驚くべき蛮行だ。学校から200人を超すキリスト教徒の女生徒が武装組織にさらわれた。

 この娘たちを奴隷として売り飛ばす。そう脅しつつ、収監中の仲間の釈放を求めている。

 アフリカ西部のナイジェリアで4月から続くこの事件に、世界の目が注がれている。

 組織の名は、ボコ・ハラム。「西洋の教育は罪」という意味だという。女性に学校教育は要らない、と唱える過激派だ。

 彼らはイスラム主義を掲げているが、イスラムの教えからは程遠い。誘拐だけでなく、爆破や襲撃も繰り返してきた。

 教育を受ける権利は平等であり、性別も国籍も宗教も関係ない。それは今の世界に共通する普遍の原則である。

 近年の紛争介入に及び腰だった米欧も素早く反応した。救出へ国際支援が集まりつつある。一日も早い帰還を願う。

 この多民族国家は長い内紛の歴史を抱えている。様々な抗争で、この15年間で2万5千人超の命が失われたとされる。

 テロは、この国の社会に深く巣くった病なのである。

 その背景にはアフリカの国々にありがちな構造がある。貧困と格差、そして腐敗だ。

 ナイジェリアには豊かな油田がある。だが、その恩恵はキリスト教徒の多い南部の特権層が独占している。イスラム教徒が多い北部はとくに貧しい。

 その反発から生まれた抵抗組織を政府は弾圧し、多数を警察が処刑してきた。それが報復の連鎖に拍車をかけた。

 そんな惨状に国際社会はどれほど関心を払ってきただろう。

 9・11テロ事件以来、米国がご都合主義の対テロ戦に終始した責任は重い。だが、アフリカ大陸への深い理解を欠いてきたのは、米国だけではない。

 アルジェリアで昨年、日本人10人が犠牲となる痛ましい人質事件が起きた。その背景には、この地域でのイスラム過激派の台頭があった。ナイジェリアの組織も無縁ではない。

 「地球最後の巨大市場」。アフリカは近年そう呼ばれ、安倍政権も中国に負けじと経済関与の拡大にかじを切る。

 その戦略を描くときに、アフリカ共通の難題である腐敗と人権軽視への取り組みが、どれほど意識されているだろうか。

 遠い国といえどもテロの温床を放置すれば、やがては地球規模で暴力が拡散する。それが9・11の教訓だったはずだ。

 格差と貧困の撲滅に向けて、もっと貢献の道を探れないか。それこそ「地球儀外交」「積極的平和主義」の名に値しよう。