臨場 2014.05.19

あなたには黙秘権があります。
自分の意思に反して供述する必要はありません。
では始めます。

(バイオリン)
(バイオリン)
(宮坂義太郎)ううう…。
ああ…。

(バイオリン)
(義太郎)うう…。

(バイオリン)
(倉石義男)おお若葉しゃん!ずいぶん成長したなぁ。
あら!葉っぱいっぱい落っことしちゃって…。
よし。
お兄さんが拾ってやるぞ。
あーよしよし。
世話焼かせやがって…。
お前たちはまだまだだな。
大きくなれよ。
よし!取っておきの美味しいお水飲ましてやる。
(携帯電話)はい倉石。
(小坂留美)「臨場要請です」現場は台東区谷中東3丁目1の1078歳の老人の変死体。
縊死による自殺のようです。
わかった。
現場に直接行く。
行くわよ!お願いします。
ああ。
パセリ採りたて!イチビタミンCとれ。
おおユズリハかぁ。
うちのより立派だな…。
自殺の可能性大という事ですか?
(坂東治久)鴨居で首をつったという娘夫婦の供述があってな…。
だが厄介なのは首から帯を外してきちんと布団に寝かしちまった事だ。
もっとも遺書はあったがな。
(一ノ瀬)現場保存はされてないって事ですか?
(坂東)そうだよ。
検視官見習い。
立原管理官は…?
(江川康平)病院だ。
え?親御さんが入院している病院に行ってるんだ。
どっちだ?えーっと確か親父さんだったかと…。
立原の親父の事聞いてんじゃねえよ。
ホトケだ。
ああっすいません。
男です。
女房の父親で寝たきりだったそうです。

(においを嗅ぐ音)始めるか!
(一同)はい!顔面うっ血。
はい。
(一ノ瀬)左右の眼瞼眼球結膜に溢血斑を伴った米粒大の溢血点多数。
角膜自体の混濁はなし。
角膜透明。
(一ノ瀬)口腔粘膜に多数の溢血。
舌は上下歯部のわずか前方。
(宮坂祥子)主人を会社に送り出して父の食器を下げたら眠いからしばらく寝るって…。
で…10時少し前に部屋に入ったら…。
(宮坂直樹)女房から携帯に電話があって慌てて帰ってきたら父が鴨居にぶら下がっていたんです。
後先考えないで思わず父を下ろしてしまいました。
索条痕が首の甲状軟骨上部にすっきりはまってねえ…。
(一ノ瀬)はい。
顔面もうっ血しています。
おかしいじゃねえか。
鴨居から首をつったんなら一気に逝って顔面は蒼白になるはずだ。
おい小坂ルーペ。
はい。
首筋になんか付着してるなぁ。
ええ。
白い粉末状のものが付着してますね。
神山首筋の微物採取。
おおこれが遺書か。
ちょっとあんた…。
汚え字だなおい…。
(矢野)残されていたメモ類との照合ではホトケの宮坂義太郎の自筆に間違いないと思われます。
浴衣の帯は?
(矢野)これです。
首をつるには短すぎるから2本を繋いで結わいたんですね。
殺しなら短くても出来る。
典型的な自殺の兆候ですね。
ホトケは寝たきりだったんだろ?
(矢野)寝たきり状態ではあったんですが「寝たきり」ではなかったんです。
(坂東)要するにあれか。
ほとんど寝たきりの生活を送っていたが足腰が立たない状態ではなかったって事だろ?そうです。
そうです。
てぇ事は掛けようと思えばこう立ち上がって自分でロープを鴨居に掛けられたと…。
つまり首つりは十分可能だったとこういうわけか?はいそのとおりであります。
本当かなぁ…。
(矢木)鴨居は調べ済みです。
ここに帯の跡がくっきりとあります。
おい。
(尾形)はい。
このタンス徹底的に調べろ。
特に取っ手。
それからホトケさんの右足の甲と足の裏。
はい!ライト当ててくれ。
(尾形)下から3段目の引き出しの取っ手からホトケの首に巻かれていたものと同一とみられる浴衣の帯の繊維片を検出しました。
それに取っ手のビスが緩み外れかけています。
足の方は?ご指摘どおり右足の甲と足の裏からも同じく帯の繊維片が…。
やっぱりだ…。
検視官どういう事です?左脚が不自由なホトケはやはり帯を鴨居にぶら下げる事は出来なかったんだ。
下から3段目の取っ手の金具に帯を通し一方を自分の首に引っ掛けてでもう一方を右足に巻きつけて徐々に力を入れて自分の首を絞め上げた。
頸動脈は体重の10パーセント程度の圧力が掛かれば血流が止まる。
しかし…右足の力が弱かったのかその場での窒息は出来なかったんじゃねえかな。
つまり誰かがそのあと義太郎さんの首を絞めたっていう事ですか?恐らくなぁ。
(一ノ瀬)それじゃあ鴨居の帯の跡は…?ホトケの首から外した帯をわざわざ鴨居に掛けて引っ張り偽装工作をしたんだろうよ。
じゃああの夫婦偽証したって事か?おい立原を呼べ。
ホトケの自殺未遂を利用してとどめを刺した殺しかもしれねえ。
殺しの線が出てきたぞ。

