【スピーカー】
コペルニク共同創設者兼CEO 中村俊裕 氏
【動画もぜひご覧ください!】
TEDxTokyo – 中村 俊裕 – Igniting Creativity – [日本語]
貧困の解消に役立っていないテクノロジー
中村俊裕:こんにちは。日本は世界でも最も革新的な国として知られています。しかし今日は良い知らせと悪い知らせがあります。悪い知らせは、この日本の革新力、技術開発力、発明力というのが、もしかしたら間違った方向に使われていたかもしれない、ということ。
一方、良い知らせは、我々は今まで以上に、革新的なことを本当に価値のあることに使える、恵まれた立場にあるということです。
例えば、こういうものを日本人は開発してきました。音楽が流れるトイレ、それからインターネット接続ができる冷蔵庫。あるいはこういうスマートフォンも。解像度・13メガピクセルのカメラ機能がついてます。私はもちろん、これは発明として、そして開発として興味深いものだと思います。クリエイティブなエネルギーがなければこういうものは設計できなかったでしょう。
でも、みなさんに質問です。これを使うことによって、みなさんの生活は本当に良くなりますか? 本当に価値があるんでしょうか?
私はそうは思いません。日本は素晴らしい、卓越したクリエイティブ力というものを持っています。私はこれを、より大きな問題の解決にあてるべきだと考えます。世界が直面してる大きな問題、例えば貧困、それから人災、天災含めた気候の変化、そういったものに使うべきだと思っていました。人類に大きな影響を与える、我々の将来に大きな影響を与える問題、その解決にあてるべきだと。
私はずいぶん若い頃から、そのような問題を抱えたエリアにおいて何かしたい、というふうに考えてました。ですから自然と、いつかは国連で働きたいと夢見るようになりました。その数年後、私の夢は叶いまして、そして飛行機に乗っていました。行き先は東ティモールです。その時東ティモールでは、新しく民主政権が樹立されたばかりでした。
そこで2年間勤務いたしまして、その後国連の他の任務として、インドネシアですとか、シエラレオネですとか、そういう国々で任務にあたりました。これらの国々でとても大切な取り組み、例えば大統領選挙ですとか、津波の対応といった任務にあたれたこと、私は非常に光栄に思っております。
その時に、いろいろな開発プロジェクトが日本のスポンサーによって動いているということを学びました。日本は大きな人道支援大国として知られていると思います。ですから多くのプロジェクトが走っています。しかしながら、どうしても日本と発展途上国を比較せざるを得なかったんです。
日本ではこれだけ革新的な発明が行われているにも関わらず、それが発展途上国に届いていない。そして、発展途上国における大きな問題の解決に使われていないということです。
例えば日本では「月とスッポン」という言葉を使いますけれども、そういった”速度の違い”というものがあったのではないでしょうか。これは日本だけの問題、日本だけのせいではないと思うんです。業界全体の問題だと考えました。で、個人的に何かをしたいと考えました。
そして、こうしたコペルニクという団体を立ち上げました。このコペルニクですけれども、テクノロジーマーケットプレースとして、人々の生活を変えるようなテクノロジーを、一番必要としている人々に届けていく団体です。
非常にシンプルなテクノロジーを届けておりまして、この写真はキュードラム、ドラム回転型のポリタンクなんですけれども、これですと50リットルの水を1回で運搬することができます。それまでは何回も何回も、少量ずつ運搬していたんです。
それからこれですね。発展途上国において補聴器を必要とする方は、毎週のように電池を変えなければいけない、充電をしなければいけない。しかしこれですと、太陽光を活用して充電をすることができますので、金銭的にも助かるというわけですね。負担を減らせるわけですね。それから高くて危ない、灯油式のランプを代替するということもしてきました。
3.11を経験した日本人が気付かなければいけないコト
そしてこうしたテクノロジーを、アジアやアフリカ、中南米に届けてきました。けれどもある日、予想外の出来事が起こりました。3.11です。大変悲惨な天災が起き、そして津波が東北地方を襲いました。その直後に、みなさんからたくさんのリクエストを頂きました。同じテクノロジーを被災地に送り届けてほしい、という希望でした。
それに答える形で、私たちは250個以上のソーラーランタン、それから太陽光充電型の補聴器を送りました。
私はそれまで、発展途上国のためにこういうものを届けることはあっても、日本のように裕福な国に届けることはないと考えていました。
でも、この裏で実は、いろいろと面白いことが起こっていました。発展途上国を含む世界中の国から、日本に対しての応援が、エールが届いていたのです。この中には財務的・金銭的なものだけではなく、人道的なエールもありました。
そしてこの写真をご覧ください。今回の件が本当に契機となったと思うんですけれども、日本と発展途上国の方々を新たな土俵で繋ぐ、そういうきっかけになったと思います。
今回の災害では、人々を大変難しい状況に陥らせ、また人生の全てを失ってしまう悲劇が起こりました。しかしそれでも、人間にはまだポテンシャルがあるということを我々は学んだと思います。この新しいレベルでの理解、あるいは新しいレベルでの共感というのが、これまで欠けていたものだと思います。
これまでクリエイティビティという面で、非常に我々は長けていた。しかしながら、やっとこうした共感が、理解あるわけです。ですから、本当に価値のあるものを必要としている人に届ける、という動きがより自然に行われるでしょう。
これを小規模ながら始めております。コンペを行いまして、何人かの日本人の技術者を発展途上国に派遣しました。そして行っていただいた技術者には、非常にシンプルなテクノロジーを開発してもらっています。例えば、これは東ティモールの例なんですけれども、実際に地方において、東ティモールの方々、ご家族と一緒に過ごしていただきました。その結果、こんなに多くのアイディアが生み出されました。
ひとつのグループが考えだしたのがこのキックボードです。子どもが遊ぶこともできますし、そうしながら同時に発電をするということができます。そして水を運ぶということもできます。
また、もうひとつのチームは自転車を開発しているんですけれども、ワクチン製剤を保冷できる自転車ですね。これ以外にもいろんなアイディアが生まれ出しています。明日、六本木で最終的な成果物・製品を発表することになっているので非常に嬉しく思っております。
こういう材料は揃っているわけです。クリエイティブな環境があり、優秀な人々がいる。そしてこうした新しい共感がある。そして発明力というのもあり、革新的な発明を続けている。
このテクノロジーを、貧困に苦しむ方々、人災・天災に苦しむ方々に対して届けていく。それは、携帯のカメラの解像度が1メガが増えるということと、どちらが重要でしょうか?