日本糖尿病学会抄録(2014)「糖質制限食で腎機能悪化?」への反論
こんにちは。

精神科医師Aさんから
日本糖尿病学会抄録(2014-5-22)「糖質制限食で腎機能悪化?」
という情報をコメントいただきました。
検討してみます。
林勝さん、はなもとさんからもコメントをいただきました。
ありがとうございます。


さて、CKDガイド2012以降は
eGFR60ml以上あれば、タンパク制限の必要なしです。
症例1は、eGFR:85 、症例2はeGFR:66です。
従って、日本腎臓病学会に従えば、 タンパク質制限の必要はなしです。

私が日常で経験する症例においても糖質制限食関係なく、
軽い脱水など様々な要因でクレアチニン値が
症例1、症例2程度に変動する症例は時々経験します。
糖尿病の人でもそういうことがありますし、
高血圧での腎障害の患者さんでもあります。
60才以上の人では、若い人に比べてクレアチニン値が変動しやすいです。

林さんやはなもとさんも指摘されているように、
「こういう症例があった」という程度の中立な報告が妥当です。
「低炭水化物食は高蛋白食となり、腎機能が悪化したと考えられた。」
という結語は短絡的であり、無理があります。
症例報告も興味深いのですが、到底そう簡単に因果関係を断じることはできないのです。

evidence based medicine(証拠に基づく医学)→略してEBM
EBMが現在、医学界を席巻しています。
EBMだけに頼る医療には、明確に限界があります。
一方、EBMを無視する医療にも、明確に限界があります。

医学界において、evidence(エビデンス、証拠、根拠)となるのは、
基本的に医学雑誌に掲載された論文です。

ニューイングランド・ジャーナル、ランセット、米国医師会雑誌など、
定評ある医学専門誌に掲載された論文であることも、e
vidence(エビデンス、証拠)の大きな要素となります。

その論文も

①無作為割り付け臨床試験(RCT)
②前向きコホート研究
③コホート内症例割り付け研究
④後ろ向けコホート研究
⑤症例対照研究
⑥地域相関研究
⑦時系列研究
⑧症例報告
⑨実証的研究に基づかない権威者の意見

といった順番で、信頼度に差をつけられています。
これを研究デザインのヒエラルキーと呼ぶそうです。

RCT研究論文の場合、さまざまな不確定要素や偏りが少なくなるので
信頼度が高いとされています。

これに対して、症例報告は信頼度は8番目であり、
さまざまな不確定要素や偏りが多い研究デザインなのです。
この症例報告が論文になったとしても
EBM的には信頼度は低いのです。

EBM的に信頼度が高く意味があるのは
①無作為割り付け臨床試験(RCT)
②前向きコホート研究
までとなります。

なお症例2においてグリペンクラミド(オイグルコン)が使用されています。
グリペンクラミド(オイグルコン)は心筋障害のリスクが明白であり、
使用禁止にするのが妥当なSU剤です。
前医で処方されていたのか、日大でも継続使用されたのかはわかりませんが、
即、使用中止すべき薬剤です。


江部康二


【14/05/16 精神科医師A
糖質制限食への反論
日本糖尿病学会抄録(2014-5-22)

Ⅰ-P-362
低炭水化物食が腎機能を悪化させたと考えられた2型糖尿病の2症例
岡本真由美、江頭富士子、東海林 忍、山口賢、荒井 秀仁、小須田 南、石原 寿光

日本大学医学部内科学系糖尿病代謝内科学分野

はじめに:低炭水化物食が流行している。炭水化物(以下C)を減らせば蛋白質(P)脂質と(F)制限が不要だがP負荷が腎機能悪化を招く。低炭水化物食を患者自身が導入し、腎機能が悪化した2例を報告する。

症例1:69歳男。64歳30%超速効型インスリン導入。低炭水化物食(C90g,P100g,F125g)開始3か月で体重-5kg、HbA1c 8→6.9%、総インスリン量26→16U、尿蛋白+→3+、Cr 0.7→0.9mg/dl。糖尿病腎症透析予防指導(C260,P80,F50)を行い、2か月間で回復した。

症例2:62歳男。高血圧合併。グリベンクラミド2.5mg、シタグリプチン50mg。低炭水化物食(C80g,P90g,F170g)開始3か月で下腿浮腫出現。HbA1c 8→6.8%、尿蛋白+→4+、Cr 0.9→1.2mg/dl。入院で糖腎食(C290,P50,F50)に変更し、尿蛋白は10.2→3.5g/日に改善したが、Crは不変であった。
結語:低炭水化物食は高蛋白食となり、腎機能が悪化したと考えられた。】