(立原)古い家だなぁ。
(坂東)ええ築50年というとこでしょうか。
ホトケは父親だそうだな。
はい。
倉石…。
頸部圧迫による窒息死には間違いないんだな?ああ。
まあ殺しとははっきり言えねえがまあ解剖すりゃあわかるさ。
どいてくれ…。
どいてくれよ。
(一ノ瀬)管理官…。
お父様の具合は…?ありがとう。
大丈夫だ。
鴨居で首をつったなんて…。
どうしてそんな嘘をついたんです?申し訳…ありませんでした…。
お父さんお昼…。
(祥子の声)おっしゃるとおり父は浴衣の帯をタンスの取っ手に掛けて首をつってたんです。
なのになぜ虚偽の申し立てを?
(祥子の声)戻ってきた主人が…その方が自然だからって…。
自然…?祥子…。
鴨居で首つった事にしとこう。
ええっ!?その方が自然だよ。
普通だ。
こんな死に方されたんじゃ俺たちが殺したんじゃないかって疑われる。
馬鹿な死に方したもんだ。
お義父さん…。
(直樹の声)義父はコツコツと自分の生命保険金を積み立てていました。
お前たちにまとまった財産は残してやれない。
だから自分が死んだらせめて現金を受け取れるようにしておきたいって…。
そうかな?奥さんから連絡を受けたあなたがこの家に帰ってきた時義太郎さんはまだ絶命していなかった。
生きていたんじゃないんですか?違いますか?そんな事はありません!ワークシェアリング…。
あなたの会社先月からワークシェアリング制度を導入したそうですね。
今日はあなたは出社しなくてもいい日だった。
あんたその事奥さんに伝えてないんだろ?はい…。
言い出しにくくて…。
出社するふりをして家を出てからあんた一体どこで何してたんだ?え?駅前の区立図書館に行きました。
時間潰しに…。
では図書館で奥さんからの携帯電話を受けたわけですね?はい。
具体的には図書館のどこで?1階の一般閲覧室です。
どんな本を読んでました?そんな事まで答えなきゃいけないんですか?のちのち目撃者探しとか指紋採取の必要も考えられるんで。
そんな…!
(物音)
(宮坂義樹)なんで…。
おじいちゃん…なんでだよ!義樹…。
(田辺)搬送車が到着しました。
ご遺体を司法解剖に回します。
解剖って…。
どういう事だよ!ではお話はまた後ほどお聞かせください。
(矢野間文の声)60歳以上の自殺の90パーセントが健康上の問題なんだって。
本当にねひとごとじゃないよね。
そんな統計あてにはなんねえなぁ。
(文)えっそうなの?自殺する時恨み辛みを遺書にゴタゴタ書き連ねるのはごく一部の人間だ。
遺族だって家族の間で揉め事があったなんてわざわざ言わねえ。
だろ?まあそりゃそうだね。
世間体もある。
きれい事で済ませようとするのが普通だ。
結果健康問題で自殺したという統計だけが一人歩きするって事だ。
科捜研えらく込んでるんです。
宮坂義太郎の首筋に付着していた物質の分析時間掛かりそうです。
割り込めねえのかよ。
無理言わないでください。
それだけ事件が多いって事ね。
さて明るい老後を目指して頑張るか!頑張ってー!ありがとう!お邪魔しました。
はい。
おおサンキュー。
うーん。
におい…しなかったな。
あの部屋。
におい?寝たきり老人が暮らしてる部屋っていうのは独特のにおいがするもんだ。
何かいいにおいがしましたよね。
常々太陽の陽を入れて風を通し体をきれいに拭いてやってこその無臭なんだ。
いや…。
無臭じゃねえな。
小坂が言うとおり確かにいいにおいがしたなあの部屋。
義太郎さん家族に大切にされていたんですね。
大切にされてたんならなんで自殺なんかしたのかなぁ?わかってねえなぁイチ。
家族にとって自分が負担になると思ったからだろうよ。
でも死にきれなかった…。
そのあと家族の誰かが手を掛けたとしたら…。
やりきれないです…。
(義樹)おじいちゃん自殺じゃないのかよ。
警察は誤解してるだけだ。
誤解?
(義樹)父さん…どういう事だよ。
おじいちゃんは自殺よ。
おじいちゃん今まで何回も何回も遺書を書いてたの。
遺書を…?みんなに苦労をかけるばかりだからもう死にたいって…。
私がいけなかったんだわ。
もっとこまめにおじいちゃんの部屋覗くべきだった…。
責任を感じる事はないさ祥子。
お前は今まで十分過ぎるほど介護してきたんだ。
(直樹)自分の仕事諦めてまで…。
そうだろ?祥子。
(祥子)でも…。
