昨年初めから連載されてきた「福島の真実」編は、当初の予定通り19日号で最終回を迎える。だが、鼻血をめぐる描写で物議を醸した雁屋さんの戦いは終わることはない。雁屋さんはブログに「(漫画の内容は)2年かけて取材をして得た真実をありのままに書いたものだ」「抗議のメールは(無料の)フリーメールではなく(身元を確認できる)プロバイダメールで送ってほしい。これはブログのダウンという事態を防ぐための措置だ」とつづった。
雁屋さんは日本の右翼から「反日左翼漫画家」と決め付けられている。1941年、日本軍の占領下にあった中国・北京で生まれ、敗戦後に日本に引き揚げた。学者を夢見て東京大学基礎科学科に入学したが、卒業後は広告代理店大手の電通に入社し、74年からフリーの漫画家として活動を始めた。88年には「子どもたちを日本社会で育てていては不幸になる」といって、オーストラリアのシドニーに移住した。
右翼の標的になったきっかけは、98年『マンガ日本人と天皇』を「週刊金曜日」に連載したことだった。雁屋さんはこの作品で天皇制を批判し「長い研究の末、これ以上天皇を尊敬する必要はないということを知った」と表現した。これに対し一部の極右派は「ただじゃおかない」と殺害を予告した。
その後も雁屋さんは日本社会に対する批判を繰り返した。『美味しんぼ』では日本の侵略戦争や植民地支配を辛辣(しんらつ)に批判し、また一度首相を辞任しながら2009年の総選挙で衆議院議員に当選した安倍首相に対し「人間としての恥の感覚を欠いた人間」と酷評した。
人種差別問題に対しても強い関心を持っており、日本での嫌韓デモに対抗して、昨年「ヘイトスピーチ(憎悪表現)とレイシズム(人種差別)を乗り越える国際ネットワーク」の共同代表に就任した。