【14/05/17 ドクター江部
Re: 糖質制限食への反論
精神科医師A さん

CKDガイド2012以降は
eGFR60ml以上あれば、タンパク制限の必要なしです。

症例1は、eGFR:85 、症例2はeGFR:66です。

私が日常で経験する症例でも糖質制限食関係なく、
軽い脱水など様々な要因でクレアチニン値が
症例1、症例2程度に変動する症例は時々経験します。

症例報告も貴重ですが、簡単に因果関係を断じることはできないと思います。】


【14/05/17 林勝
Re: 糖質制限食への反論
「糖質制限への反論」というタイトルですが、発表内容「低炭水化物食が腎機能を悪化させたと考えられた2型糖尿病の2症例」は「反論」になっていないと思います。
低炭水化物食が腎機能を悪化させるリスクがあるとしても、高炭水化物食にだって血糖の変動に伴うのリスクがあるからです。リスクをはかる指標を尿蛋白だけに限定し、別のリスクを排除して、物事の正否は判断できません。この症例結果は中立に扱うべきです。
糖尿病で腎障害が進んでしまった患者にとっては、どんな食事の仕方をしようとも多少のリスクを伴うわけで、食事の仕方によってそれぞれ生じるリスクを相対的に比較しないと結論はでないはずです。
この症例発表は、もともと食事評価の難しい患者の一面的な生体指標をとらえただけにすぎず、そのたった2例が示唆する可能性をもって、全ての患者の糖質制限への「反論」とすることは、相当な無理があると言わざるを得ません。

林勝拝 】


【14/05/18 はなもと
Re: 糖質制限食への反論もどきは、偏向かつ主観的
林さん

> 低炭水化物食が腎機能を悪化させるリスクがあるとしても、
> 高炭水化物食にだって血糖の変動に伴うのリスクがある
> からです。リスクをはかる指標を尿蛋白だけに限定し、
> 別のリスクを排除して、物事の正否は判断できません。
> この症例結果は中立に扱うべきです。

私も、そう思います。糖質制限で
  (1) 腎機能が悪化した、と彼らは主張するが
  (2) それ以外は、どうなのか?
このうち(2)を無視して、(1)だけ取り上げ騒ぎまくるのは、科学的態度とは、言えませんよね。バイアスがかかってる。稚拙。

さらに上記(1)の「腎機能悪化」の指標からして怪しい。
  ・Cr 0.7→0.9mg/dl
   これは騒ぐほどの「悪化」ではない。69歳男で血清
   クレアチニン0.9なら「正常または軽度低下」です。
   http://j-ckdi.jp/ckd/check.html
  ・尿蛋白+→3+
   これに至っては、試験紙の色の変化を人間が「主観で」
   判断してるだけなので、その人間が糖質制限に反対なら、
   この手の「主観的マーカー」の判定は、どうにでもなる。
    同様の問題は、あの バルサルタンARB問題でもあった。「
   エンドポイント判定の主観性」という問題です。桑島巌先生
   や池田正行先生によるご指摘です。
     http://www.amazon.co.jp/dp/4022734345/
     http://square.umin.ac.jp/massie-tmd/clnjc.html#peten3
    日大医学部は、京都府立医大や慈恵と、同じ手口を
   使っている。そう考えても、おかしくありません。
    しかも試験紙は捨ててるでしょうから、事後的な外部監査も
   不可能です。その意味では、京都府立・慈恵より、悪質です。

総じて、今回の Nichidai Renal Study は、Kyoto / Jikei Heart Study と同様、かつ小規模な「お研究」だった、と言えましょう。

林さん、こちらの本は、お持ちですか? p127-132に上記の「主観的エンドポイント」問題が明快に解説されています。それも含め、p118-134が参考になる。縦書きの新書本なのに、驚くほど良書でした。
   http://www.amazon.co.jp/dp/4022734345/