(西田守)索条痕が甲状軟骨に掛かっていないか。
確かに自分の意思による縊死ならそんな事はありえないね。
とにかく今日は甲状軟骨の周辺部を中心に見ろって事だね。
そうだよ。
じゃあ始めようか。
はい。
お願いします。
(西田)ああこれはいけない。
右の甲状軟骨の上角が出血を伴う骨折をしている。
誰かが手で絞めたか…。
(西田)さほど強い力で絞めたわけじゃないなこれは。
だから圧痕もほとんど残っていなかったんだね。
他殺…なんですね?やはり他殺か…。
お前の見立てどおり宮坂義太郎は自殺を試みたが死にきれずそののち誰かが義太郎の首を手で絞めたという事か…。
そういうこった。
科捜研の分析結果が出ました。
義太郎の首筋に付着していたのは松ヤニだったそうです。
松ヤニ?
(坂東)松ヤニ…。
ロージンバッグもそうか。
野球のピッチャーが使う…。
ええ。
ロージンというのは松ヤニの事です。
野球のロージンバッグは滑り止め剤の粉末を布製の袋に詰めたものです。
おい…。
義太郎の孫の宮坂義樹…野球部のバッグを持ってたぞ。
ですが坂東さん。
死亡推定時刻の昨日午前10時から12時は義樹は学校にいる時間ですよ。
んなものは確認すればいい!管理官義樹から事情聴取してきます。
行くぞほら!
(田辺)ああ…はい!さてと…帰るか。
(2人)はい。
腹減った。
ラーメン食いに行くか…。
一ノ瀬…。
はい。
松ヤニは…他にはどんなものに使われるんだ?シャボン玉の原料それから…望遠鏡みたいな反射鏡を磨く研磨剤…。
塗料用や印刷インキの樹脂…。
(携帯電話の振動音)タイヤなど合成ゴムの乳化剤…。
(携帯電話の振動音)ピッチャー打たしていこう!打たしていこう!ライトライト…!ストップ!そこそこ!
(坂東)さすがに今日は見学か。
君野球部の練習は熱心だが授業はさぼり気味だったそうだな。
昨日も全然授業に出てなかった。
昨日の午前中どこで何してたのかなぁ?映画観てた…。
どこの映画館で?銀座…。
映画の半券は…?んなもんいちいち取ってねえよ!親父は会社にも行かずに図書館。
息子は学校さぼって映画館か。
ハハハ結構なご家族だな。
ハハハハハ!君義太郎さんにしょっちゅう怒鳴られてたそうだねぇ。
ちゃんと学校に行けって。
(坂東の声)昨日も不登校を見とがめられてついカッとなって…おじいちゃんを手に掛けたんじゃないのか?手に掛けた?殺した。
何言ってんだよ!おい!コラコラよせ!検視官!野球のロージンバッグ内の滑り止め剤の成分はおおよそ炭酸マグネシウムが80パーセント松ヤニが15パーセントだそうです。
ってえと…やっぱ違うなぁ。
(咳き込み)ええ。
義太郎さんの首筋からは炭酸マグネシウムは検出されてませんからね。
じゃあロージンバッグを使っていた義樹じゃないって事ですか?犯人は…。
出掛けてくる。
ああ車いらねえ。
(矢野)宮坂直樹は仕事をそれなりにこなすというだけで不況に悩む会社にとっては一刻も早くクビにしたかったようです。
直樹本人はその事を知ってたのか?薄々感じていたようです。
そればかりじゃありません。
(江川の声)直樹は多額の借金を抱えていました。
元々小さな画廊をやっていたんですが5年ほど前に倒産し負債が残っています。
えー地元信金からだけで2300万円。
そのあと現在の装飾品会社勤めを始めたようです。
直樹は宮坂家の入り婿です。
義太郎が倒れてからは夫婦でそれなりに分担して介護に当たっていたようですが義太郎が元気なうちは「この甲斐性なし!」としょっちゅう当たられてもいたようです。
それとこれは近所の主婦からの情報なんですが直樹の旧友が沖縄で物産会社を経営していて業務を拡大するので直樹に手伝ってくれないかという申し出をしていたそうなんですが…。
あーらいい話じゃない!沖縄で新天地なんて羨ましいわー!問題はおじいちゃん!俺はこの家で死にたいってずーっと言ってる人でしょ?家売って沖縄に引っ越しましょなんて聞くわけないし…。
半ば寝たきり状態の父親がネックになっていたという事か。
直樹には義太郎を殺すに十分な動機がある…。
はい。
(携帯電話の振動音)
(一ノ瀬)「立原管理官」宮坂直樹は普段から松ヤニを扱ってませんか?どういう事だ?
(一ノ瀬)ロジンアートという松ヤニから作る装飾品があるのですが直樹の会社がそれを扱っていたとしたら…。

