認知症:女性7年間不明…館林市、生活費請求せず
毎日新聞 2014年05月16日 21時06分(最終更新 05月17日 10時40分)
東京都台東区の認知症の女性(67)が2007年に群馬県館林市内で保護され、今月12日まで身元不明のまま民間介護施設に入所していた問題で、館林市は16日、これまでかかった7年間の生活費を女性側に請求しない方針を決めた。市は「認知症に起因し、社会全体で考えるべき問題。人道的見地から、請求すべきでない」と判断し、特例措置を示した。【尾崎修二】
◇1000万円「人道的配慮」
市や入居していた介護施設などによると、女性は身元不明状態だったため、仮の名前で住民票が作成された。収入や資産がないものとして、生活費や介護費用は生活保護で賄われてきた。7年間の費用総額は1000万円以上とみられる。
生活保護受給者に無申告の資産や年金があることが判明した場合、その分の保護費は返還を請求されるのが一般的。館林市は「認知症の人が増え続け、今回のことはこれからも起こりうる深刻な事例」として慎重に対応を検討していた。
市は、7年前に女性を保護した経緯について、「人命を守るのは当然の責務。人道的見地から施設入所措置をした」と総括したうえで、かかった経費を請求しない方針を決めた。全国的にも前例がないため、今後、女性の資力などを確認し、国や県と協議したうえで正式に決定する。
市の担当者は「資力が判明した場合に返還を求めるのは本来の形ではあるが、今回は別の話。ましてご家族は7年ぶりに再会したばかり」と話した。
◇難しい判断、「特例」強調
高齢化社会を迎える中、群馬県館林市のようなケースは今後増えることが予想される。だが、保護中の生活費が請求されないとなれば、いなくなった認知症患者を家族が熱心に捜さないというような事態も懸念され、自治体は難しい判断を迫られそうだ。
市は、生活費を請求しない判断について、人道的見地からの「特例」を強調する。女性は本名が言えず、群馬県警が「迷い人」として全国の警察に手配する際、下着に書かれていた名前を間違って記入した。このため、家族から家出人届があったにもかかわらず、身元の判明が遅れたという事情もあった。
さらに、女性の家族が生活費を請求される可能性が報道されると、市には苦情や問い合わせが相次ぎ、市の業務に支障が出た。「火消し」のため、国や県との調整が終わる前に、方針表明を急いだ面もあるという。