ごみ屋敷に住みたくて住む人なんていない ~ごみ屋敷禁止法案のバカらしさ~

藤田孝典 | NPO法人ほっとプラス代表理事、社会福祉士

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日本維新、みんな、結い、生活の野党4党は16日、自宅にため込まれた廃棄物の除去を自治体が働き掛ける「ごみ屋敷禁止法案」を衆院に提出した。

出典:産経新聞

産経新聞などは「ごみ屋敷禁止法案」と報道している。

ごみ屋敷になってしまうことを防ぐ「防止法案」なら、まだ理解できるが、禁止とはどういうことか。

おそらく政治家たちは「住人がごみを溜めて不衛生で危険なところに住みたいと思っている」のだと本気で信じているのだろう。

常識を疑う法案だ。

ごみ屋敷を引き起こすのは社会的孤立と社会的排除

「止めなさい。罰金ですよ」と言ってやめられたらこんな簡単なことはない。

ごみを溜め込む原因をこれだと見極めるのは難しい。

溜め込む本人もわからないことが多いだろう。

ごみ屋敷の住人自身、「どうしたらいいかわからない」のが現実なのだ。

常識的に考えれば、不衛生で危険なところに住みたいと思う人はいない。

ごみを溜め込んでしまう人の置かれた状況を丁寧に見ると、そこにはさまざまな事情が見えてくる。

例えば経済的困窮。

生活がカツカツで身の回りの衛生状態に気が回らない。

生きる気力が奪われている。

使えそうなものを拾って生活の足しにしようとしている、などが考えられる。

ほかにも、配偶者との死別、子どもとの不和、近隣住民とのいさかいなどによる不安や寂しさ、孤独感が、捨てられた物へのあわれみの気持ちを持たせ、収集に向かわせていることもある。

あるいは、認知症の初期症状として、大切なものとそうでないものの区別がつかなくなっている。

病気や怪我をきっかけとした生活力の低下でごみが出せなくなった、精神疾患で身の回りのことができないなども考えられる。

わたしが所属するNPO法人ほっとプラスには、そのようなごみ屋敷の住人や地域住民から相談が舞い込んでくる。

普通に考えれば、不衛生で危険な所に住みたい人はいない。

少し想像力を働かせれば、その人の持つ背景が、ごみ屋敷化になんらかの影響を及ぼしているのは想像できる。

認知症で一人暮らしが寂しいため猫を多数飼っているおばあちゃん。

精神疾患を発症し、幻聴が聞こえ、コミュニケーションに困難を抱えるおじちゃん。

母親の死をきっかけに孤立した軽度知的障害があるお兄ちゃん。

そのような、わたしが関わった具体的な人間像が思い出される。

そして、ごみ屋敷の住人の多くは、「セルフネグレクト」という要支援の状況で発見される。

衛生管理や食事管理、金銭管理、コミュニケーションなどに困難があり、適切な日常生活が送れないことを示している。

セルフネグレクトの定義は『成人が通常の生活を維持するために必要な行為を行う意欲・能力を喪失し、自己の健康・安全を損なうこと』である。

もちろん、こうした背景があれば、すべてごみ屋敷に直結するわけではない。

価値観なども関係するかもしれない。ただし、これだ!という原因を特定することはそれほど重要ではない。

大切なのは、ごみ屋敷で生活することは不衛生で危険であり、その人の尊厳をそこなう行為である。

より快適で人間らしい生活ができるよう、一緒に考え、行動していくことが大事だ。

そのために何より大切なことが、その人の心の動きを理解しようとする姿勢を持ち、信頼関係を構築していくこと。

例え、強制的な手段で介入し、ごみを片付けたとしても、すぐにまたごみを溜めてしまうのだ。

このことは高齢者や地域課題にかかわる行政、福祉関係者の方なら多かれ少なかれ知っていることだと思う。

また情報があふれる現代では、インターネットで「ごみ屋敷」と検索すれば、「なぜごみ屋敷になってしまうの?」「ごみ屋敷にしてしまう人の心理は?」と言ったQ&Aも少なくない。

三つほど読めば、上記に書いたようなことはだいたい分かってくる。

少なくとも「やめろ」「罰金だぞ」と言って止められる行為でないことは、小学生でも分かるに違いない。

行政や福祉の現場で働く人に話を聞けば、よりいっそう分かる。

しかも、政治家が働く国会のある身近な東京都内では、ごみ屋敷のごみ処分に、行政が100万円までの処理費用を出す条例を持つ東京都足立区がある。

無理やり撤去するのではなく、行政職員が何度も訪問しては、地道に信頼関係を構築し、ごみを溜めてしまった本人とともに少しずつ片付けて行く方法で成果をあげている。

政治家は、一般の人たちが持つさまざまな意見に耳を傾け、最善の策を講じるために立法することを仕事とする人々だ。

それが、「自分でごみを集めてきているのだから、好きでごみ屋敷に住んでいるのだろう」と安易でバカげた発想をもとにしたとしか思えない、こんな法案を作ったことに驚きを禁じ得ない。

こんなバカげた法案を出すのはやめて、まずは一度、ごみ屋敷を訪れて、住人の方に話しかけてみてほしい。

そして、「あなたが清潔で安全な暮らしを送るために何を手伝ったらいいですか?」と一緒に考えてほしい。

罰則は必要ない。法案は一度取り下げ、再検討すべきだ。

では、ごみ屋敷の住人とどう接したらよいのだろうか。

例えば、住人が高齢者であれば、お住まいの地域包括支援センター、社会福祉協議会、役所の高齢福祉課に連絡を入れてほしい。

また、何らかの障害が疑われる場合は、お住まいの障害者生活支援センター、役所の障害福祉課へ連絡してほしい。

犬や猫が大量に飼育されている場合は、保健所や動物保護団体などへ相談し、一緒に解決策を模索してほしい。

「とんでもないヤツだから関わらない」ではなく、「少しでもいいから解決策に向けて一緒に取り組む」ことが大事だといえる。

皆さんだけでは難しい。ぜひ多くの福祉関係者を巻き込んで、解決策を講じていただきたい。

藤田孝典

NPO法人ほっとプラス代表理事、社会福祉士

1982年生まれ。埼玉県越谷市在住。社会福祉士。首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する活動と提言を行う。NPO法人ほっとプラス代表理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。著書に『ひとりも殺させない』『反貧困のソーシャルワーク実践』など。

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