2014年5月18日

考える生き方/finalvent

 finalvent氏の存在を知る
私はこれまでに、いくつものブログを作っては途中で放り投げてきた。でも、「文章を書きたい」という気持ちは消えず、懲りずにまた新しいブログを始める。新しいブログを作る時、なんとなく気分を変えたいので、今までに使ったことのない(無料の)ブログサービスを試してみたりする。

たしか2008年だったと思うが、また新しくブログを作ることになり、「はてなダイアリーって、どういう感じなんだろう」と思い、はてなダイアリーを使っている人のブログ(日記)を見て参考にすることにした。その時に、はてなブックマークの存在を知り、「多くのブックマークを集めているダイアリーを見れば早いな」と気づく。初めは自分が作る予定のブログの参考のために、はてなダイアリーを使っているブログ(日記)を見ていたが、目的が変化して、それ以外のブログも見るようになった。そして、はてなブックマークの常連である「finalventの日記」「極東ブログ」を知り、finalvent氏の存在を知った。

それからずっと、極東ブログを読み続けている。彼の政治・経済・海外情勢などの記事を読むようになって、新聞やテレビの時事ニュースに関心を持つようになった。書評も興味深く読んでいる(その本を買うまでには至らないが)。料理や、最近だと語学関連の記事には、あまり興味はないかな。

特に好きなのは、エッセイ風の記事。かつやの話とか、ハトとすれ違った話とか。クリスマス・ストーリーも好きだ。彼の感性やユーモアは、私と波長がとても合う。

いつしか、彼に勝手に親近感を抱くようになった。彼の私生活や過去について、漠然と想像したりもした。その人が、自分の半生を語った本を出すとなると、これは読まずにはいられない。

 負け組?
ブログでも見かけた記憶があるし、この本の中でも書かれているが、彼は自分の人生について「負け」とか「失敗」などと言う。そうだろうか?私はそうは思わない。「一ヶ月にのべ30万人くらいの人が閲覧してくれるが、ブログの世界ではそれほど有名なものではない」とあるが、いやいや30万人ってすごいじゃないですか。私のブログなんて、一日に一人でも来ればいいほうですよ。それに、きちんと内容のある文章ではないですか。少なくとも私には、ためになっている。

おそらく、彼は志が高いのだろう。著名な作家や評論家になりたかったのかもしれないし、世間に名を残すような仕事を成し遂げたかったのかもしれない(新聞やテレビで報道されるような)。たしかに、彼の学歴や知識からすると、もう少し有名になってもおかしくはない。

でも、私からすると立派な生き方をしてきたと思う。これまでに何度か転職をされたそうだが、どの仕事も手を抜くことはなく真面目に働いてきたことが伝わってくる。比較するのもおこがましいが、私の職歴はそれはもうひどいもので、だから彼の働いてきた道を立派だと思う。それに、立派に家族を養ってきたではありませんか。

 結婚・家族
彼のブログを数年間読み続けても、家族や私生活については謎のままだった。勝手に独身だと思っていた。料理が上手なのも独身だからではないかと(偏見かも)。だから、結婚していて、しかも子供が4人いるということを知り、少しだけ意外な思いがした。結婚という概念には囚われない人だと(勝手に)思っていたので。けれど、世の中、結婚している人のほうが多いのだろうから、別におかしくもなんともないですよね。

奥さんの実家が沖縄にあり、そこで子育てをしたそうで、だから過去に沖縄で暮らしたことがあるのかと腑に落ちた。仕事はフリーランスなので自宅でするから、自然と子供の世話もしたそうだ。子育てや家事を積極的に(しかも自然に)やっていて立派だなと思った。やっぱり、「負け」ではないですよ。

個人的なことを書くけれど、(おっさんである)私は未婚であり、付き合っている人もいないので、おそらく生涯独身の可能性が高い。恥をさらすけれど、今は友人もいない。一人も。10年ほど前に、たった一人の親友とも疎遠になった。孤独死も想像する。財産もないし、これぞ「負け組」。そういえば、だいぶ前からfinalvent氏のおっしゃるように「人生、失敗したなあ」と思うことがたびたびあった。アルバイトの面接の帰り、電車の中で自分の惨めさ・情けなさに涙があふれて止まらなかったこともある。この先、行き当たりばったりに生きてきた「逃げの人生」のツケを払わなければならないのだろう。

 頭髪問題
彼がTwitterを始めた時、プロフィール写真を見て、あることが気になった。なんで帽子をかぶった写真なのかと。失礼ながら、「ひょっとして、禿げているのかな」と直感的に思った(すみません)。そうしたら、本の中で禿げていることを告白されていた。変に納得しました(すみません)。

何で直感で気づいたのかと言うと、私もハゲだからです。そして、外出する時はほぼ一年中帽子をかぶっている。冬は寒いからかぶる。夏は日光よけと冷房対策でかぶる。ハゲ隠しでも何でもない。……正直に言うと、隠したい気持ちもゼロではないことを告白しておきます(他人にとっては、どうでもいい告白)。

