【一喜一憂している暇は無い】
福島県は5月12日、ホームページに見解を掲載した。
「『美味しんぼ』の表現は、福島県民そして本県を応援いただいている国内外の方々の心情を全く顧みず、深く傷つけるものであり、また、本県の農林水産業や観光業など各産業分野へ深刻な経済的損失を与えかねず、さらには国民及び世界に対しても本県への不安感を増長させるものであり、総じて本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず、極めて遺憾」
7日には発行元の小学館に対し「偏らない客観的な事実を基にした表現とされますよう、強く申し入れます」などと申し入れている。
「佐藤雄平県知事の出したコメント以上でも以下でもありませんよ。こちらから積極的にコメントするべきことでも無いですし」
JR新日本橋駅近くにオープンして1カ月が経った「日本橋ふくしま館-MIDETTE(ミデッテ)」。運営する福島県観光物産交流協会の男性職員は、うんざりした表情で話した。
「福島市内には妻も息子も住んでいますし、私もこれまで生活して来て鼻血など出たことがありません。もちろん、作家の方は取材して描いたのでしょうけど。正直なところ、こういうことに一喜一憂している暇は無いんですよ。不安な人は福島から離れていただくしか無いわけで…」
そして、次のように語って締めくくった。
「もうウンザリなんですよ。復興に向けて歩き出すと、こういう話や汚染水の話が出てくる。ちっとも前に進めない」
吐き捨てるような言葉。奇しくも福島市役所の職員が語った内容とほぼ同じだった。
(風評払拭を目的に4月にオープンした「日本橋ふくしま館(MIDETTE)」では、福島県産の米や野菜、日本酒などを販売している=東京都中央区日本橋室町)
【放射性物質の拡散は事実】
「ミデッテ」の女性スタッフは、いわき市出身。「ここで販売している商品はすべて検査を受けていますから、ある意味日本一安全ですよ」と笑顔で話した。「福島の生産者がどれだけ苦労をしてるか…。向こうのスーパーで働いていた時は、放射性物質を含んでいる恐れがあるからと陳列寸前に回収され、廃棄処分された野菜もありましたからね。そのくらい一生懸命に取り組んでいるんですよ」。
しかし、今回の騒動のように汚染や被曝の危険性を伝える表現を「風評だ」と封じるような動きには反対だとも強調した。
「原発事故で放射性物質が降り注いだのは事実ですよね。だから本当のことを伝える必要があります。『美味しんぼ』は、あれはあれで良いと思う。鼻血が出たのも事実なのでしょう。本当のこと、事実を伝えて、その上でどうしていくかを考えないと。原発は日本全国にあるんです。福島の事故は他人事ではないんです。次にあのような事故が起きてしまったら、日本は終わりですよ」
だからこそ目の前の現実から目を逸らしてはいけない─。
「福島で暮らす人々が一番、冷静なんじゃないですか。県外の人々ばかりが騒いでいる感じ。だって、福島では今日も日々の暮らしがあるんですから」
【民の声新聞】