毛むくじゃらの足。
物陰に潜み牙を生やし毒がある。
そんな不気味なイメージに包まれた生き物がいます。
そうクモです。
実はクモは驚くほど不思議な能力を備えた生き物なのです。
(エリザベス・ジェイコブ)並外れた視覚を利用して獲物に忍び寄る様子はまるでネズミを狙うネコのようです。
(クリス・ホランド)クモは体内に何回も網を張れるほどの糸を蓄えています。
(ロバート・スーター)吐き出した糸がすぐに収縮し獲物は身動きがとれなくなります。
(エリアス)メスはとても攻撃的で交尾のためにやって来たオスでさえも餌にする事があります。
ダーウィンは生物の種が生き残るための鍵は環境への適応能力にあると主張しました。
身の回りのどこにでも潜むクモは適応の天才です。
これまでに世界で4万種以上のクモが確認されています。
絶海の孤島から人家の庭先までクモはあらゆる環境に適応してきました。
クモを見つけるにはそんなに遠くへ出かける必要はありません。
目を凝らして家の中を見回してみて下さい。
クモは環境に適応する事で進化し今も増え続けています。
新種のクモを識別できるクモ学者は世界に数えるほどしかいません。
その一人がクリスティーヌ・ロラール博士です。
博士はフランス国立自然史博物館で所蔵する膨大なクモのコレクションの責任者で世界にはまだ発見されていないクモが何万種もいると考えています。
このような草むらには1m^2当たりおよそ200匹ものクモが住んでいます。
ものすごい数でしょう。
でもほとんどのクモは小さくて目にはつきません。
世界にはまだ発見されていないクモがたくさんいるでしょう。
私は新種のクモを探し出しそうしたクモが持つ興味深い生態を明らかにしていきたいんです。
無数の小さなクモたちは一体どうやって世界中に広がっていったのでしょうか。
小さいクモは気流に乗って運ばれます。
空中を浮遊して遠くへ散らばっていくのです。
お尻から細い糸を出しほんの僅かな上昇気流を捉えて舞い上がります。
そうやってクモは南極や北極を除く全ての大陸に分布していったのです。
全ては風任せ。
中には数千kmにも及ぶ大旅行をするクモもいます。
高度4,000m以上の空中で採取されたクモもいます。
新天地にたどりつくまでクモは風と共に漂い続けるのです。
ロラール博士はこうした偶然の旅行者を見逃すまいと常に目を光らせています。
(ロラール)クモが見つかるのはこうした木の幹や樹皮の下枝の間葉の陰更には木のてっぺんにもいます。
クモが長い間生き残ってこられたのはこの驚くべき適応能力と更には進化の過程で得たもう一つのすばらしい能力のおかげなのです。
それは糸です。
クモは糸という丈夫な道具を自分の体で作りながら卵を守ったり獲物を捕らえたりしています。
イギリスオックスフォード大学のクリス・ホランド博士はクモの糸というすばらしい素材の秘密を解き明かそうとしています。
研究室で飼っているのはジョロウグモの一種。
獲物を取るための巨大な網を張る事で知られています。
また底知れない食欲の持ち主でもあります。
(ホランド)ここにいるクモたちは草食性ではありません。
大好物の餌はハエなのでこんなふうにして餌を与えます。
クモの糸は驚くべき素材です。
網はクモの体重を支えるだけでなく高速で飛び込んでくる虫の衝撃を全て吸収できるよう設計されています。
人の髪の毛の僅かの細さの糸でどんな合成繊維より強くてしなやかな構造物を作り上げるのです。
クモの糸を素材として研究するためにホランド博士はクモを傷つけないように固定し体内から糸を引き出します。
糸は一度に30mの長さに達する場合もあります。
(ホランド)クモは巣を作る材料を全て自前で調達できます。
他の動物例えば鳥は小枝などを探してこなくてはなりません。
しかしクモにはそのような必要はありません。
クモは体内に何回も網を張れるほどの糸を蓄えています。
クモの体内にある紡がれる前の糸はドロドロのたんぱく質の状態で存在しています。
