの電極が入ってるんですよ。
これ何かかわいいですよね。
確かに。
中性子って今後ほかの使いみちも考えられてるんですか?例えば…大変利用価値が大きいと。
核融合ってこんなにいろんな事に利用できるってちょっと初めて知ったんですけど。
一番期待するのはやっぱり核融合発電なんですよね。
まさに極限技術なんですね。
当然これを達成するというのは容易な事ではありません。
でも私たちは30年を上回る研究によってプラズマの制御手法を獲得する事ができました。
2020年に完成を目指しているITERでは是非成功させたい。
これが核融合研究者の願いという訳です。
岸本さんどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2014/05/18(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「“地上の星”を手に入れろ!核融合研究最前線」[字]

燃えさかる太陽のエネルギー源、「核融合」。星の内部の超高温・高圧で原子核同士が合体し、強烈なエネルギーを放つこの現象を、地上で実現しようとする最新研究に迫る!

詳細情報
番組内容
燃えさかる太陽のエネルギー源は、太陽内部で起きている「核融合」反応。超高温・高圧下で原子核どうしが激しく衝突・合体し、強烈なエネルギーを放つ現象を、なんと地上で実現させて発電などに利用しようという壮大な研究が急速に進みつつある。これまでごく短時間しか持続させられなかった核融合反応を安定的に持続させる方法が見えてきているのだ。なんと手作りの装置で核融合に成功する中学生まで!?驚きの最新研究に迫る。
出演者
【ゲスト】京都大学エネルギー理工学研究所所長…岸本泰明,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】中山凖之助

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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