アップルとグーグルの米IT(情報技術)2強がスマートフォン(スマホ)を巡る特許訴訟で和解した。スマホ訴訟の乱発時代の転機になり得る和解だが、背景には特許戦略と自社製ソフト搭載機のシェア拡大の一石二鳥を狙うグーグルの深謀遠慮がある。
和解の背景には、特許戦略と自社製ソフト搭載機のシェア拡大の一石二鳥を狙うグーグルの深謀遠慮がある
グーグルは従来、特許訴訟で好戦的な姿勢をみせてきた。アップルとサムスン訴訟では、サムスン側の訴訟費用を負担したり、証人を出したりと協力を惜しまない。
だが、実は最近は、特許訴訟を減らすために静かに動いている。その一つが米上院で審議中の「パテントトロール」規制法案「イノベーション・アクト」。グーグルが昨年からロビー活動で強く支援している法案だ。
「特許の怪物」を意味するパテントトロールは、実際に製品やサービスを提供せず、訴訟自体を目的とする特許管理会社のこと。スマホなどIT分野でも猛威を振るっているが、最大の標的の一つになっているのがグーグルだ。昨年は72件もの訴訟をかかえた。
トロールを規制するための同法案は、特許侵害の主な説明責任を原告側に負わせる、敗訴すれば訴訟費用を負担させるなど純粋な賠償金狙いの裁判を仕掛ける側に不利な仕組みが盛り込まれている。訴訟合戦ではなく、適正な使用料による特許の利用を促すべきだとの考えが背景にある。
グーグルも、そうした趣旨の意見書を他社も巻き込んで司法省に提出するなどして働き掛けている。今回のアップルとの和解には、「対決より共存を」という姿勢を明確に示す狙いがあるとみられる。
グーグルは米モトローラ買収やIBMからの特許買収で保有特許が5万件以上に達している。今年に入り、さらにサムスンや米シスコシステムズと相次ぎ特許の共同利用契約を結んだ。審議は難航しているものの、対パテントトロール法案が成立すれば、特許訴訟のリスクは大きく下がる。
そして、それは同時に「アップル封じ込め」戦略にもつながる。こうした特許の有効利用の流れの恩恵をもっとも受けるのは、グーグルのソフトを採用している中国などの後発新興メーカーとみられるからだ。
体力で劣る新興メーカーにとっては、自社製品が特許訴訟の対象になるのは大きなリスク。特許利用のハードルが下がれば、低コストで技術力を効率よく上げられる。スマホやタブレット(多機能携帯端末)の一段の価格破壊を誘発する可能性が高く、新興国でグーグル製ソフトの搭載機の普及を後押しするとみられる。
グーグルが和解に動いたことで、スマホ訴訟で残された最大案件はアップルと韓国サムスン電子の対決となる。だが、同じアンドロイド陣営とはいえ、新興メーカーが台頭すればサムスンにも打撃。訴訟がどちらに転んでも「勝者」になれるよう、グーグルは周到に手を打っている。
(シリコンバレー=兼松雄一郎)
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