このたんぱく質は体外に押し出される際一瞬のうちに変質ししなやかな固体の糸になります。
糸は2種類のたんぱく質から成り整然と並んだ繊維状の部分が強さをそれ以外の部分が伸縮性をもたらしています。
同じ重さで比べればクモの糸は鋼鉄よりも硬く丈夫なのです。
クモは複数の糸腺を持っていて異なる性質の糸を作り出す事ができます。
必要に応じて出す糸の強度や本数太さなどを変えられるのです。
性質の違う糸を使い分けながらクモは複雑で緻密な網を張ります。
まず全体の基礎となる構造を築きます。
この時に使われるのは最も強度の高い糸です。
次に中心から螺旋状に仮の骨組みを張ります。
このあとクモは紡ぎ出す糸の性質を変えネバネバした伸縮性に富んだ糸で外から中心へと横糸を張っていくのです。
要らなくなった仮の糸は食べてしまいます。
電子顕微鏡で見た横糸には粘液の小さな滴が連なっています。
これらが獲物を捕らえる罠となるのです。
ではクモはなぜ自分の網に捕らわれないのでしょうか。
クモの足の先端はロウのような物質で覆われているからだとも言われています。
朝露に浮かび上がる完璧な幾何学模様。
この網の形は決して偶然の産物ではなくクモがその場の状況に合わせて設計したものだという事が分かってきました。
オックスフォード大学のトーマス・ヘッセルバーグ博士は研究室の棚に特殊な枠を並べたくさんのクモたちに網を張らせています。
クモが環境によってどのように網の形を変えるのかを研究しているのです。
(ヘッセルバーグ)風が強い時クモはほとんど網を張ろうとしません。
しかし風が弱まるとその状況に合わせた網を張り始めます。
つまり小さめで比較的短時間で作れて風によって壊れにくい網です。
クモが張った網に風を送り徐々に風速を上げていくとどうなるでしょうか。
円形の網は少々の風には持ちこたえます。
網全体に均等に力を分散させる事ができるからです。
しかしそれにも限界があります。
風があまりに強く吹き飛ばされそうになるとクモは網を畳んでしまいます。
畳みながらクモは糸のたんぱく質をリサイクルし次に網を張る際に再び利用できるようにするのです。
クモは網を食べる事で糸をリサイクルします。
畳みながら網の隅に取り残されていた小さな獲物も一緒に食べます。
クモの中には毎日網を壊しては張り替えているものもいます。
クモはいろんな形に網を張る事ができます。
状況に応じて無駄のない洗練された形で巣を作るのです。
この優れた建築家のような才能によってクモはあらゆる環境を住みかとしてきました。
人間の家も例外ではありません。
ロラール博士がクモを探すのは広々とした野山ばかりではありません。
地下室や屋根裏も見逃せない場所です。
全てのクモが幾何学模様の網を張るわけではありません。
古い建物などではこのように一部が漏斗状の網をよく見かけます。
これはイエタナグモの網です。
人の寄りつかない場所ではクモの巣はホコリにまみれどことなく不吉な感じに見えます。
イエタナグモは不気味な網や毛むくじゃらの体のせいで人間から忌み嫌われてきました。
夜中に人間にかみつくという言い伝えさえあります。
しかし実際にはイエタナグモは人間に害をなしません。
人の家でよく見かけるもう一種のクモがイエユウレイグモです。
イエユウレイグモは不規則に絡み合った目の粗い網を張り近くを通りかかった獲物を捕らえます。
イエユウレイグモの特徴は網の上でとても素早く動く事です。
そのため彼らの天敵はクモの姿を見つける事ができません。
まさに幽霊のように姿を消せるクモなのです。
庭の生け垣にも驚異的な網を張るクモが潜んでいます。
しかし米粒半分ほどの大きさしかないので相当よく探さないと見つかりません。
ほらいました。
このクモが仕掛ける罠は独特です。
網は三角形をしています。
クモは生け垣の枝と網をつなぐ場所に潜み糸をピンと引っ張っています。