なお腎機能の評価指標としては、通常、
  ・血清クレアチニンより、血清シスタチンCかL-FABPがベター
  ・尿蛋白より、尿中アルブミンが、かなりベター

今の流行は、L-FABPです。科学論文でも利用例が増えていますし、検査が保険収載されましたので、臨床現場でも利用が広がってるはずです。

日大って、遅れてるんですね。
糖尿・腎症なら日大「以外」が鉄則だ、と言えそうです。】
コメント
日大医学部とエイズ薬害の共通点
先生

> グリペンクラミド(オイグルコン)は心筋障害のリスクが明白
> であり、使用禁止にするのが妥当なSU剤です。

これは最低ですね。

無知なお爺さんを騙し、変な薬を売りつけ、患者に心筋障害を強いる。こんなことがあって、良いんでしょうか。

本件については、他の医師もおっしゃってます。たとえば、
 (1)内科医のノート(N. Ishizuka先生)
      http://diabetologistnote.blog119.fc2.com/blog-entry-424.html
   「Preconditioning ischemia
    心筋に短時間の虚血があると、引き続き起こる虚血に
    耐性になる。短時間の心筋虚血で、グリベンクラミドが
    コントロールに比べ、ischemic preconditioning
    を阻害することが示された。3)」

この「3)」というのは次の論文。なんと1994年物です。上記「コントロール」はプラセボです。
  http://circ.ahajournals.org/content/90/2/700.abstract

だからこそ日本の医学会ですら、遅まきながら2009年ごろから、グリベンクラミドから、せめてアマリールへの変更を進めてきた。
  (2) 昭和大・平野勉先生の講演録
  http://medical.nikkeibp.co.jp/all/special/sa/amaryl/6-2.html
 「これまでの研究で、心筋梗塞などにより冠動脈が突然閉塞
  する前に、一時的でも狭心症のような虚血状態があると
  心筋梗塞発症時の梗塞巣が縮小することがわかっており、
  これは虚血プレコンディショニングという概念として知られる。
   心筋のSU受容体に親和性が高いタイプのSU薬は、
  虚血プレコンディショニングを抑制して心筋障害を助長する
  可能性が指摘されているが、「第三世代のグリメピリドは
  第二世代SU薬に比べ心筋のSU受容体への親和性が
  低いため、そうした懸念には及ばない」と平野氏は指摘する。
   実際、ラットの単離心筋細胞を用いた検討で、グリメピリドは
  グリベンクラミドに比べてKATPチャネル開口の阻害活性が
  低いことが報告されている」

要するに、心筋障害の危険度において

  グリベンクラミド > アマリール > プラセボ

もちろん、第3世代のアマリールとて完全に安全とは言えない。

だから上記(2)の前半部分にもあるように、欧米の糖尿病学会(ADAとEASD)では、2009年時点で、「まず生活習慣の改善とメトホルミンによる薬物療法」を行いましょう、という原則になっている。

それでダメだったときに、しかたなく、グリベンクラミド「以外の」SU剤、つまりアマリールを使った方が良いかもね、ということになっている。

グリベンクラミドは、2009年時点で、すでに欧米では、実質上、使用禁止だったようですね。私は薬に詳しくないので、本当は、もっと前から使用禁止だったかもしれません。

本件は、 問題の構造が、あのエイズ薬害と、まったく同じです。欧米で(実質?)禁止されてる薬剤が、なぜか日本だけで、白昼堂々と、無知な患者に投与されている点が、完全に同じです。

日大の医学部は、なぜエイズ薬害から、何も学んでいないんですか!?

これは是非、エイズ薬害の時と同様、日本中のマスコミに、鋭意報道いただきたいと思います。
2014/05/18(Sun) 17:16 | URL | はなもと | 【編集
Re: 日大医学部とエイズ薬害の共通点
はなもと さん

コメントありがとうございます。

実はオイグルコンは、製造メーカーも製造中止したいと思っているのに
一部の医師が使用しているために、
やむを得ず製造を続けているという、メーカーよりも処方する医師に問題のある藥なのです。
2014/05/18(Sun) 17:55 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 日大医学部とエイズ薬害の共通点
続きです。

さっき次のように申しましたが・・・

> 本件は、 問題の構造が、あのエイズ薬害と、まったく同じです。
> 欧米で(実質?)禁止されてる薬剤が、なぜか日本だけで、
> 白昼堂々と、無知な患者に投与されている点が、完全に同じです。

もしかして今回は、薬害エイズ事件の時「以上」に、悪質かもしれませんね。(問題の程度は別として、問題の構造としては)

なぜかというと、薬害エイズ事件で有罪になったのは、製薬会社3人、医師0人(高齢で死んだので時間切れ)、官庁1人でした。つまり責任の大半は、非加熱製剤を売っていた製薬会社にあった。

