日経ビジネスは5月19日号の特集「さらば使い捨て経営〜『正社員化』だけでは解決しない」で、人手不足の深刻化を背景に、問題が噴出する非正規雇用を取り上げた。「ブラック批判」を浴びる一部の企業にとどまらず、業種を超えた様々な企業で人材確保が困難になりつつある。本コラムでは、特集誌面には収めきれなかった企業の動きや経営者・識者のインタビューなどを紹介する。
第一回は、営業時間の短縮や休業する店舗が相次いだ牛丼大手「すき家」を取り上げる。アルバイトなど関係者の証言から勤務の実態に迫った。
「パワーアップ工事中」。4月下旬の土曜日の午後6時、東京都品川区にある総合スーパーのフードコートで、1店舗だけ閉店している飲食店があった。牛丼大手「すき家」の店舗だ。夕食時で混雑しており、同じフードコートに入居する「マクドナルド」「リンガーハット」「はなまるうどん」「築地銀だこ」には、軒並み行列ができていた。そんな中で周囲を壁に囲われて休業するすき家の異様さは際立っていた。
突如、すき家が閉店する。同じような光景は、日本各地で見られた。4月中旬の午後7時、東京都世田谷区にあるすき家の桜新町駅前店を訪れたところ、電気が消えて閉店していた。「本日の営業は終了いたしました。申し訳ございません」という紙が入り口のドアに貼り出されていた。本来は年中無休・24時間営業の店舗だ。
すき家を運営するゼンショーホールディングスによると全国に約2000店舗ある中、閉店しているのは5月14日時点で184店舗。全体の1割弱に当たる。通常では考えられない数の大量の店舗が、同時に店を閉めている。
異常事態はなぜ起きたのか。一番の理由は人手不足だ。すき家では、今年3月以降、アルバイトが辞めるケースが目立った。きっかけとされるのが、2月から提供を始めた「牛すき鍋定食」だ。
牛すき鍋定食の価格は税込みで580円。牛丼(並盛で税込み270円)より2倍以上も高い。牛丼がライバルとの価格競争に悩まされる中、客単価アップにつながると考え、すき家の経営陣は導入を決めた。