(ロラール)獲物が網に触れるとクモは糸の緊張を緩めます。
すると獲物は一瞬のうちにたわんだ網にからめ捕られます。
クモの巣はクモを象徴するものですが実は網を張らずに直接狩りをするクモもたくさんいます。
獲物をおびき寄せる物質を出し糸を投げ縄のように使ってしとめるクモもいます。
糸の先端にはネバネバした玉がついています。
更にクモを専門に狩るクモもいます。
クモがクモを食べるのです。
しかしその体には毒があるためクモ同士でも近づくのは危険です。
ヤマシログモの仲間は少し離れた場所から狩りをします。
網を張るのではなく獲物に向かってネバネバした糸を投げつけるのです。
ニューヨークヴァッサー大学のロバート・スーター教授はヤマシログモの驚異的な狩りの技術を研究してきました。
ヤマシログモがどうやって狩りをするか別のクモを近づけてみます。
獲物が来ると…ほら捕まえた。
あまりの早業で目にも留まりません。
1秒のの速さで捕らえるのです。
肉眼では見えない一瞬の動きを捉えるために高速で撮影できる特別な装置を開発しました。
ヤマシログモをスライドグラスの上に載せて動きを奪い強力な光で照らし出します。
高速で吐き出される糸をはっきりと見るためには1秒当たり2,000コマ程度で撮影する必要があります。
ヤマシログモの牙は糸を発射する大砲のように進化しました。
牙はものすごいスピードで動きます。
生物の動きとしては他に例のない速さです。
(スーター)これはヤマシログモの牙が1秒におよそ1,000回の速さで左右に動いているところです。
このように速い動きは直接的な筋肉の動きによるものではありません。
筋肉はこれほど速く収縮できないからです。
しかし高速で流れる液体にならこうした動きを生み出す事ができます。
ホースの先を持たずに水を勢いよく流すと先端がクネクネと動きますよね。
それと同じ原理です。
このような狩りの技術を獲得するためにヤマシログモの体は大きく変化しました。
ヤマシログモが頭でっかちなのは頭の方に他のクモにはない特別な糸の分泌腺を持っているからです。
スーター教授はヤマシログモの糸の更に驚くべき性質を発見しました。
2本のワイヤーを平行に張りヤマシログモに糸を吐きつけさせます。
すると興味深い事が起きます。
ワイヤーに巻きついた糸が収縮してワイヤー同士を引き付けるのです。
つまりヤマシログモが獲物に向かって糸を吐くとその糸が収縮して獲物は身動きがとれなくなるのです。
優れたシステムです。
時速100kmのスピードで糸を投げるヤマシログモ。
しかしその巧みな狩りの様子はなかなか実際には見られません。
ヤマシログモは夜行性で昼間は安全な岩の下に身を潜めているからです。
可能なかぎり身を隠し待ち伏せという方法で狩りをするクモもいます。
狩りを成功させる何よりの秘けつは我慢強さです。
カムフラージュの達人トタテグモはそうしたクモの一種です。
これがトタテグモの巣穴の入り口。
さまざまな植物のかけらを糸でつなぎ扉を作っています。
狩りをする時クモはこの扉を僅かに開いておきます。
そして扉の陰に隠れて獲物が十分に近づくのを待つのです。
巣穴は複雑な構造をしています。
トタテグモはきれいな円形の穴を20cm以上の深さまで掘る事ができます。
中の温度が高くなってくるとトタテグモは2つ目の扉を作り暑さや捕食者を二重の扉で遮るのです。
トタテグモは狩り以外のほとんどの時間をこの巣穴の奥で過ごします。
アジアには待ち伏せの狩りを更に洗練させた種がいます。
ハラフシグモの仲間は糸で獲物をつまずかせるためのロープを編みます。
獲物が引っ掛かりその振動が伝わってくるまでクモは糸に足を載せて待っているのです。
家の庭先にも待ち伏せの名手がいます。
庭の花に住むカニグモの一種ヒメハナグモです。
カニグモの中には花の色に合わせ数時間で体の色を変える事ができる種類もいます。
獲物が十分な距離に近づくまでじっと動かずに待つのです。
