西井泰之、北川慧一 加藤裕則
2014年5月19日07時51分
特別養護老人ホームや保育園などを多く運営する社会福祉法人(社福)を理事長が勝手に売り、多くの利益を得る例が相次いでいる。本来は福祉のための「非営利団体」で、個人が売買してはいけない。背景には、介護保険からの報酬や補助金をねらって社福を私物化する動きがある。
「3億円で理事長ポストを買わないか。何回かに分けて現金で払えばいい」
山口県下関市の会社社長(69)は2010年6月、横浜市の「朝日の里」の当時の理事長(75)からこう持ちかけられた。障害者施設などを運営する社福だ。
「もう年だし、やめるつもりだ」という理事長は、数億円にのぼる朝日の里などの預金通帳を見せてこう言ったという。「理事長に就いたら自由に使える」「理事を身内にすれば、理事長を引き継ぐという形で決められる。現金でもらえば売買は表に出ない」
この話は折り合わなかった。すると売却話は仲介者を通じて形を変え、東京都内の税理士と始まった。
「朝日の里への参入及び継承プロジェクト」。そう記す資料には3段階の売却シナリオが描かれている。
①税理士が理事長側の希望する土地を所有する②税理士は4千万円を払い、(理事長側は)法人の理事1人、評議員2人の職を提供する③税理士が最後に1億円を払い、(理事長側は)理事長と理事2人、評議員1人の職を提供する。
税理士は11年8月に理事になり、前後して6千万円が渡った。だが、その後の約束は実行されず、理事長になれないまま。そこで今度は税理士が金を回収しようと、社福の売却話を持ちかけて回っている。
当時の理事長はこう話す。「みんな同じ穴のむじな。いずれは売却したいという話を聞きつけ、金の臭いを嗅ぎ取った連中が群がってきた。自分は『3億円』とは言っていない」
理事長ポストを利用した社福売買は広がっている。インターネットでは、社福の運営権の取得方法を紹介するホームページもある。
関東地方の行政書士は売買に十数回立ち会った。今年、首都圏の社福が数億円で売られた際には買い手の代理人として現金を渡し、引きかえに理事全員から辞任届を受け取った。仲介料は売買価格の5%だ。
「社福は介護報酬などの収入があり、財産がたまる。施設建設には補助金が出て、税金もかからない。買い手は多い」と言う。(西井泰之、北川慧一)
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朝日新聞社会部
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