(バイオリン)
(バイオリン)
(吉田)いらっしゃいませ。
(江川)坂東さん!
(吉田)この松ヤニを溶かしこの型に流し込む。
冷えたら取り出し周りを整形すれば出来上がりです。
宮坂直樹さんはロジンアートの営業をやってたんですね?
(吉田)はい。
嘘をついた事は本当に申し訳ないと思ってます。
だからって主人や義樹に疑いをかけるなんて…。
父は自ら命を絶ったんです。
「死ぬために生きてるなんてなんの価値もない」。
最近の父の口癖でした。
倉石さん…。
半身不随の父が懸命に書いた遺書を何回も何回も読む時の気持ちがおわかりになりますか?どれだけ生きられるかわからないのに「頑張って生きなきゃ駄目」って励ます時の苦しさがおわかりになりますか?あいにくだが人間生きてるうちは俺の出番はないんでね。
どうあろうと人間自分で死ぬ権利はあると思うんです。
衰弱していく心体頭…。
そして絶望。
だから義太郎さんは自ら命を絶ったと?…はい。
俺のとは違うなぁ…。
検視ってのはな結果から原因を考えるものなんだ。
ホトケが語ってくんだぁ。
自分で死のうとしたが死に切れませんでしたってな。
でも父は…!誰かが自殺を幇助した。
あるいは殺害の意思があった殺人だ…。
…ってな。