本の中で述べられているけれど、ハゲは本人にとっては相当つらいことですよ。周囲の視線は気になるし、職場で「ハゲ」と陰口を言われていたこともある。道路ですれ違った見ず知らずの子供に、「ハゲだー!」と大声で言われた時はショックを受けたなあ。

私が禿げた理由は「脂漏性皮膚炎」。10代の終わりに後頭部に現れて、それが頭皮全体に広がっていった。そして20代後半に、頭髪が一度にごっそりと抜ける事件があった(自分にとっては、まさに事件)。ショックでしばらく外出ができなくなり、仕事も辞めた。数週間後、意を決してカミソリで残った頭髪を全て剃った。それで全てが吹っ切れたというわけではないが、少しは前向きになれた。幸い、私は剃った頭が似合うみたい(背が高ければ、もっと似合うだろうなとは思う)。前述のとおり、帽子をかぶるのが若干手間かもしれないが、床屋に行かなくても済むので楽は楽。夜、風呂に入る時に剃るのだが、もう慣れました。

 『こころ』の先生
現在、朝日新聞の朝刊で夏目漱石の『こころ』が連載されている。昔、教科書でほんの一部分を読んだ記憶があるが、最初から読むのは今回が初めて。

『こころ』に出てくる「先生」だが、まだ連載は始まったばかりなので私の認識は間違っているかもしれないが、この先生、なんとなくfinalvent氏に似ている気がした。『考える生き方』の中で夏目漱石について触れられているが、その部分を読む前からそういう気がした。知的で、世の中の喧噪とは距離を置き、優しく他人を受け入れてくれそうでいて、心の深奥には立ち入らせてくれない、ようなところが。

私がもっと若く、そしてfinalvent氏と(物理的にも精神的にも)もっと距離が近ければ、『こころ』の青年と同じように彼を「先生」と慕って、たとえ嫌がられても懐に飛び込んで行ったかもしれない。それは無理だと思うので、インターネットという限定的な空間ではあるが、そこで彼を「先生」、あるいは「人生の先輩」として、これからも陰で慕っていきたいと思う。

 finalvent氏
ブログで何度か、「自分は冷たい人間だ」というようなことをおっしゃっているのを見かけた記憶がある。大学院を辞める頃に離人症のようになったそうで、詳しくは分からないが本に書かれていることを読むと、それも理由のひとつなのかもしれない(私にも離人症っぽい傾向がある気もする)。

また勝手に書きますが、彼は冷たいというよりも、他人とはある程度の距離を意識的にとっている感じがする。ご自分のことを若干卑下する傾向が感じられ(謙虚さなのかもしれない)、「私のような人間には、あまり深入りしないほうがいいですよ」と予防線を張っているのかもしれない。もっとも、プライベートでは当然、深い付き合いはあるのだろう。

結婚のこともそうだけれど、仕事のこととか結構世間体のことを考えていらっしゃる。地位や名誉とは別にして、「立派な人間になりたい」という気持ちがあるのではないだろうか。「高潔な人間」といいますか。もっと自由な生き方を標榜している人だと思っていたので、新たな発見ではあった。

私は彼がブログに書かれていることを全て信用しているわけではない。誰にだって間違いはあるし(私なんて間違いだらけ)。でも、そういうものを超えて、直感的に「この人は信頼できる人だ」と思う。この本を読んで、その気持ちがさらに強くなった。

 考える生き方
彼は人生の転換期に、必ず「考える生き方」を実践してきた。学問、仕事、結婚、子育て、沖縄、裁判、病気、老い……。きちんと考えて生きてきたからこそ、知識や知恵が身に付いた。

私の人生を振り返ると、彼とは違い「考えない生き方」をしてきたと思う。だから、知識も知恵も乏しいダメ人間になってしまった。こういう本を中学生くらいの時に読んでいたらな……と思う。読んでいれば、人生設計を真面目に考えて、その後の進路は変わっていたかもしれない。まあ、自分の性格からすると、読んでも結局ダメだった可能性も高いですが。

私のことはさておき、『考える生き方』は若い人におすすめしたい。中学生・高校生あたりの人に。難しいことは書かれていない読みやすい文章なので、問題なく読めると思います。読めば、自分の人生や将来について考えるきっかけになります。私のように考えないで生きるより、考えて生きるほうが絶対にいいです。本当に。

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(感想というほどでもないですが、もう少しだけ。『ハイドライド』というゲームをよくやったそうで、このタイトルを聞いて私も懐かしくなった。私は持っていなかったけれど、友人がこのゲームにはまっていて、彼のプレーをとなりでよく見ていたことを思い出す。たしか、MSXのカセットテープ版だったか。ちなみに、その「友人」とは疎遠になった親友です。

あと、シモーヌ・ヴェイユの『工場日記』についても書かれていて、以前から私も読んでみたいんですよね。彼女と誕生日が同じということを知り(2月3日)、興味がわいて『ヴェイユの言葉』という彼女の文章のダイジェスト版みたいな本は読んだことがある。『工場日記』は、『シモーヌ・ヴェイユ選集 II』という本に収録されていて、書店で少しだけ立ち読みしたこともあるけれど、この本高いんですよね。とりあえず『工場日記』の部分だけ読みたいので、買うのは躊躇している)