2014-05-18 遠くの地にあって思う
■[ロシア][咲-Saki-][言語]グルジア語の人名から考えるネリー・ヴィルサラーゼ
グルジア語はちっともわからず文字をいくつか読めるだけだけれど(能格とかわかるか!),ネリーちゃんの設定が出揃わないうちに妄想を書き連ねてみる。なお,この論の骨子は,4ヶ月前に「少女たちは,楽しむために上京する――『咲-Saki-全国編』第1話「上京」感想」で発表したが,感想記事に紛れた所為かちっとも反応がなくて悲しかったので改訂の上改めてうp。これで反応がなかったら泣く。
『咲-Saki-』には多くの外国人選手が登場するが,なかでも異彩を放っているのが「サカルトヴェロのヴィルサラーゼ」として紹介されたネリー・ヴィルサラーゼだろう。グルジア人の萌えキャラが出て来る漫画が過去あっただろうか。ちなみにサカルトヴェロとはグルジアのグルジア語での呼び名で「カルトヴェリの国」を意味する。「カルトヴェリ」はグルジア語で「グルジア人」のこと。なお「グルジア」はロシア語Грузияに由来する他称で,グルジアは「ジョージア」と呼べと主張していたこともあったが,自称である「サカルトヴェロ」と呼べ,というのならともかく(それなら従うのが礼儀だろう),ロシア語読みではなく英語読みにしろ,というのは反ロシアをこじらせた結果であるように思うので,日本語話者がそれに付き合う義理は毛頭ないと判断し,以下では日本語における慣用表記である「グルジア」で統一する。
さて。ネリーちゃんの苗字である「ヴィルサラーゼ」を見て,「〜ゼ」ってグルジアっぽいな,と思ったあなた,その感覚は正しい。「〜ゼ」(-ძე; -dze)は,「〜シュヴィリ」(-შვილი; -shvili)と並んでグルジアで最もよく用いられる苗字の語尾である。というか,以下で挙げるマイナー苗字を除けば,ほぼ全ての苗字がこの2つの語尾で終わると言っていい。-dzeは「〜の息子」を,-shviliは「〜の子供」を意味し(要するに父称に由来する苗字である),前者が西部,後者が東部を中心に分布する。このことから,ネリーの家系は西部の出であることがわかる。
ちなみにグルジアでは,苗字の語尾はこの2つのほかに,「〜イア」(-ია; -ia)や「〜アニ」(-ანი; -ani),「〜ウリ」(-ური; -uri)がある。「〜イア」は北西部のアブハジアとの国境地帯に住むメグレリ人に特徴的な苗字だ。メグレリ人は「グルジア民族」の一部とされているが,標準グルジア語とは言語系統こそ同じものの意思疎通が著しく困難なメグレリ語を話す(ただし文章語として確立されているわけではない)。ソ連崩壊後にグルジアの初代大統領になったズヴィアド・ガムサフルディアは,首都トビリシ出身だがメグレリ系。メグレリ人は,マイノリティの例に漏れず熱烈なナショナリストを多く輩出しており,ガムサフルディアもその一人だ。「〜アニ」は北西部のスヴァネティ地方に住むスヴァン人にみられる。スヴァン人もメグレリ人と同じく,公式には「グルジア民族」に含まれるものの,独自の文化を有していて,上スヴァネティ地方の文化的景観は世界遺産リストに登録されている。「〜ウリ」はWikipedia先生によると東部に特徴的らしい。
さて,ネリーの名前における最大の疑問は「ネリー(Nelly)」というそのグルジア語っぽくない名前である。ぶっちゃけ雰囲気とか綴りとかがすごく西欧っぽいと思うのだがその辺どうだろうか(もしもグルジア語にそういう名前があるのならごめんなさい)。この辺から妄想を逞しくすると,彼女はひょっとしたらアメリカかどこかのグルジア人移民(あるいは亡命者)の出戻りなのかもしれない。グルジアは貧しく,またソ連に組み込まれていたことから,歴史的に移民や亡命者の送り出し地域で,たとえば米軍統合参謀本部議長を務めたジョン・シャリカシュヴィリ将軍などが有名だけれど,それらの移民の中にはソ連崩壊後グルジアに出戻って政府の要職に就いたりする人もいる。たとえば,亡命者の娘で,フランスで出生しフランスの駐グルジア大使を務めるも,サアカシュヴィリ大統領から一本釣りされてフランス国籍を捨て外務大臣に就任したサロメ・ズラビシュヴィリなんかが有名だろう。ネリーちゃんもそういう家系の出なのかなあ,とか考えると捗りますね。守銭奴設定もこの辺から説明つくんじゃないだろうか。
グルジア語の人名のロシア語表記を見ていると父称がくっついていることがままあるのだが,グルジア語表記を見る限りではついていないので,あくまでこれはロシア語で表記する際の慣用と判断した方が良いように思う。この辺,ロシアから導入された父称をテュルク化された形で取り入れているように見える中央アジアの諸民族と比較すると面白い(たとえば,カザフスタン初代大統領ヌルスルタン・ナザルバエフの娘ダリガの名前のカザフ語表記を見ると,ダリガ・ヌルスルタンクィズィ・ナザルバエヴァ[Дариға Нұрсұлтанқызы Назарбаева]になっていて,ロシア語表記では「ヌルスルタノヴナ」[Нурсултановна]となっている父称の語尾がテュルク諸語の「娘」に置き換えられていることがわかる)。ネリーちゃんはロシアでは父称つきで紹介されている可能性が微レ存……?
グルジア語は割と最近入門書が出たので,勉強しようと思えば勉強できます。ネリー好きのみんな,グルジア語にチャレンジだ!
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