そもそもポジティブ心理学って何?
宇野:ポジティブ心理学、と言いますと、良い意味でも悪い意味でも「ポジティブ」という言葉の持つ力に引っ張られがちで、本質的なところが結構理解されにくいようです。あと、この点は残念ながらちょっと軽視されがちな風潮があるようなのですが、ポジティブ心理学は所定の心理学の方法論に基づく、れっきとした学問分野です。ただ、とにかく包括範囲が広く、加えて応用ともなりますとさらに裾野が広くなりますから、ともすれば「ポジティブであれば何でもアリ」的な状況と見分けがつかなくなっていることが懸念されています。それはともかくとしまして、実際、どのような心理学なのか、いくつか質問させていただきながら進めていければと思います。もしも坂田さんが、職場の同僚たちが昇格していく中、自分だけ昇格できない状況があったとすると、どんな心境になると思われますか?
坂田: そうですねぇ、まずは何が原因かを考えますね。自分の実力の問題か、評価基準の問題か、評価する側に問題があるのか。もしくは評価は人間がするものなので関係性など感情が影響していないかなど複合的に捉えるかと思います。ただ、評価されてないときに、相手が悪いと考えても改善しようがないので、基本的に何事も自責で考えるようにしています。あと、あまり短絡的に捉えないようには心掛けています。「たゆたえど沈まず(Fluctuat nec mergitur.)」というパリの標語があるのですがこの言葉が好きで。良いときもあれば悪いときもある。だけど、沈まずにやっていったらいいくらいに考えています。
宇野: なるほど、坂田さんは非常にバランスの良い考え方をなさるタイプのようですね。中には、「なぜ昇格できないのか?」と原因を探ろうとして、これはちょっと坂田さんの「基本的に何事も自責で考える」とは意味合いが違うのですが、原因をいつも自分にばかり求めてしまうタイプの人や、逆に他人や周囲の状況にばかり求めてしまうタイプの人がいます。しかし、両者のバランスに偏りがあると、現実を正しく認識しているとはいえないことがあります。まさに、短絡的では現実と折り合いがつかないわけですね。ポジティブ心理学では、楽観性や柔軟性などを体得することで、「窮地にあってもうまくいっていること、あるいはうまくいけそうなこと」に注目できるような思考トレーニングを行います。昇格できないという現実がある、けれどもその現実の受けとめ方次第で、次なるステップはいかようにでも変わってくることがあります。
坂田: そうですね。受けとめ方次第で状況はいかようにも変わりますからね。あまり感情的にならず、頭の上あたりから自分を見つめているくらいがちょうど良いのではないでしょうか。チャールズ・チャップリンも「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である。」って言っていますしね。だいたいあとから見たらこんなくだらないことに悩んでいたんだっていうことばかりですよね。
宇野: ポジティブ心理学は、何が人生を生きる価値のあるものにするのかとか、何が個人や社会を最高最善の状態で機能させるのかといったテーマを科学的に探究する学問です。基本的に、わたしたちが生きる中でうまくいっている部分に注目して、それを研究対象とします。ポジティブ心理学が前提としているのは、人間の心の病が実在するのと同じくらい、人間の善良さや優秀さも存在するという考えです。今までの心理学が、人の心の病を治すための研究で病理学的に大きな成果を収めてきたように、ポジティブ心理学も人がより良く生きていくための研究を促進していけるのではないかと。いわば、従来の心理学を補完する発想から生まれたのがポジティブ心理学ということになりますが、より良く生きていくすべを身に付けておくことで、病気の予防にもつながる可能性が高まります。