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2014-05-18

舞台 わたしを離さないで : NEVER LET ME GO(ネタバレ)

 友人に誘われて舞台「私を離さないで(原題:NEVER LET ME GO)」を見に行った。

 かなり昔に約束してしまって、本当は最近急に忙しくなってしまったから、埼玉まで舞台を見に行ってる暇なんかないんだけどな、と思いつつも行ってしまった。



 結果的にいい気分転換になったし、そのおかげでひとついいアイデアを思いついたので、結果オーライではあったけど。


 この舞台はカズオ・イシグロの原作小説をもとに、蜷川幸雄が演出した舞台で、主演は多部未華子

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 既に2005年の小説だし、2010年にはキーラ・ナイトレイ主演で映画にもなっているから、ネタバレしても平気だろう。けど、嫌な人は以降は読まないで下さい。


 主人公はヘールシャムというエリート校で学ぶ女生徒、八尋(やひろ)。

 人並みに恋をしたり、遊んだりしながら青春を謳歌するが、彼女達と接する先生方・・・保護官と呼ばれる・・・はどこかおかしい。



 しかし青春を精一杯満喫する八尋と、その仲間たち。そして彼らの青春は意外な方向へ展開して行く。



 この物語のテーマは大きくわけて二つある。

 臓器移植と、クローンだ。


 クローン人間もの、というテーマは「ルパンvsクローン人間」を始めとして数多い。「スターウォーズ エピソードII」もクローンものと呼んでもいいかもしれない。なにしろクローン戦争だし。


 僕がクローン人間ときいてまず思い出すのは、「地球防衛群テラホークス」のナインスタイン博士だ。

 ナインシュタイン博士は地球防衛群テラホークスを率いる指揮官で、よく最前線に出て行って死んだり、暗殺されたりする。


 そして暗殺される度に、全世界に散っている九人のナインスタイン博士のクローン人間がテラホークスの司令部に呼び出され、ナインスタイン博士の前日の記憶を上書きされて、再びナインスタイン博士として総司令官となる、という設定だった。


 クローン人間といえど、それぞれが医者や弁護士など立派な仕事についており、それが宿命とはいえそうしたそれまでの人生を全て喪ってナインスタイン博士の人格を維持するとは、どれだけナインスタインという人格に頼り切ってるんだ地球防衛群は、という気もしなくもないが、主人公でもある司令官が良く死ぬという物語はかなり斬新だったので良く覚えている。


 死亡したナインスタイン博士のかわりに色んなナインスタインがやってきて記憶を上書きされるシーンは子供心に、「これはそれまでいきていた弁護士なり医者なりのナインスタイン氏の死を意味するのではないのか、この人たちはなんでこんなに平然と自分の運命を受け入れてしまうのだ」と衝撃を受けた。


 冷静に考えれば、わざわざ遠くから呼び寄せて同じ人物を司令官にする必要もないわけで、そもそも殺されるなよという話でもある。


 クローンものは、まず自分そっくりの人間が存在してしまう、という驚きからギミックとして使われることが多いが、本作「わたしを離さないで」におけるクローン人間は、そうした過去の「クローンもの」に比べると、かなり性質が異なる。

 


 舞台は臓器移植によって癌を克服してしまった近未来。

 人々は、より多くのドナー(臓器提供者)を必要としていた。


 しかし、臓器移植が発達すれば、死亡者が格段に減る。ドナーとなる人間が足りなくなれば、創りだすしかない。

 そのため、クローン人間が量産された。

 多くの施設ではクローン人間は人間としての扱いを受けずに育ったが、ヘールシャムはクローン人間も人間として立派に育てるべきだとの信念で教育を施し、生徒たちに社会的使命としての臓器提供を教える一方で、芸術作品を作らせる。なぜ?なんのために?


 それが物語の核心となる。


 設定そのものは、2005年の映画「アイランド」と被る部分もある。

アイランド [DVD]

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 しかしアイランドが設定の面白さを物語の面白さに繋げるのに失敗し、単なるアクション映画として仕上がる一方で、「わたしを離さないで」は物語そのものが訴えるテーマにこそ深い意味がある。アイランドは映画を意識したため、設定が少々突飛で、あまりリアリティがないが、本作には底知れないリアリティがある。


 そしてもしかするとこれから我々人類が迎えるシンギュラリティ(技術的特異点)後の世界とは、本当にそのような世界になるかもしれないのだ。


 いまや臓器移植の有用性は誰もが知っている。

 臓器移植の提供者(ドナー)を待つ人々も大勢が列をなしている。

 臓器移植さえすれば助かると解っているのに、肝心の臓器提供者が見つからない時、人はいつヒトのクローンに手を出すかわからない。クローンならほぼ確実にHLA血液型が合致するからだ。そのように遺伝子操作したクローンを産み出すことすら可能かもしれない。いま、ヒトのクローンは法律で禁止されてはいるが、第三世界でなら可能だろう。

 

 ヒトの欲望は止まる所を知らない。

 特に、生への執着、死を畏れる心を、否定できる人間はどこにもいない。

 たとえば子供が産まれた時、もう一人クローンを作っておけば、彼が成長して重要な器官を喪った時にバックアップができる。遺伝子由来の病気はクローンでは解決不能だが、造血細胞の異常などはなんとかなるかもしれない。


 しかしそうしたクローンはあくまでもバックアップであり、バックアップのためのクローンを人間扱いしたとすれば、どちらがホンモノかわからなくなってしまう。従ってクローンに対する差別は、人類がこれまで人間に対して行ってきた数々の差別の中でも最大級のものになるだろう。


 それが本作の大きなテーマで、見終わった後に深く考えさせられるポイントでもある。

 ここまでネタバレしても舞台を見たらそれはそれで面白いと思うので、もし興味を持った方は是非ご覧になっていただきたい。


 東京公演は終わってしまったけど、名古屋、大阪でもやるみたいだ。

わたしを離さないで | ホリプロ オンライン チケット