(においを嗅ぐ音)もうお引き取りください。
お願いです。
もうこれ以上…。
ああ奥さん。
玄関の横にあるユズリハ。
え?ああ…。
ずいぶん古そうだ。
(祥子)父が手塩にかけて育ててました。
新しい葉っぱが成長すると古い葉っぱは落ちていく。
葉の入れ替わりがはっきりしてるから「譲る葉」と書いてユズリハって言うんだそうだ。
別名親子草。
義太郎さんが大切にしてたか…。
何かお探しでしょうか?そうか…。
いや…。
よろしく頼む。
(ドアが開く音)
(坂東)管理官。
図書館で直樹を目撃した人物が出ませんでした。
初めから図書館なんて行ってなかったんですよ。
動機アリバイ松ヤニ…。
直樹で決まりです。
叩けば落ちますよ!おっせえな!まだかよおい!突然割りこんで急いでもらってるんですからそんな無理言わないでください…。
小坂が言う事じゃねえだろうよ!そんな事言ったって…。
(一ノ瀬)倉石さん犯人はロジンアートを扱ってた直樹で決まりです。
決まりかどうかこの分析結果出りゃ一発だよ。
一発って言いますけど…。
うっさいな!まだかよ!まだです!
(葬儀屋)香典返しはどのくらいご用意致しましょう?
(直樹)ご近所だけですので十か二十もあれば十分かと思います。
(玄関の引き戸が開く音)それでは明日の午後2時にお通夜の準備にお伺いします。
司法解剖の結果義太郎さんは他殺と断定されました。
宮坂直樹さん署までご同行願えますか?今のところ任意ですのでご承諾頂けなければ強制は出来ませんが。
あなた!ご一緒致します。
どういう事だ?
(坂東)重要参考人として宮坂直樹さんを同行します。
立原。
どうなんだ?あくまでも任意だ。
中入れ。
(坂東)何様のつもりだ!もう一度家ん中入れ。
ホトケの手には松ヤニは一切付着してなかった。
犯人は…手に松ヤニをつけてた人間だ。
たとえ相手が老人だろうといざ殺すとなりゃ抵抗され逆襲されるのを恐れて普通は遮二無二首を絞める。
犯罪者の心理とはそういうもんだ。
なぁ?立原。
だが今回の場合圧痕はほとんど残ってなかった。
つまり首を絞める力が弱かったって事だ。
犯人は優しかった。
優しかった…?奥さん。
あんた音楽学校出でバイオリンの奏者だったんだよな?はい。
結婚妊娠子育て実の父親の介護で演奏家としての道は断念したそうだが楽器店の店長が言ってたよ。
現役でいたらかなりの演奏者になってただろうってな。
弦楽器は弓の毛が弦に引っ掛かって弾ける事により振動を生じさせ音を出します。
その弓の引っ掛かりをよくするのが…。
これです。
松ヤニ。
弦楽器の手入れ用に楽器店で売ってるものだ。
こいつはスウェーデン製だ。
粘度がやわらかく塗ったあと極度にベタつき弦が引っ掛かりやすくなる。
そうだよな?奥さん。
これと同じものをあんた持ってた。
科捜研の分析結果成分は松ヤニが84.5パーセントヒマシ油が12パーセント…。
ホトケの首に残されてた松ヤニの成分とぴったり一致した。
奥さん。
義太郎さんは自分が家族の負担になってるって感じてた。
だから何回も遺書を書き自殺する事を考え続けてた。
辛かったろうな…。
わからないわよ。
死んだあとのお父さんしか見てないあなたたちになんて絶対にわからない。
祥子…。
え?俺は…迷惑をかけてるだけの存在だ。
息をしてるだけの存在だ。
もう…生きてる価値はない。
そんな事!死にたい。
死にたい…死にたい…。
お父さんそんな事考えないで。
俺が死ねば少ないながらもお前たちの保険金を残してやる事が出来る…。
(祥子)お父さんそんな事言わないで。
頑張って!ね!頑張ろう?お父さん!その父が…息も絶え絶えに苦しんでた。
お父さんお昼…。
(義太郎のうめき声)お父さん…!ちょっとお父さん!嫌っ!
(祥子の声)お父さんお父さんっていくら呼びかけても意識は戻らなかった…。
(祥子の声)遺書が残されてた。
死にたい…。
(義太郎の声)死にたい…。
お父さん!私がちっちゃい時よく遊園地連れてってくれて帰りに上野の老舗のパーラーでウエハース付きのアイスクリーム食べさせてくれたよね。
お母さんに内緒で…。

