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 宇宙飛行士若田光一さんが日本人初の船長を務めた国際宇宙ステーション(ISS)の視界が、急速に悪くなってきた。

 ウクライナを巡る米ロ対立が波及し、ロシアが2020年でISSへの協力打ち切りを示唆したからだ。24年までの運用延長という米提案を拒むものだ。

 巨費と長い年月をかけて建設されたISSは、あと14年で寿命とされる。最後は解体して大気圏に落とし燃え尽きさせる計画だが、それまでの維持もお金がかかる。何より飛行士を運ぶのがソユーズ宇宙船だから、ロシア抜きでは立ちゆかない。

 何のためにいつまで運用を続けるか。ISSの後の宇宙開発の姿も思い描きながら、国際的な議論を積み重ねるしかない。

 ISSには米国とロシア、欧州11カ国、日本、カナダの計15カ国が参加している。地上400キロの高さに浮くサッカー競技場ほどの建造物だ。

 事業費は当初約4兆円と見込まれたが、建設が遅れたことなどで2倍に膨らんだ。

 日本も実験棟「きぼう」の提供などで1割に当たる8千億円を投じ、現在も資材運搬などで年間約400億円を運用に費やしている。宇宙開発予算のざっと1割強だ。

 ISSの評価は難しい。

 無重量状態を利用して新素材をつくる実験などは、やや期待外れだ。他方、宇宙に巨大な構造物を造る工学的挑戦や、宇宙長期滞在での人体への影響を調べる医学的研究には最適だ。

 国際政治上の意味も大きい。

 東西冷戦中に西側の団結を誇示するものとして米国が構想したが、冷戦終結で米ロ融和の象徴となり、近年では「ノーベル平和賞に推薦できないか」といった声もあがっていた。

 ウクライナ問題で米ロの宇宙協力がほぼ止まっても、ISSだけは例外扱いだった。

 それが正念場を迎えている。

 米ロには「月や火星への有人基地という次の目標に、早く向かいたい」という本音がある。

 そうしたISS後の国際協力には、独自路線を歩んできた中国も関心を示している。

 米ロ対立が続けば、ロシアと中国が組み、新冷戦的な枠組みが宇宙に持ち込まれかねない。

 財政難や格差拡大に悩む各国が単独で進出するには、宇宙は広大すぎる。地上の争いや対立を超えねばならない。

 ISSは、費用対効果を見ながら寿命間際まで使い続け、国際協力を深める。そして、次の段階では中国なども巻き込み、人類全体で宇宙に踏み出していく。そんな絵を描けないか。