【ニューヨーク=稲井創一】米通信大手のAT&Tは18日、米衛星放送大手ディレクTVを485億ドル(約4兆9200億円)で買収することで合意したと発表した。両社の取締役会は既に承認し、1年以内に買収を完了させる。ネットを使った動画サービスの普及で既存の有料放送事業は成長が鈍化。携帯電話やタブレット(多機能携帯端末)などテレビ以外へのビデオ配信を強化する。
AT&TはディレクTV1株あたり95ドルで買収する。内訳は現金と株式を組み合わせる。ディレクTVの負債を含めると671億ドルに達する。
「娯楽ビデオ産業を再定義する画期的な機会だ」。AT&Tのランドール・ステファンソン最高経営責任者(CEO)は18日、ディレクTV買収に関する声明を出した。有料放送事業でAT&Tは業界5位(米国内2011年末ベース)で、同2位のディレクTVを買収することで顧客基盤を飛躍的に拡充できる。
AT&Tが狙うのはディレクTVの豊富なコンテンツをテレビだけでなく携帯やパソコンにも展開し、車内や飛行機内などでも楽しむことができるサービスの強化だ。両社の経営資源を持ち寄り、利用者が場所を選ばずにビデオを閲覧できる機会を提供する。
AT&Tは南米に1800万人の加入者を持つディレクTVを傘下に持つことで、米国内に依存していた収益構造を変える狙いもある。買収によって重複する事業や組織を簡素化するなどして、年間約16億ドルのコスト削減も見込めるという。
ケーブルテレビ最大手のコムキャストが同業のタイムワーナー・ケーブル(TWC)買収で合意するなど米国の通信・放送業界では再編の動きが相次いでいる。
米通信・放送業界は既に成熟市場で伸びる余地が少ないため、短期間で一段の成長を目指す企業にとってM&Aが有力な経営の選択肢になっている。
ラナダル・ステファンソン、AT&T、CEO、ディレクTV