時には獲物の方がクモよりも大きい場合もあります。
しかしヒメハナグモは狩りを成功させるためのある秘密兵器を持っています。
ヒメハナグモの秘密兵器それは毒液です。
クモはチョウの体に毒を注入し数秒のうちに麻痺させてしまうのです。
毒液は口の前にある一対のかぎ状の牙から出てきます。
クモの毒は通常人間には害はありませんが昆虫を死に至らしめるには十分なものです。
毒で麻痺させたあとクモは驚異的な方法で獲物を消化します。
毒液とともに分泌された唾液は獲物の体に侵入し体内組織を溶かして液状にします。
クモは獲物をかむ事ができない代わりに溶かして吸い上げる事ができるのです。
これもまたクモという生き物の繁栄を支える重要な特性の一つです。
クモの中には昆虫以外の獲物を襲うものもいます。
沼に住むミズグモはクモの中では唯一水の中で生きられる種です。
エラはありませんが腹部に生える密集した毛のおかげで水面から空気の泡を取り込み抱えている事ができるのです。
驚くべき事にミズグモは水中に作った巣を取り込んだ空気で満たし釣り鐘状の空気室を作り上げます。
これは獲物を取るための罠ではなくクモが水中にいる際の潜水ドームとして利用されます。
ミズグモの毒は小さい魚を狩れるほど強力です。
ミズグモは捕獲した獲物をすぐに釣り鐘状の巣に持ち帰ります。
この中でなら毒は水で薄まる事がなく存分に効果を発揮します。
水中に住むクモはミズグモただ一種だけです。
一方地上には5,000以上もの種類が知られているクモがいます。
このクモは網を張らず獲物に忍び寄って狩りをします。
そのために役立つのが大きな眼。
ハエトリグモはクモの中で最も高性能の眼を持っています。
マサチューセッツ大学のエリザベス・ジェイコブ博士はハエトリグモの視覚について研究しています。
この実験はハエトリグモが色を識別できるかどうかを調べるものです。
まず色の付いた棒を野原に立て先端にクモが入れるスペースを用意しておきます。
しばらくするとハエトリグモが先端に巣を作りました。
ではこのクモを巣から取り出し別の赤い棒のそばに置きます。
クモはどんな行動をとるでしょうか。
容器の縁にまで登り…辺りを見回しています。
(ジェイコブ)新しい棒に向かっています。
クモは先ほど棒に残してきた化学物質の跡をたどる事はできません。
何か他の感覚に頼って進む方向を決めているはずです。
恐らく色を認識していると思われます。
ハエトリグモは視覚が非常に優れています。
陸上に住む無脊椎動物の中では一番と言えるでしょう。
高性能の眼はとりわけ狩りの際に役立ちハエトリグモが獲物に忍び寄る様子はまるでネズミを狙うネコのようです。
背を丸めてこっそり近づき飛びかかるのです。
一気にジャンプして獲物を取るハエトリグモ。
相手の姿を正確に捉えられるおかげで数cm跳び上がるばかりでなく信じられないほどの軽業をやってのけます。
ハエトリグモには8つの眼があり顔の正面にある一番大きな一対の主眼は対象物の細部まで見る事ができます。
私たちは複数の眼がどのように連係して働くかを単純な方法で調べています。
それぞれの眼に交互に塗料を塗り一部を見えなくするのです。
正面にある一対の主眼だけに塗料を塗りました。
(ジェイコブ)主眼が見えなくてもこのクモは相手がどこにいるか見えているようです。
両サイドと後方に一対の眼があり更に正面にもやや小さめの目が一対あるからです。
しかし獲物だとは認識できないようです。
獲物の方を向いても後ずさりしてしまい何だか分かっていないようです。
(ジェイコブ)主眼はとても変わった構造をしています。
固定された水晶体が顔の外に出ていて長い管状の本体の奥にとても小さな網膜があります。
この網膜は対象物を細部まで見るのに適していますが何しろとても小さいので一度に視野に入るのは前方の狭い範囲だけに限られます。
しかし驚いた事にハエトリグモの網膜は目の中で動き回るのです。