(バイオリン)「すまないすまない祥子」。
「俺はお前のバイオリンの才能を買ってるんだ」。
「俺の世話さえなければお前は一流の演奏家になれたのに」。
「お前の一番のファンはこの俺なんだ」って…。
ねえ…目開けてよ。
ねえお昼ごはんなんにする?お父さんの好きなおかめうどんにする?そうだ!お土産のアイスクリームがあるんだ!上野のパーラーの。
デザートアイスにしようね?ね?
(祥子)ね?お父さん!苦しいの…?苦しいんだね?わかった。
私が楽にしてあげる。
ね…もういいよね?お父さんもう…。
ごめんね…。
ごめんね…。
お父さん…。

(すすり泣き)
(泣き声)お父さん…!
(泣き声)義父は鴨居で首をつった事にしておこうとしたのは私です。
だからあんな小細工を…。
母さん…。
俺は…生きてる人間の事はよくわからねえ。
だが死んだ人間の心持ちは少しはわかる。
あんたが歯食いしばりながら父親を楽にしてやろうとしてた時まだちっちゃいあんたにウエハース付きのアイスクリームを食べさせてやった事を思い出して嬉しかったに違いねえよ。
だがな…あんたがやった事は許される事じゃねえ!決してな。

(義太郎の声)祥子。
(祥子の声)はい。
(義太郎の声)これこれ切るぞこれ。
はいはい。
どれ?これで…。
(葉を切る音)やった。
切れましたー!なんだ?親父さんの具合はどうなんだよ?さっき女房から電話があった。
1時間ほど前に息を引き取ったそうだ。
明日が通夜あさってが告別式だ。
倉石。
俺たち毎日嫌っていうほど死体を見てるが葬式に立ち会うなんて事めったにないな。
ああ。
じゃあな。
2014/05/19(月) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
臨場[再][字]

「ユズリハの家 作られた不自由な死」

詳細情報
◇番組内容
臨場とは、事件現場に臨み、初動捜査に当たること。遺体や現場に残された物証から、事件の筋立てを読む検視官・倉石義男は、優秀だが死者の声をすべて拾えれば周囲との軋轢など気にしない組織の厄介者。「拾えるものは、根こそぎ拾ってやれ」彼の死者に対する悼み方、優しさが死因を追究し事件解決へ導く。
◇出演者
内野聖陽 松下由樹 渡辺大 伊藤裕子 京野ことみ 金子さやか 橋爪淳 伊武雅刀 高嶋政伸 ほか

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32723(0x7FD3)
TransportStreamID:32723(0x7FD3)
ServiceID:2072(0×0818)
EventID:59770(0xE97A)