「週刊ビッグコミックスピリッツ」の人気連載漫画「美味(おい)しんぼ」の表現が物議を醸している。
東京電力福島第1原発を訪れた主人公らが流す鼻血を、被ばくと関連づける表現などがあり、「風評被害を助長する」との批判が出ている。波紋は福島県にとどまらず、政府の関係大臣にまで及ぶ。
除染が一段落した自治体では住民の帰還を進めている。重要な時期であり、復興の妨げになることを恐れる気持ちは分からないではない。事故を題材にする以上、どんな媒体であれ、表現に配慮や注意は必要だ。
一方、放射能の影響を恐れて避難を続ける人もいる。漠然とした不安が多いのは、人体への影響を判断する情報が乏しいからであろう。漫画の表現を批判して済む問題なのか。
漫画は、主人公の新聞社の記者らが第1原発を見学し、東京に戻った後に疲労感を訴え、鼻血を出す設定だ。先月28日発売号では、井戸川克〓・前福島県双葉町長が「私も出る」「福島では同じ症状の人が大勢いる」などと発言している。
続く5月12日発売号では、前町長が原因を「被ばくしたからですよ」と語り、「福島に住んではいけない」と話す。福島大の荒木田岳准教授が「福島がもう取り返しのつかないまでに汚染された、と私は判断しています」と語る場面もある。
作者の雁屋哲氏は第1原発敷地内を取材しており、自ら体験したことに基づいているとみられる。主人公を診察した医師が「福島の放射線とこの鼻血とは関連づける医学的知見がありません」と指摘する場面もあり、偏った内容にならないよう、作者なりの配慮がうかがえる。
漫画「はだしのゲン」の閲覧制限騒ぎを思い出す人もいるだろう。原爆の悲惨さを描き、中国戦線での日本軍の蛮行などにも触れる内容で、教育現場から排除しようとする動きがさまざまな形で続いた。
福島では、除染の範囲や除染をどのレベルまで行うかなどについて、今もいろいろな意見がある。
復興に当たる自治体が漫画の表現を心配するのは分かるが、行き過ぎると自由な表現を萎縮させる恐れがあり、弊害の方が大きい。
情報の出し渋りや都合の悪い事実隠しこそが、復興の妨げになる。
放射能を理解する知識や情報の重要さを、あらためて思う。
※〓は隆の生の上に一
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