そのため顔はじっとしていても対象物の右端から左端までを見渡す事ができるのです。
ハエトリグモの主眼はこのように網膜の入った管が特殊な筋肉に取り巻かれ自在に動かせるようになっています。
獲物を見つけて狩りをするハエトリグモにとってこの眼は欠かせない道具なのです。
しかしハエトリグモのように視覚の優れたクモはクモ全体の中では例外と言えます。
ほとんどのクモはあまり視覚が発達していないのです。
(ロラール)クモは主に振動によって周りの環境を感知しています。
クモは足全体に感覚器があります。
振動を感知できるさまざまなタイプの毛です。
クモには私たちのような聴覚器官はありません。
そのかわり足の毛で周りの音や振動を鋭くキャッチしています。
昆虫の羽が生み出す僅かな空気の振動も的確に感じ取る事ができるのです。
クモの中にはある種の振動を作り出してメスを引き付けようとするものがいます。
しかしこの求愛信号は人間の耳には聞こえません。
シンシナティ大学のジョージ・ウーツ博士はクモの情報伝達について研究しています。
北アメリカに多いコモリグモの仲間を用いてこのクモの複雑なボディランゲージを解読しようとしてきました。
この枯れ葉の上にはメスのクモがオスを誘う時に出す物質が付いています。
オスをこの上に置くとメスが出した物質に刺激されて葉っぱの上で求愛行動を始めるはずです。
この時クモが立てる音を高感度の録音機器を使って録音してみましょう。
(オスが立てる音)オスは枯れ葉をドラムのように使いメスに気付いてもらうための合図を送ります。
(オスが立てる音)体全体を震わせできるだけ大きな音を立てようとしています。
音とそれに対応するクモの動きを分析した結果クモが視覚的信号と振動による信号を同時に発している事が分かりました。
2つの信号が合わさる事でオスの求愛行動は劇的なものになりメスの注意を引きやすくなるのです。
これらの信号にはどんな情報が含まれているのでしょうか。
デビッド・クラーク博士はコモリグモがクモの映像に対しても実物に対するのと同じ反応を示す事を発見しました。
コモリグモの視覚が優れている事はこの実験には好都合です。
これから異なる刺激を与えるさまざまなオスの映像をクモに見せてみます。
最初は毛を逆立てて足を太く見せる行為です。
画面上のオスが前足を覆う長い毛を逆立てて求愛の動作を始めました。
すると間もなく実物のオスがまねをし始めました。
自分の方が優れている事を示しどこかにいるメスの関心を引こうとしているのです。
このものまね行動は無脊椎動物としてはユニークなものです。
求愛行動においては視覚的な情報伝達と振動による情報伝達が同時に行われています。
特に優れた眼を持つコモリグモにとって視覚的な信号は仲間を識別したり相手の関心を引いたりするのに役立ちます。
落ち葉の折り重なった地表で遠くにいるメスを引き付けるためオスは周囲から自分の存在を目立たせる必要があるのです。
交尾をしようとするクモのオスはまず小さな網を作って自分の精液を数滴付着させます。
次に体の前方にある器官に精液を満たしメスの元へと運ぶのです。
交尾は危険なゲーム。
オスにとって目的はただ1つ。
それは食べられずに交尾を成し遂げる事です。
メスの周りを回って注意を引きながら慎重に相手を縛り上げるオスもいます。
最も大きな危険を冒すのがジョロウグモのオスです。
メスの体はオスよりもはるかに大きいのでオスはメスが獲物を食べている間だけしか近づく事ができません。
オスはゆっくり用心深く近づきます。
果たして襲われる事なくメスの腹部に達する事ができるでしょうか。
精液を運ぶ器官をメスに挿入できればオスの目的は達成です。
交尾に成功したあとも油断はできません。
メスが食事に気をとられている隙に脱出を図ります。
何とか無事に去る事ができました。
クモの男女交際の鉄則それは長居をしない事です。
交尾が終わり一定期間を過ぎるとメスは卵を産みます。
