[PR]

 社会福祉法人「ノテ福祉会」(札幌市)の対馬徳昭理事長(61)は、これまでに何度か社福を買ってほしいと持ちかけられた。

 「5億円を裏金でもらえないか。自分の社福をつくる時に5億円を寄付したので回収したい」。東京都内で特別養護老人ホームを運営する社福理事長はそう求めた。「退職金のために10億円を寄付してほしい」という誘いもあった。

 これらはすべて断った。「理事長がお金を回収できる制度ではない」からだ。譲渡するなら、別の社福に施設や財産を引き継ぐしかない。

 社福は篤志家らが土地などを寄付して設立し、理事長に就く場合が多い。土地などの財産の所有権は個人ではなく社福が持ち、会社のような株式もない。文字どおり福祉のために地域社会がみんなで持つ法人で、オーナーはいないのだ。

 しかし、一部の社福幹部の間では、運営をめぐって多額の金が飛び交う。

 「約束のやつ持ってきたばい」。そう言って、熊本市にある社福の幹部(56)が熊本市議(57)の事務所を訪れたのは、2006年8月7日だった。

 当時、市議は別の社福「桜ケ丘福祉会」(熊本市)の理事長を務めていた。幹部が市議のそばに置いた二重の紙袋には、1億500万円の札束がぎっしり詰められていた。

 前月末には「手付金」として2千万円も渡していた。合わせて1億2500万円。領収書をやりとりすることはなかった。

 「桜ケ丘福祉会の保育園を買わないか、と市議に持ちかけられた」と幹部は振り返る。金を払えば、義兄を理事にして保育園長に就かせる約束だったという。

 「義兄の息子も福祉の仕事がしたいと言っていた。将来、園長を継がせることもできる。安い買い物だと思った」。義兄とともに金を工面した。

 この年、義兄は園児約100人の保育園長になり、息子も副園長に採用された。だが、園長になって2年後、理事会で「2年間の任期付き園長」にされて10年夏に園を追われた。

 幹部は市議に対し、渡した金の返還を求める民事訴訟を起こした。市議は「受け取っていない」と主張して争ったが、昨年4月、金の受け渡しを認めて返還を命じる判決が確定した。

 判決では、市議が06年5月に桜ケ丘福祉会の理事長に就く時に1億円が動いたことも指摘された。就任に反対する理事に現金を渡し、辞めさせたという。

 市議は今は親族に理事長職を譲っている。朝日新聞の取材に「この件は終わりにしたい」と口をつぐむ。