ところが今回、製薬会社は、新しくて安全なアマリールを売りたがっていて、古くて危険なグリベンクラミドを販売中止にしたがってるのに、医師側がグリベンクラミドを欲しがるので、しかたなく製薬会社はグリベンクラミド(オイグルコン)を売ってるそうですね。

  江部康二先生のブログ記事から
  http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-1836.html
  「実は、アマリールとオイグルコンは、販売メーカーはサノフィ・
   アベンティスで同一です。
    今回のオイグルコンが危険というお話しは、サノフィ・
   アベンティスのMRさんから伺いました。
    メーカーとしても、心筋への危険性がはっきりと証明
   されているオイグルコンは、販売中止したいのだそうです。
    それでも、処方するお医者さんがおられる以上は、
   供給せざるを得ないのだそうです。
    MRさんとしては、是非このことをブログに書いて欲しい
   とのことでした。」

やや意外にも(失礼)、今回、MRさんは善良じゃないですよね。ミドリ十字とは異なり。

要するに、エイズ薬害事件では
  ・悪徳医師が悪徳企業と組んで患者を騙してた
のに対し、今回は、
  ・悪徳医師が善良企業の意向も無視して患者を騙してる
という構造になってます。

そりゃ被害の「程度」ではエイズ薬害事件の方が上かもしれませんが、それは人数が違うだけで、問題の「構造」としては、上記下線部の通り、今回の

    「日大医学部グリベンクラミド事件」
    http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-2966.html

の方が、悪質と思います。
2014/05/18(Sun) 18:32 | URL | はなもと | 【編集
Re: 日大医学部事件とエイズ薬害事件の共通点と相違点
先生、

> メーカーよりも処方する医師に問題のある藥

ええ、そのようですね。さっき次のように申しましたが・・・

> 本件は、 問題の構造が、あのエイズ薬害と、まったく同じです。
> 欧米で(実質?)禁止されてる薬剤が、なぜか日本だけで、
> 白昼堂々と、無知な患者に投与されている点が、完全に同じです。

もしかして今回は、薬害エイズ事件の時「以上」に、悪質のようです。(問題の程度は別として、問題の構造としては)

なぜか。

薬害エイズ事件で有罪になったのは、製薬会社3人、医師0人(高齢で死んだので時間切れ)、官庁1人でした。つまり責任の大半は、非加熱製剤を売っていた製薬会社にあった。

ところが今回、製薬会社は、新しくて安全なアマリールを売りたがっていて、古くて危険なグリベンクラミドを販売中止にしたがってるのに、医師側がグリベンクラミドを欲しがるので、しかたなく製薬会社はグリベンクラミド(オイグルコン)を売ってるそうですね。

  江部康二先生のブログ記事から
  http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-1836.html
  「実は、アマリールとオイグルコンは、販売メーカーはサノフィ・
   アベンティスで同一です。
    今回のオイグルコンが危険というお話しは、サノフィ・
   アベンティスのMRさんから伺いました。
    メーカーとしても、心筋への危険性がはっきりと証明
   されているオイグルコンは、販売中止したいのだそうです。
    それでも、処方するお医者さんがおられる以上は、
   供給せざるを得ないのだそうです。
    MRさんとしては、是非このことをブログに書いて欲しい
   とのことでした。」

やや意外にも、今回、メーカーは良心的ですね、ミドリ十字と違って。

要するに、エイズ薬害事件では
  ・悪い医師が悪い企業と組んで患者を騙してた
のに対し、今回は、
  ・悪い医師が善い企業の意向も無視して患者を騙してる
という構造になってます。

そりゃ被害の「程度」ではエイズ薬害事件の方が上かもしれませんが、それは人数が違うだけで、問題の「構造」としては、上記下線部の通り、今回の

    「日大医学部グリベンクラミド事件」
    http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-2966.html

の方が、悪質と思います。

やはり、糖尿・腎症なら「日大病院はやめとけ」と言えそうですね。

次のリストから良医を選ぶべき、と思います。
  http://toushitsuseigen.or.jp/medical.html#institution

なお本件については、河合勝幸氏が素人向けに、2006年時点で解説済みでした。
  http://allabout.co.jp/gm/gc/300447/

いやしくも「大学病院」のはしくれたる日大病院が、こんなことも知らずに、どうするんだ!と思いますね。無能の極みです。零点。
   
2014/05/18(Sun) 20:20 | URL | はなもと | 【編集
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