子グモたちが長い冬を確実に生き抜けるようにメスグモの中には糸を使った高度な技を獲得したものがいます。
多くの場合クモの寿命は1年です。
ナガコガネグモのように秋に卵を産む種は「卵のう」という袋のようなもので卵を包みます。
冬は気温がかなり下がるのでその間卵を冷やさないように守るのです。
これがナガコガネグモの卵のうですがほら何層もの糸に包まれとてもしっかりしています。
卵のうの外側と内側では温度が随分違ってきます。
この保育室を作るためにメスのナガコガネグモは複雑な技を編み出しました。
まず糸で土台を作り粘液に包まれた卵を産みつけます。
そしてぶら下がっている大切な宝物をいくつかの糸の層で包んでいきます。
第1の層は卵を固定するためのものです。
次に母グモは非常に軽くて軟らかい糸で第2の層を紡ぎます。
卵がかえると真綿のようなこの層がクッションの役目を果たします。
子グモたちは産まれてからの1週間をこの中で寒さから守られて過ごすのです。
卵のうの形が出来ました。
母グモは更に硬い糸の層で周りを包みます。
最後に全体を茶色の層で覆い捕食者に見つからないようにカムフラージュします。
8時間かけて小さな宝石を作り上げたあと疲れきった母グモは死んでしまいます。
やがて卵からかえった子グモたちは自分で成長していきます。
全てのクモがこのように母親の保護なしに産まれてくるわけではありません。
コモリグモの仲間は子供が産まれるまでメスが卵のうを運んで歩きます。
コモリグモは子グモを背中に載せて過ごします。
100匹もの子グモを1週間以上載せ続けていたメスも確認されています。
多くの個体が一斉にかえりますが成虫になるまで育つのはほんの1%にすぎません。
平均すると一つがいのクモから僅かに2匹が生き残る計算です。
それは種の存続に最低限必要な数です。
更に成虫になっても子孫を残すまでには多くの天敵にさらされます。
(ロラール)クモはあらゆる環境に適応できる多様な戦略を生み出してきました。
クモの繁栄は数を増やす事よりもさまざまな能力を発展させる事によって勝ち取られたのです。
クモは地球上の昆虫の数を制御する役割も果たしています。
クモが捕獲する昆虫の数は鳥類が食べる昆虫の数よりも多いのです。
もしクモがいなかったら私たちの周りはハエや蚊などの害虫であふれてしまうでしょう。
このようにクモは生態系における重要な役割を担っています。
にもかかわらず嫌われ者のままです。
しかし私たち人間がクモから学ぶべき事もあります。
それは彼らの類いまれな適応能力です。
2014/05/19(月) 00:00〜00:45
NHKEテレ1大阪
地球ドラマチック「スーパースパイダー〜驚異!クモの世界〜」[二][字][再]
絶海の孤島から都会の片隅まで、地球上のあらゆる場所に生息し、不思議な能力を持つ生き物クモ。繊細な糸を操り獲物を捕らえる技や、8つの目を持つクモの生態に密着する。
詳細情報
番組内容
クモの糸は人間の髪の30分の1の細さながら、比重では鋼より丈夫でしなやか。クモは、この糸で幾何学模様の巣を張り、投げ縄のように巧みに狩りをする。多彩な能力があるクモは、世界中どこでも生息する適応の天才だ。番組では、マクロレンズやハイスピードカメラを駆使して、肉眼ではとらえにくいクモの行動を撮影。クモの世界に魅せられた研究者たちが、ユニークなクモの生態を明らかにする。(2012年カナダ・仏)*再放送
出演者
【語り】渡辺徹
制作
〜制作:Nova Media(カナダ・フランス 2012年)〜
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
他言語の時もあり
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz
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