インドの政権が10年ぶりに交代する。総選挙でナレンドラ・モディ氏の率いるインド人民党が地滑り的な勝利を収めた。

 投開票に大きな混乱はなく、敗れた与党国民会議派も淡々と結果を受け入れた。

 有権者数は8億人を超す。世界最大の民主主義国の面目躍如である。壮大な実践に、まずは敬意を表したい。

 モディ氏は西部グジャラート州の首相として、インフラ整備に剛腕を振るい、停電をなくした。日本をはじめ外資を積極誘致して州を発展させた。

 その手腕を開発と経済再生に生かして欲しい。そんな願いが人民党を押し上げた。

 この10年、政権を担った経済学者のマンモハン・シン首相も改革が期待された。しかし連立他党の抵抗もあって規制緩和は進まず、経済成長は減速した。政府の汚職も次々発覚した。

 国民会議派は、ネール初代首相のひ孫を選挙の顔に押し立てたが、結党以来の惨敗だった。政治王朝への批判もあり、立て直しは容易ではない。

 単独過半数を得たモディ氏は強い指導力が発揮できる。経済界は、大胆な規制緩和や官僚主義の打破を待ち望んでいる。

 成長を軌道に乗せ、その果実を国民全体に行き渡らせて欲しい。IT大国で人工衛星も飛ばす国でありながら、国民の6割はトイレも使えない状態にある。このいびつさを解消して、富を配分しなければならない。

 懸念もある。かつてヒンドゥー至上主義団体の幹部だったモディ氏は02年にグジャラート州内で起きた宗教暴動を放置し、イスラム教徒の虐殺を止めなかったと非難された。この件で、米国からは入国を拒まれた。

 インドには1億数千万人のイスラム教徒が住み、周りもイスラム国が多い。無用な摩擦を避け、テロなど突発事態にも冷静に対応することが求められる。

 モディ氏は外交の経験がほとんどなく、米中などとの信頼構築も今後の課題だ。

 インドは、カシミールの領有権問題で対立するパキスタンともども核兵器保有国でありながら、核不拡散条約(NPT)に加盟していない。

 モディ氏は選挙期間中、核兵器の先制不使用の方針を維持する考えを示したが、人民党は選挙マニフェストで「核ドクトリンの見直し」を掲げていた。

 日本はそのインドとの間で、原子力協定締結に向けた協議を進めている。巨大市場に目がくらんで、急ぐことがあってはならない。モディ政権に改めてNPT加盟を説く必要がある。