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 中小の製造業者が集まる大阪府八尾市で、1千分の1ミリ単位の「超極細線(ちょうごくさいせん)」を作る日本有数の職人が、長年営んできた町工場をたたんだ。きっかけは大口の取引先からの突然のクレーム。指先の感覚だけが頼りの技を妨げたものは、何だったのか。職人は自らの誇りを守るため、市などを相手取り裁判で決着をつけることにした。

 訴えを起こしたのは、八尾市太田新町で「サイダ精機工業」を営んでいた西田昌義さん(72)。金属加工会社に勤めていたが、1977年に独立。当初は大阪市平野区に町工場を開いたが、「職人が多く情報交換しながら腕を磨ける」と、90年に中小の町工場が集まる八尾市に移った。

 超極細線を作るには伸線機と呼ばれる機械を使う。直径0・1ミリほどの金属線を、直径が徐々に小さくなる20前後の金属製の穴に次々と通して圧縮し、直径9マイクロメートルの細さになるまで加工する。最も小さい穴は髪の毛より細いため、スムーズに挿入できるよう金属線の先端を砥石(といし)で磨いてとがらせる。

 この研磨作業は機械化できない。目視できない先端を磨くのは、長年の作業で培った指先の感覚だけが頼りだ。西田さんは独立当初は30マイクロメートル程度の細さにするのが限界だったが、伸線機を独自に改良するなどして00年ごろから9マイクロメートルを実現した。

 国内外の約400業者に伸線機を出荷している「株式会社サイカワ」(本社・新潟県柏崎市)によると、研磨作業は手先の技術に加えて、金属線に不純物がないか加工前に見分ける能力も重要といい、西田さんの技術水準に達している職人は国内に数人しかいないという。

■初めてのクレーム

 取引先が海外にも広がり事業が順調だった12年6月。10年以上取引があった大口の取引先からメールが届き、事態は一変した。